「自分探し、みたいなことですか?」「いや、むしろ探したくないんです。どうやったって、自分の行動で自分は生きていかなくちゃいけないですから。探さなくたって、嫌でもここにいますから」。これは、2008年に公開された映画『百万円と苦虫女』の主人公・鈴子の言葉。ロードムービーでありながら「自分探し」という名目で自分を「自分めいたもの」に固定しない生き方を撮ったタナダユキ監督と、鈴子を演じた蒼井優さんが、約12年ぶりにタッグを組み、映画『ロマンスドール』を完成させました。
高橋一生さん演じるラブドール職人である夫・哲推の嘘と、蒼井優さん演じる秘密を抱えた妻・園子の10年の結婚生活。スタートすると当時に、終わりがはじまる人生のなかで、わたしたちは誰と、どんなふうに関係を結び、なにを大切なものとして日々にのこしていくのかが、この作品には描かれています。
「12年この世界で生き延びた」と感慨深く語る二人が、好きな仕事でありながらときにつらさや苦しみに向き合い、自分の信じるものを大切にして、さまざまな人に出会い、そして再びタッグを組んでつくりあげたこの作品は、お互いの選択の軌跡だとも思います。『ロマンスドール』のお話と重ね合わせながら、二人の人生に起きた仕事の変化、結婚観、幸せの追求について、聞きました。
今だったら映画化できるのかなと。そう思ったときに、はじめに褒めてくれた蒼井さんが浮かんで。(タナダ)
ー『ロマンスドール』では「結婚」や「夫婦のあり方」そして「共に生きること、そして死ぬこと」とはなにかということが、ときほぐされていく感覚がありました。今日は映画の話から、お二人が考える「結婚」や「夫婦」についてもお話をうかがえたらと思っています。まずは少しShe is の説明からさせていただけたらと……。
蒼井:She is 知っていますよ。
ーあ、ほんとうですか……!
蒼井:わたしが好きな和田彩花さんのインタビュー(和田彩花は女でありアイドルだ。アイドルとして女性のあり方を問う覚悟)が掲載されていましたよね。
ーそうなんです。She is では、世の中から「こうしなくちゃいけない」「こうあるべき」とされていることを「本当にそうなのかな?」と問うていけたらと思っていて。今日のお話の中で、これはちょっと答えるのが難しい……ということは、もちろんおっしゃっていただいてかまいません。
今回、タナダ監督と蒼井さんは『百万円と苦虫女』(2008年)ぶりのタッグで、このお二人がご一緒されることをすごく嬉しいって思っている人がたくさんいるんじゃないなと思っていて。今回、どうして12年ぶりに蒼井優さんにオファーしたのか、蒼井さんはどう感じたのかというところからうかがえたら嬉しいです。
タナダ:原作となる小説が出たのが2009年(連載開始は2008年)だったのですが、蒼井さんがすぐ読んでくれて。読んでもらえて嬉しかったのですが、一方で申し訳ないなという気持ちもあり……(笑)。
蒼井:なんでですか?
タナダ:話の内容的に、大丈夫かなって。蒼井さんは当時20代前半だったこともあって。でもそのときに褒めていただいたんですよね。小説を書いたときには映画にするつもりはなかったんですけど、時が流れて、ちょこちょこいろいろな人に「あれ映画化しないんですか?」って聞かれて、「やっていいんだ」っていう(笑)。
だんだんラブドールというものの認知もあがってきて、ラブドールの展示会には長蛇の列ができたりもしていたんです。展示会に来ていたお客さんはアダルト商品ということをわかっていながら、けれどそれを越えた「美しい造形物」として見ている方が本当に多い印象で、今だったら映画化できるのかなと。そう思ったときに、はじめに褒めてくれた蒼井さんが浮かんで。
ー一番最初だったんですか?
タナダ:一番最初でした。
ーああ、それはすごく嬉しいことですね。
タナダ:誰も読んでないだろうと思っていた小説だったので、言葉をかけてくれたのは嬉しかったです。それにやっぱり演技の面でも、園子の持っている清楚な部分や、凛としているところ、あとは人間的なダメさも演じられるという意味でも、俳優として一番最初に聞いてみたいなと思っていました。ただ、内容が内容なので、断られるだろうな……という前提でいったら、「やります」「やるんだ!?」って(笑)。びっくりしました。
蒼井:なんの心配もなかったですね。一度ご一緒した監督とまたご一緒できるっていうのは本当に嬉しいことなんです。自分の変化を知れるという意味でも、キャリアを俯瞰で見ることができた貴重な体験になりました。もともと『ロマンスドール』という小説が好きで、わたしはもう園子の年齢を過ぎたと勝手に思い込んでいたのですが、意外と同じぐらいの歳だったんですよね。このタイミングで、高橋一生さんをはじめとした、素晴らしい役者さんともご一緒できるなら、確かに今だなって。
嫌いなものを言うのってすごく簡単だから、まず好きなものの話をできるようになりたいなって。(蒼井)
ータナダさんからすると、当時は「誰が読んでくれているんだろう?」と思っていた状態で、まっさきに褒めてもらえたことってすごく嬉しかったのではないかと想像して。蒼井さんは、いいと思ったものは、言葉に出すほうですか?
蒼井:すぐ言います。
ーそれはどうしてですか?
蒼井:嫌いなものを言うのってすごく簡単だから、まず好きなものの話をできるようになりたいなって。わたしはもともと人見知りが激しくて、人の話を聞く方に回ることが10代の頃はとても多かったんです。
その年齢の頃はみんな尖っていたんでしょうね。わたしも尖っていたと思います。だから「あの作品ダメだったよね」というような話を聞くことも多かったし、嫌いなものを言うことで自分の居場所をつくっていた時代を誰しもが経験しているようにも思うのですが、「じゃあ、なにが好きなんですか?」って聞くと、「普通に〇〇が好き」みたいな答えが返ってくることが多かったりして。
タナダ:たしかに「普通に」ってよく使われるよね。
蒼井:なにかエクスキューズを入れてから、好きなもののことを話す。わたしはそれってなんでだろうな? って思ってて。人って負の言葉を発するほうが楽というか、エネルギーを使わないらしいぞと。でも、好きなものの話をしているほうが人は傷つかないし、嫌な気持ちにならないから、好きなものの話をしているほうが素敵だなって。だけど、嫌いなものも明確に持ってないとなんでも受け入れてしまって自分がなくなってしまうから、なるべく好きなものの話をしながら、そこはバランスを見て。
ーそうですね。
蒼井:だから、なぜそれをいいと思ったのかについて話すのは好きなんです。
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