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山内マリコと考える自己肯定感の高め方。あたしたちよくやってる

山内マリコと考える自己肯定感の高め方。あたしたちよくやってる

20代がピークではない、30代から楽になる女性の生き方

2019年3・4月 特集:夢の時間
インタビュー・テキスト:野村由芽 撮影:石田真澄
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何もせずに歳をとるよりかは、その時々の気持ちや悩みや疑問にちゃんと向き合って考えていた人ほど、楽になれるんじゃないかな。

ーこの本には「何かになりたい」という自我との葛藤はもちろん、その先の年齢で訪れる「何かを得てしまったことへの葛藤」も描かれていたのが印象的でした。

「20代は旅」と書かれているように、裏を返せば旅には「自由」があるということでもありますよね。すでに何か得てしまった人の、ちょっとした息苦しさみたいなものが描かれていたのが、すごく魅力的だなと感じたんです。

山内:20代で新人賞をとったあと、長いことデビューできなくて、腐ってる自分が、自分。みたいに思ってたので、やっと作家になれても、なかなかマインドセットを更新できなくて。20代の価値観から脱却するための時間は、それなりにかかりました。あんなにつらいと思ってたのに、終わってしまった20代というのは、すごくキラキラして見えるものなんですね。

だけど……やっぱり、30代はすごく楽! 悶々としていた時間が長かった分、仕事ができることに喜びも感じるし。いい小説を書きたいっていう気持ちは強いのですが、「作家として立派にならなきゃ」「偉くなりたい」「賞とりたい」みたいなのはなくて。今後も超気楽にやりたいですね。

ー超気楽に……! いいですね。まわりの目を気にしたり、自分を大きく見せようとしたり、あるいは責任感が強かったりすると、「立派にやらなきゃ」と思ってしまいそうにもなるなかで、山内さんがそう思わないでいられるのはどうしてですか?

山内:身の丈がわかってきたから、ですかね。いまの自分が、自分の器にはちょうどいいので、これ以上を望んでいないのかも。自分じゃないものに憧れていた時間が長かったからこそ、もう自分じゃないものになりたがったりしなくて済んでいる。素晴らしく楽です。己を知るのは何より大切ですね。

ーそう考えると、「あたしたちよくやってる」って自分を肯定できる状態になれれば、すごく楽に、健やかになれそうですよね。でも、なかなかそれって難しい。自己肯定感をどういうふうにしたら高めていけるんだろうって思うんです。

山内:ああ、難しいですよね。「承認欲求」ってたしかもともとは、心理学や社会学の特殊な用語だったと思うんだけど、そういう言葉が飛び交っていますもんね。私が10代から20代の頃は、「自分探し」が流行していた時代で、あれはあれで悩ましかったけど、こんな専門的な言葉を持ち出してまで自我を追求しなきゃいけないいまの時代も、なかなか大変ですね。どの時代に若者をやるかで、苦労の種類も変わってくるというか。人格も、時代の気分や社会の状況に大いに左右されますよね。

ー「自分探し」はどちらかというと目線が内面に向かっていて、「承認欲求」は外側に向いている。その変化はなんだか興味深いですね。

山内:私たちの頃はSNSがなかったから。バックパックを背負って世界中に飛び出して、過酷な経験から自分を探さなきゃいけなかった。まあ、私は部屋で悶々としてただけですが(笑)。いまは若者が、SNSの言葉や写真を通じて、自分をどう見せるか、もがいていますよね。自分を探してるっていうか、スマホの中に自分を「つくってる」感じ。

ーそんななかで、どうしたら自己肯定感を高められますかね……。

山内:それ、20代の私も知りたがってた(笑)。結局、歳を重ねたら、自然とこの問題は解決していくんだけれども、ただ何もせずに歳をとるよりかは、その時々の気持ちや悩みや疑問……いまみたいに「どうしたら自己肯定感が高まるんだろう」ということに、その都度ちゃんと向き合って、しっかり悩んで、考えていた人ほど、そのあと楽になれるんじゃないかなと思いますね。何も考えず状況に流されたり、自分に嘘をついて逃げたりしていると、歳はとるほどに苦しくなっていくし、後悔がつのるんじゃないかな。やっぱり近道とかはないんですよ。私も次のタームに備えて、しっかりいまの問題を考えて、悩んで、自分で選びとっていきたいと思います。

嫉妬心は、自分自身にとってダメージですから。乗っかって、分断されるのはもうやめにしましょうと。

ーたしかに自分を知る過程として、そのときの状況にたいしてたくさん問うということが、自分自身も楽にするし、結果的に世のなかのことも知れるということなのかもしれませんね。

山内:人を羨ましいって思うこともあるけど、それもまた自分を知る手がかりですよね。たとえばTwitterで、「どこどこに行った」みたいなのを見ると、キーッて、鬼の形相でガン見してることがあります(苦笑)。私、日銭を稼ぐのに忙しいから(笑)、思うように外出できない日もけっこうあって。

でも、こんなにキーッとなるってことは、その「どこどこ」に自分も行きたいってことなんですね。SNSはほんと、欲望を映す鏡みたいになってて。でもそんなときは、「だれが選んでくれたんでもない、自分で歩き出した道ですもの」という、杉村春子の名台詞を念じて乗り切ってます(笑)。いまのこの執筆に忙しい毎日は、少なくとも、20代の自分が願っていた状況なわけですから。

ー自己肯定感というのは、まわりと比べずに、自分を見つめるということでもあると思います。嫉妬という感情とどう向き合うか? というヒントも、いまの言葉にありそうですね。

山内:私がキーッと思った人だって、いつも100%幸せで、高笑いが止まらないわけじゃない(笑)。違う立場の人には、違う種類の苦労があるわけで。だから、誰のこともそんなに妬む必要はないんですよね。嫉妬心は、とくに女性が克服すべき問題かも。立場の違う女性と比較されても、彼女は彼女、自分は自分、「比べないで」と、自信を持つ。なにより嫉妬心は、自分自身にとってダメージですから。乗っかって、分断されるのはもうやめにしましょうと。

煽られても、自分とその人を、敵対させないようにしなくては、と思いますね。あと、一緒にいることがストレスになるようなら、その人とは離れてもいいんですよ。そうすると友達はどんどん減るけど、私はそれでいいと思っています。「選んだ孤独はよい孤独」です(笑)。

ー『われらのパリジェンヌ』の話のなかにも、いつの間にか定例化したランチ会の漫然とした様子を描くくだりがありましたよね。

山内:私は気が合う人がすごく少なくて、友達コミュニティみたいなものに属してないんです。たまに少数精鋭の友達と話していると、みんなすごく、グループづきあいしているメンバーにもやもやしてて(笑)。そういうつき合いも大変だなーと思ってました。

どういう人間関係が好みかも、人それぞれですよね。人に囲まれてるのが好き、グループでわいわいするのが好きって人は、そういう人脈をつくればいいし、そうでない私みたいなタイプは、しっぽりできる相手を見つけたら大事にする。人間関係にも向き不向きがあるから、一概に定例ランチをけなすつもりはないんだけど……。

でも、自分のコアな部分を、そこまで大切ではない人に話してしまったときって、なんだか少し傷ついてしまう感覚がありませんか? 本当に自分のことを打ち明けられる少数の人に、自分の大事な部分は打ち明ければいいし、そういう人との会話の中で、些細な悩みは笑い飛ばせばいい。それができるかどうか、できる相手がいるかどうかで、生きやすさというのは、すごく変わってくるんじゃないかな。

PROFILE

山内マリコ

1980年富山県生まれ。大阪芸術大学映像学科卒。2008年「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞し、 2012年『ここは退屈迎えに来て』 でデビュー。 主な著書に『アズミ・ハルコは行方不明』『あのこは貴族』『選んだ孤独はよい孤独』 などがある。雑誌「CLASSY.」で小説『ふたりは一心同体だった』を連載中。

INFORMATION

書籍情報
書籍情報
『あたしたちよくやってる』
著者:山内マリコ

2019年3月14日(木)発売
価格:1,620円(税込)
発行:幻冬舎
Amazon

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