She isの1月の特集テーマは「ハロー、運命」。運命の人、運命の出会い、運命のわかれみち……運命と聞くと、どこか抗えないものであるように聞こえるかもしれませんが、一方で「運命を切り開く」など、自分の判断や勘、決定が運命を左右することもあります。流れを受け入れること、そして自分で選ぶこと、その両方をどう編み上げていくかがひとりひとりの運命になっていくならば、今この瞬間のひとつひとつの判断が、その人の人生をその人らしく運んでいくのでしょう。
松井玲奈さん、27歳、役者。現在はNHK朝の連続ドラマ小説『まんぷく』に出演、映画『21世紀の女の子』の坂本ユカリ監督作『reborn』では主演をつとめる彼女は、役者として精力的に活動する傍ら、『小説すばる』で小説家としてもデビュー。一見華やかな階段を順調に上っているようにも思えますが、アイドル時代から彼女を見ているいちファンからすれば、松井さんは奇跡ではなく自身の手で「運命」を掴み取ってきた人だと感じます。運を味方につけようと自ら動くこともあれば、運に身を任せることも積極的におこなってきたという松井さんのまっすぐなまなざしには、曖昧で目に見えない言葉に怯えるのではなく、やりたいことや行きたい場所に辿り着くため、ものごとを幸運な方向へと自ら運ぶヒントが光っていました。
アイドル時代は、自分から運を掴みに行くことが必要だった。
ーオタク気質な読書家で、芸能界に入る前は「普通のとっても地味でさえない女の子」だったとご自身でおっしゃっている松井さんですが、その静けさと相反して、言動には「ストイックさ」を感じます。
たとえば、アイドル時代の「自分が輝ける場所をつくれれば、それでいい」という発言や、先日の『東京国際映画祭』で『21世紀の女の子』チームがレッドカーペットを歩かれる際には、直前までレッドカーペットの隅で本を読まれていて。
松井:あはは(笑)。見られていたなんて恥ずかしい。どうしてもその本が読みたかったんです。
ードラマや映画など出演作が続き順調に見えますが、それは偶然ではなく、自らの力で「運命」を掴み取っている印象を受けます。ご自身ではどう思いますか?
松井:どうなんでしょう……。「あれもしたい、これもしたい」と思うタイプなので、やりたいことに向かって自分ができることは精一杯やろう、と動く性格だとは思います。それこそアイドル時代は、自分で運命を掴みに行く、という感覚がありました。「どうしたらもっと魅力的に思ってもらえるだろう? やりたいことができるだろう? 」と現実的な方法を考えて自分で動かなきゃいけなかった。
直接コミュニケーションをとれることが大きいと思うんですけど、アイドルって応援してくださる方との距離感をつくっていくことが大事なんです。一方で今いる環境は、自分が努力するだけではどうにもならないことも多い。人と人との巡り合わせの中で生まれた仕事が多い印象はあります。もちろん、自分で働きかけることもありますが、不思議なご縁でつながることも多いですね。
ー作品や役と「巡り合う」感覚なんですね。
松井:不思議なのが、いただいた役はそのときの自分に必要な役柄であることが多いんです。思い悩んでいるときにはグッと入り込む内省的な役だったり、エネルギーを発散すべきときにはすごく前向きな役だったり。考えていたことの答えを役に教えてもらうこともあって、「ああ、これは今私がやるべき役だな」と思います。
ー偶然のようですが、あえて意味を考えると、役が「やってくる」のはどうしてだと思いますか?
松井:うーん……思い込みはあると思います。気がついていなかった自分の中の扉が、役をきっかけに開かれるような。役と向き合っているうちに、もうひとりの自分が表れる感覚がありますね。
出会うべき人とは出会うし、離れる人とは離れる。
ー松井さんは今回、山戸結希監督プロデュースのオムニバス映画『21世紀の女の子』の坂本ユカリ監督作『reborn』で主演をつとめられています。参加しようと思われた理由は?
松井:地元・愛知県豊橋市の『とよはし映画祭』でアンバサダーをつとめているのですが、そこに参加されていた監督さんが、「長編映画を撮るのは大変だけど短編映画なら撮るハードルが下がるから、短編を集めた長編が上映できれば、いろんな人が撮る機会が増える」とおっしゃっていて、こういう機会は映画界にとっていいことなんだと思いました。
そのときに『21世紀の女の子』の話をうかがって、以前にも同世代の女性監督と映画を撮った際に共有できることが多くておもしろかったので、ぜひ参加したいとオーディションを受けたんです。
ー参加されてみていかがでしたか?
松井:「女性が監督だから」ということは関係なく、ただこの作品にかける監督の思いの強さをとても感じて、私もそれに応えたい一心でした。撮影の日に雨が降ってしまって、ラストは本当は雨のシーンの予定ではなかったのですが、どうしてもその日に撮り終えなきゃいけなかったので、ギリギリまで監督がセリフを変えられていて。小さい身体で台本もびしょびしょになりながら精一杯私たちに思いを伝えてくれる姿に、映画づくりの素敵さをあらためて感じましたし、もっといろんな現場に行きたいと思いました。
ー物語は、女子大生の主人公が彼との関係を見つめながら、不安や揺らぎを表出させていくお話。モノローグも多く詩的な作品で、彼女の惑いを演じることで松井さんのどんな扉が開かれましたか?
松井:私が演じたのは、ひとりでいることとの向き合い方がまだ不器用な女の子。一番共感したのは、どうしようもない気持ちが常にあって、親など身近な人に話しても自分が抱えているほど深刻には受け止めてもらえず、流されてしまうことに孤独感を感じる。その孤独感の強さは学生時代の自分と似ていて、タイムスリップした感覚がありました。
ー松井さんも学生時代は孤独を感じていたのですか?
松井:ひとりで殻の中にこもっているような女の子でした。寄ってきてくれる人がいても跳ね返してしまい、辛い方へ辛い方へと気持ちが向かってしまう。でも、ひとりになると「そんな風にしなきゃよかった」って別の感情が湧き出てくるんです。
ー劇中「半分」というキーワードが出てきますが、彼女はどこに存在していて何を見ているのか、ずっと曖昧な状態でしたよね。その姿は孤独であり、どこか学生時代の松井さんと重なるのかもしれません。
松井:「本当は、私はどこにいたいのだろう? 」と探している途中の感じが、学生時代の私とよく似ていました。しょうがないから学校に行くけれど、別に学校にいたいわけではなくて。「やりたいことは別にあるのにどうしてここにいるんだろう? 」と、周りの子とは違う空間に生きている違和感のようなものがずっとあったんです。
ー周りと馴染めない孤独感ってありますよね。でも、結局自分の気持ちに嘘をつくのも苦しいし、無理に馴染もうとする窮屈さを抱えている人は多いように感じます。そういうときは、どう過ごすのが正解だと松井さんは思われますか?
松井:どうでしょう……私はやり過ごしていましたけど(笑)。性格的に、周りと自分の考えが違うことに関しては「しょうがない」と諦められるタイプ。どうしても相容れないものとは無理に交わろうとしませんし、自分が本当にやりたいことや行きたい場所に行くにはどうしたらいいのか常に考えていました。
学生の頃って、誰かと一緒にいないと不安な人が多いと思うんですけど、私はそういうのが全然なかったんです。学校ではひとりひとり同じ机があてがわれているように、私は私という枠の中だけで生きようって思っていました。
ー松井さんのように強く在れることは理想でもありますが、きっと勇気がいることですよね。
松井:中学生の頃からインターネットがあったことは大きいと思います。実世界ではないところで同じ感覚の人と出会えて、好きなことを共有できるから、リアルでつながる必然性が薄かったんです。
あと、絶対仲良くならなさそうな人と何かのきっかけで仲良くなったことがあって。無理に友だちをつくらなくても、自然の流れに身を任せていれば出会うべき人には出会うし、離れる人とは離れるのかなと思っていました。
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