かつて自分も怒られてもおかしくなかったところで、待ってもらっていたことがきっとたくさんある。(タナダ)
ーお二人の今回のタッグが嬉しいのは、その感覚がにじみ出ているからかもしれません。おそらく「お互いだから」という理由がそこにあるんだろうなと感じるので……。
『ロマンスドール』でタナダ監督がラブドール職人を題材にした理由に、「職人が描きたかった」というのがあるそうですが、お二人も監督として、役者として職人である部分があるのではないかと思います。お互いの12年の変化を、どう感じますか?
タナダ:ちょっと感慨深いことなんじゃないかって思うのは、この仕事で、12年生き延びたってこと。蒼井さんは、昔から自分の考えを持ってたし、年下だけど尊敬するところしかなくて、もちろん全然なんの心配もないんですけど、再び組めるということは「そっか自分も12年頑張ってこられたからここにいるんだな」っていうのは、今回蒼井さんと仕事をして実感できて、感慨深いものがありました。
ー続けるのがやっぱりすごく難しいことであると感じる場面もこれまであったということですかね?
タナダ:あ~ありますね。しょっちゅうやめたくなって(笑)。ただもう潰しがきかないから。頑張るしかないっていう(笑)。
蒼井:そうですね~。
タナダ:もちろん好きな仕事ではあるんですけど、好きだからこそ腹が立つこと苦しいこと、変えようのない現実とも対峙していかなきゃいけない。好きなことやるってこんなつらいんだ……ということも味わってきたので、なんとかやめずにこれたんだなっていう感じはありました。
蒼井:お互いに言えることですけど、現場でのポジションが変わりましたよね。たぶん、12年前は泳がせてもらう立場だったのが、ある程度水槽側にまわったというか、自分たちよりキャリアの少ないスタッフさんたちがどんどん現場に参戦してくれるようになっていて、やっぱりその子たちの様子を見守るっていう立場になったなあ、と。感慨深いですね~。
タナダ:それは、かつて自分も怒られてもおかしくなかったところで、待ってもらっていたことがきっとたくさんあるからなんだろうね。だから今度は待つ側なんだなって。
結婚は、奇跡だなあと思います。(蒼井)
ーそうやって映画という場所が続いていくんですね。『ロマンスドール』のお話でいうと、蒼井さんが最初からこの作品をいいと思ったのはどうしてですか?
蒼井:すごく複雑なのにすっきりしたお話というか、かといって書き手側が「人生ってこういうものです」ってなにもかもを達観しているわけでもないっていう。その素直な読後感がわたしにとってすごく心地よかったです。
ータナダ監督がコメントのなかで「登場人物は振れ幅の大きい、極端な人たちじゃない」ということをおっしゃっていましたが、さまざまな感情を抱えながらもその振れ幅をおさえて生きる人たちの繊細な機微が描かれていますよね。
この作品を観て、「夫婦や結婚、誰かと一緒にいるってなんだろう?」と改めて考える人も多いのではないかと思うのですが、蒼井さんは俳優として今回夫婦を演じてみて、そしてもし可能だったら個人として、結婚するということをどう捉えているかということをお聞かせいただきたいなと思いました。
蒼井:演じているときは、自分は結婚していなかったし、相手と出会ってもなかったので、台本から読みとったあの二人の夫婦像を自分なりに想像して演じていました。実際に結婚してからまだ数か月なので、なんとも言えないですけど、わたしとしては、奇跡だなあと思います。
家族というのもいまいちよくわからないコミュニティだなとも思っているんですよね。生まれたときからの家族しか知らなかったのが、新しい家族と繋がっていくってびっくりするようなことだなって(笑)。でも、それがなんだか楽しいですね。