体を刺すような寒さを感じる今日この頃。なんだか体が重くなっていませんか? 寒さで体をぎゅっとまるめると、おまけに心もちょっぴり縮こまってしまったような感じもするかもしれません。
She isでは12月の特集「それぞれのヘルシー」のギフトでお送りするオリジナルプロダクトとして、シンガーソングライターの湯川潮音さんと、お腹まわりを温かく包むオーバーパンツ「五線紙パンツ」をつくりました。
湯川さんは今年3月に初めてお子さんを出産。女性特有の病気を患っていたという湯川さんは、体調改善のためさまざまな健康法を学び実践し、妊娠・出産、そして産後の今も自分のペースで体と心の健康を意識して暮らしています。そんな湯川さんに、歌にも大きな影響を及ぼしたという妊娠・出産について、そして湯川さんが考える健康と「五線紙パンツ」に込めた思いを聞きました。
後編「シャットダウンする勇気も大事。湯川潮音の自分なりのヘルシー術」 ※She is Members限定記事
妊娠後は、ひとつの音を唄っていることに対する感覚や、いつも聴いているまわりの音が全然違った。
今年3月に初めて出産という経験をした湯川さん。「妊娠中は体調にすごく大きな変化がありました」と、妊娠から出産にかけての体の変化がとても神秘的だったことを語ります。
湯川:妊娠中にライブをすることが何度かあって、爆音のなかで唄ったりしていたんですけど、いつもと同じように唄っていても、感覚が動物的にすごく鋭くなっていて。ひとつの音を唄っていることに対する感覚が変わって、いつも聴いているまわりの音も全然違うように感じられたんです。
逆に、簡単な計算とか、漢字を書くとか、細かいことが一切できなくなりました。自分の住所すらも思い出して書けなかったんですよね(笑)。出産前に長く入院していたこともあったせいか、出産後にパッと外に出たら「空気ってこんなに匂いがするの?」「光ってこんなに眩しいっけ?」って本当に生まれたての感覚みたいに感じられてすごく新鮮でした。
妊娠中や出産直後は普段意識すらしなかった感覚も新鮮に感じられていたという湯川さん。出産後の今は「日常に戻るとどんどんその感覚が薄れていっています」と話しますが、今も変化の途中にある自身の体や感覚を楽しんでいると続けます。
湯川:こういう感覚を感じられる時間は短いだろうから楽しもうと思って身を任せていました。できなくなることも多かったですけど、そのぶんこれまでにない感覚のなかにいられました。すごく不思議な感じですよ。歌をつくるときに歌詞を考えてからつくることもあるんですけど、妊娠中は歌詞を考えることが一切できなくなってしまって、メロディーばかり考えていました。
歌のつくりかたが一変した湯川さんですが、今年発売された子守唄集『わたしの子守唄』もそんな変化のなかで生まれたといいます。
湯川:子どもをあやしているときに手がふさがってしまって、あとはもう唄うしかない、という状況でできた曲たちを集めたんです。ふだん歌詞とメロディーが一緒にできることってあまりないんですけど、子守唄を唄っているなかで「めちゃめちゃ何曲もつくっている!」っていうことに気づいて、せっかくなので残しておこうと思って。
気づいたら、私の母も赤ちゃんをあやしているときに自分でつくった歌を唄っているし、お母さんたちってみんなそれぞれオリジナルの子守唄を唄っているんだと思います。
湯川潮音『わたしの子守唄』(サイトを見る)
より野生的な自分を体感することができたので、今はすごく歌が楽しい。
妊娠中の動物的な鋭い感覚は薄れてきているそうですが、「まだちょっと、その浮遊の続きにいるんです」と湯川さん。自身の体と歌の関係を見つめて言葉を続けます。
湯川:今はまだ歌詞を考えるより、ギターを弾いて歌を口ずさむほうが楽なモードです。なにか言いたいことや世の中に発信したいメッセージみたいなものがあるというより、もう少し内に向いている感じで。もう少し子どもが大きくなったら、私と子どもはそれぞれ別々に世界を見るようになると思うけど、今はまだ自分の体の一部みたいな感覚があるんです。だって、何か月か前まで私のなかにいたんだよね、って。
そんな子どもがどんどん人間っぽくなっていくから不思議です。ちょっとずつ似ている部分が出てきたりすると、「やっぱり産んだんだな」って実感します。そういうことを確かめている最中だから、まだなにかを歌詞にするほど気持ちがまとまっていないんですよね。
小学生の頃、東京少年少女合唱隊で唄っていたという湯川さん。以前、自身の歌と声について「本来持っているものを飾りつけずにそのまま100%出せるようにということを、合唱隊時代に教えてもらった」と語っていました。目の前にお客さんがいるライブという場所では「見られているからこうしよう」と思い、飾りつける意識がゼロにはならないことに悩んでいたとこぼします。「どうやって無にするかがずっと課題です」と話す湯川さんですが、子守唄の生まれかたは、湯川さんの目指す歌の姿に近いのかもしれません。
湯川:声を出すにしても、自分が持っている声をそのまま出すということがどれだけ難しいかっていうことが、大人になるにつれてわかってきて。ぜったいみんなちょっと良く見せようとか頭で考えてしまうじゃないですか。それをしない声、歌っていうのはどういうものかなっていうのをずっと考えていたんです。
でも、子どもを産むということを体験して、より野生的な自分を体感することができたので、今はすごく歌が楽しいし、気持ちがドシンと落ち着いている状態なので、本来の声というものに少し近づけたかなと思っているところです。
出産前の2017年に「sione」名義でリリースしたアルバム『ode』では声と唄を中心にした歌詞のない楽曲を発表
ひとりの人間として、そしてアーティストとしても大きな転換点となった妊娠・出産。歌をつくっていくときにも「出産する」という感覚があるそうですが、出産という経験を体で感じられたことはすごく大きかったと振り返ります。実際に体にはどのような変化があったのでしょうか?
湯川:つわりはなかったんですけど、妊娠中にいろいろ病気にかかったりもして。お腹が大きくなりすぎて胃が圧迫されてしまったり、すごく暴れる子だったので、胎動が痛くて眠れなかったり、もう体調の変化だらけでした。だから、妊娠中の食事とかに関してはちょっと考える余裕がなくて。とにかく食べたいと思うものを食べるっていうことに集中していました。
めまぐるしく体調が変わっていく妊娠中はストレスのないように過ごしていた湯川さんですが、妊娠前はかなり健康面に気を遣っていたと話します。
湯川:子どもがほしいなとしばらく思っていたのですが、婦人科系の持病があったので悩んでいて。その治療もかねて体を整えようと、鍼治療や漢方などをやっていました。
そんななか、3、4年前に手術をした病気が再発してしまったんです。このままだったら子宮を取らないといけない、ということになって、「子宮を取るんだったら妊娠してみたい!」と思って。崖っぷちだったので、そこでガラッとマインドを変えました。でも病気のせいで体調も悪いし、自分のペースで食事を工夫したり、体を温めたりしていました。
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