母性神話に負けないでほしい。それはやっぱり「神話」でしかない。生身の人間はもっと複雑なはず。(タナダ)
ー奇跡っていうのは、ほんとうに、そんな気がします。『ロマンスドール』では、一見いわゆる「良き妻」に見える園子が、「子どもなんて好きじゃない」というシーンが印象的でしたが、その言葉にはどんな意図があったのでしょう?
タナダ:昔なにかで読んだのですが、人間は子どもが生まれたときに、人から教わらなければ授乳ができないと聞いたことがあって、ほっとしたんです。「母性神話」みたいなものに苦しめられている人って多い気がしていて、「女性だから子どもが好き」とか。
ー「母親だから子育てができてあたりまえ」とか。
タナダ:そうじゃない人もいるし、ほんとうは愛したいけど上手く愛せないっていう人も絶対にいる。すごく好きなのに、表現が下手とか。そういう人たちがもしいるとしたら、母性神話に負けないでほしい。それはやっぱり「神話」でしかない。生身の人間はもっと複雑なはずなので、園子に「子どもなんて好きじゃない」と言ってもらうことで、すこしだけでも楽になる人がいたらいいなと。
「子どもが嫌い」ってネガティブなワードですし、言うのにためらうことってあると思います。だけどじゃあ実際に子どもを産むとなると、すごく大変なことですよね。好きな人の子どもであっても、なかなか決心はつかなかったり、はじめから父になろう、母になろう、と思っているわけではなくて、授かったからには一生懸命育てるという人もいたり、授かりたいけどなかなか授かれない人もいて。この映画に答えがあるわけではないんですけど、さまざまな背景をもつ人がすこしでも楽になるにはどうしたらいいんだろう? って。
ー子ども嫌いの園子が「てっちゃんの子どもだったらいいかなと思った」という台詞はひとつの奇跡の形だなと感じました。「絶対に子どもを好きじゃなきゃいけない」とか「産まなきゃいけない」ということではないし、「子どもを産むのもいいかな」と思わなかった可能性も全然あったしそれでもいいけれど、目の前の人にたまたまそう感じたからということがさらっと言われているシーンにすごくハッとしたし楽になりました。蒼井さんはあのシーンを、あの台詞をどういうニュアンスで言いましたか?
蒼井:うーん、なんかこう……家族っていうものが、命を繋いでいくことだったり、やっと親のことがわかるようになったりとかっていうのは、妊娠しているわけではないけれど、結婚した今実感しているかもしれませんね。家族が繋がっていくっていうことがどういうことか、やっとわかってきてるというか。
ー想像しながら演じて、後から実感をともなった人生がやってきたというか。
蒼井:そうですね。作品ってそうかもしれない。
それぞれが自分に見合った、自分が思う幸せっていうものを追求するのがいい。(蒼井)
ーこの作品では、一見「奥ゆかしく」描かれている園子が持つ性欲への積極性を通して、女性の性欲も肯定されていると感じました。今回、She isでは「これからのルール」という特集をしていることもあって、お二人にとって、これからの夫婦の形やルールのようなものに関して、もしなにか感じていることがあればおうかがいできたら。
タナダ:なんだろう……わたし結婚もしてないからな(笑)。
蒼井:興味は?
タナダ:興味は……なんだろう。わたしね、年下の女子とかにはよく勧めるの、結婚を。
ーどうしてですか?
タナダ:機会があるなら、一回やってみたらいいじゃん、っていう。
ー別に離れてもいいし。
タナダ:全然違う環境で育ったもの同士なんだから、合わなくて当たり前じゃんっていう。合ったらラッキーくらいの気持ちでいればいいんじゃないの? ってすごい偉そうなこと言って(笑)。
一同:(笑)。
タナダ:それで何組か結婚しました(笑)。
ーすごい!(笑)
タナダ:なんというか……予期せぬいいことも悪いこともきっとあると思うんですけど、まあ人生長いし、一回くらい……やってみてもいいんじゃない? って。自分がそうなるかどうかはわからないけれど。絶対に結婚しないって決める必要もないし、絶対にするって決めなくてもいいし、80歳で結婚してもいいと思うし。
ーそうですね。蒼井さんはいかがですか?
蒼井:わたしは……新しいルールとかほんとうにわからない、ですね。
タナダ:その人たちによって、違うもんね。
蒼井:わたしは役所に届ける形の結婚をしましたが、いまは夫婦別姓も含めて、いろいろな形がありますよね。その人が選んだことなら、どんな形でもいいと思います。どんな選択であっても、他人のことをとやかく言うような人間になりたくない。
ーほんとうにそうですね。
蒼井:結婚してもしなくてもどっちでもいいけど、それぞれが自分に見合った、自分が思う幸せっていうものを追求するのがいいし、それをしてはいけないんですか? とは思います。
タナダ:そうなんですよね。
蒼井:それこそね……自分の考えに共鳴してくれる人が現れたら現れたですごく幸せだしね、でも現れなかったら現れなかったでまた別の素晴らしさがあるし、どのみち生まれてきたっていうこと自体が素晴らしいことなんだなって。
ーそうですね。
蒼井:それを喜んでいたいかな、と思います。
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