友達とかに「よくそんなにやりたいこととか、言いたいことがあるよね」って言われるけど、そうじゃなくて。(枝)
ー塩塚さんも表現することで人との繋がりができていく経験がありますか?
塩塚:めちゃくちゃあります。曲をつくるときもそうだし、たとえばワンマンをやるときって、スタッフの人たちを集めて、照明やステージを組むんですけど、技術的な部分は全然わからないから、全部お任せしていて。「今回はちょっとキラキラってした感じ」みたいな雰囲気だけ伝えるんだけど、それに対して何個もアイデアを出してくれたりするから、「すごい!」ってなります。
一人で曲をつくって、SoundCloudに上げるだけでも楽しいけど、つくるまでの過程にいろんな人が関わってくれたり、お客さんやスタッフのみんなが羊文学の音楽をすごく愛してくれることって、やっぱり喜びがあります。そういう感動をいっぱいもらえるから、みんなでやるのっていいなと思いますね。だから、枝さんの作品のサントラをつくったのも、真梨子さんの展示のために音楽をつくったのも楽しかった。
小林:私、そうやって目的があると撮りやすいタイプかも。
塩塚:目的?
小林:自分で完全に自由に撮るのって結構苦手で。大きな目標とか枠組みがある上で、「あとは自由にどうぞ」っていうのはやりやすいけど、自分で全部一から好きにやっていいですよってなると何もできない。
塩塚:枝さんは一からのタイプだよね。
枝:MVとかは曲がある分、つくっていくうえでのヒントがあることがありがたいなと思うけど、自分の作品に関しては一からやりたいな。でも一からやるのってしんどすぎて、「つらいつらい」っていつも言ってる。
塩塚:言いたいことを探すのが、一番大変だよね。
枝:友達とかに「よくそんなにやりたいこととか、言いたいことがあるよね」って言われるけど、そうじゃなくて。もちろん、常日頃から考えていることがあって、それをもとにつくっている場合もあるんだけど、湯水のように言いたいことが湧き出てくるわけじゃなくて、つくらないといけないから言いたいことを探してしまうときもある。
塩塚:私はその作業がつらすぎて、メンバーがいなかったら途中でやめてたと思う。曲をつくったらメンバーが「いいね」って言ってくれるから、挑戦できてるかな。
小林:二人は誰のために作品をつくっているの?
枝:私は自分のため。
小林:自分なんだ。
枝:自分にとって必要ないものをつくってると、他人事になったり偉そうになったりするの。もし仮に「みんなのために」みたいな気持ちでつくるとしたら、「いや、みんなって誰?」って思ってしまいそう。だから最終的には自分のために、自分の一番情けない部分に向き合って、超主観で書くことにしてる。映画も、音楽も、これはつくった人の実体験だなってすぐにわかる。塩塚モエカの歌は実体験だなって思うことがすごく多いの。
塩塚:ふふふ。
枝:「この曲すごくいいね」って伝えたら「実話だよ」って返ってきたから、やっぱりと思って。
塩塚:どの曲のことかは秘密です(笑)。
枝:私は、そういう歌の方がリアルで好きなんですよね。真梨子ちゃんは、自分のことを昇華したいとか、自分のためにつくりたいって思うことはないの?
小林:それだとね、何を撮っていいかわからなくなっちゃうんだ。いいなと思う人の魅力を伝えられるように撮って、それを発信することの方が満足感がある。映画でもテレビでも雑誌でも、同じ俳優さんやモデルさんが出ていることが多いなと思っていて。もっとこういう人がいるから、ぜひ取り上げてくださいっていう勝手な思いがあるんです。
小林真梨子さんがこれまで撮ってきた人たち
同世代の人ですごくいいものをつくっているのに、世に出すきっかけがない人たちもいっぱいいるから、自分がきっかけで、いろんな人たちに知ってもらえたらいいなって。(小林)
ーどんな人を素敵だと思うかって、人によって全然違いますよね。だから、魅力を伝えたいと思う人を小林さんのフィルターで選んで、発信していること自体に、小林さんらしさが宿っているんだろうなと思いました。小林さんと枝さんの出会いのきっかけになった『1993』展をはじめ、皆さんは同じ世代で何かをつくっていくということにすごく意識的だという印象があります。
塩塚:すごく大切にしてますね。一緒に挑戦していきたいっていう気持ちがあるかも。たとえば、羊文学のライブで照明をやってくれている人は、同世代というよりは少し年上ではあるんだけど、私はその人の照明が好きで。大きなライブハウスとかではまだあんまり照明をやったことがない人なんだけど、羊文学のライブでは失敗してもいいし、チャレンジしてやってもらうことが楽しいなと思う。
枝:映画業界ってわりと年上の人が多いんです。比較的若い子たちに理解がある人が多いけど、でもやっぱり感覚が違うなと思うこともあって。だけど、活躍している同世代の人たちと話してると、音楽とか、経営者とか、業界が全然違っても、最終的に言いたいことや、目指している社会に対する考え方がかなり近いことが多い。それが面白いですね。
塩塚:同い年ってだけで、無条件でオッケーみたいな感覚、あるかも。ものづくりをしてると、学校にだけいたら関わらなかったような人たちが周りにたくさんいて。同じ分だけ生きていても、自分とは全然違う考え方を持っている人がいたりする。それがすごく年上の人じゃなくて、同い年なんだっていうだけで、ものすごく衝撃を受ける。
小林:それはあるね。私は同じ世代だと、フェアな感じがして、思ったことをちゃんと言える部分が大きいかな。だから仕事でも同世代を誘うことが多いかも。あとは同世代の人ですごくいいものをつくっているのに、世に出すきっかけがない人たちもいっぱいいるから、自分がきっかけで、いろんな人たちに知ってもらえたらいいなって。
枝:でもね、私は同世代で違う仕事をしている人たちと会ったりすることを普通だと思っているんだけど、映画業界ってあまりそういうことをしない人も多くて。映画業界の友達から「生活がすごい華やかじゃない?」って言われたの。「私、塩塚とバーミヤンで5時間くらい話してるだけなのに華やかなの?」って。
塩塚:華やかじゃん、バーミヤン(笑)。
枝:そっか(笑)。私もファッション業界や音楽業界の人たちに対して、ちょっと奇抜だったり、尖ってるようなイメージを持っていたりしたけど、実際に一人ひとりと会うとめっちゃ普通だなと思って。それは自分が関わってみて初めてわかったことで、たしかに外から見ると華やかそうだったり、ちょっと派手に見えたりするのかなって。表に出る活動をしていたりするから、余計にそうなのかも。
小林:だけどさ、高校生とか大学生の頃の自分が、今の自分を客観的に見たら華やかだなって感じると思うよ。
一同:(笑)。
塩塚:超地味なのにね。
小林:でもね、こないだも『オリーブ』を見たら、知ってる人ばっかりスナップに載ってて。友達がいっぱい雑誌に載ってるなんて、ほかの業界の人から見たら、すごい華やかな世界にいるって思われるんだろうなと。
枝:たしかに。
小林:同世代の人たちがどんな仕事をしたかがSNSとかですぐに目に見えるから、焦りが半端なくて。普通に一緒に遊んでいる子たちがいい仕事をいっぱいしてるのに、なんで私は全然仕事してないんだろう、とか。
塩塚:そうなんだ。でも同世代で活躍しているライバルが近くにいることって、自分にとっては結構いいことだなと思う。
小林:うん、刺激にはなるよ。でも焦っちゃう。
塩塚:深呼吸して!
一同:(笑)。