日常を「自分だけの映画」だと思うことによって、すごく辛いことがあっても、ふっと心が軽くなったり、嬉しいときはそれがさらに輝きを増したりしますよね。(松尾)
ー自分の想像を超えてくることの豊かさを感じるような経験ってお二人もありますか?
松尾:あります。とあるライブでステージに立っていたときに、中盤になってから、スーツ姿の男性が汗だくで会場に入ってきたんです。多分、仕事が終わってから一生懸命走ってきたんでしょうね。その人は、はあはあ息をしながらライブを見ていたんですけど、途中でスーツのジャケットを脱いで、ふと、泣きはじめたんです。そのときやっていた曲が、“サンライズジャーニー”という曲で。周りは焦って先に行こうとしたり、「早く行け」って自分を急かしてきたりするけど、自分のタイミングはまだで、タイミングが来たらそのバスに乗って行くんだ、という歌なんです。その人はきっと、その歌詞を自分の人生に置き換えてくれたんじゃないかなって。
私は会社勤めをしていないし、その人と性別も違うし、別の人生を生きているけど、自分が本当に信じた表現や言葉を、そうやって自分なりの人生の主題歌として聴いてくれる瞬間が目に見えるのがライブで。“The Flowers”という曲の中で<僕らが歩んでいるこの日常は まるで自分だけの映画さ この手で選んでいく全てのものが 日々を輝かせてくれる>という歌詞を書いたんですけど、日常を「自分だけの映画」だと思うことによって、すごく辛いことがあっても、ふっと心が軽くなったり、嬉しいときはそれがさらに輝きを増したりしますよね。そんな日常のスパイスみたいなものを人に与えられたらと思っているんです。
GLIM SPANKY - M-ON! SESSIONS
ー自分が手に取るものが、その先の自分を輝かせてくれると思えることって、本当にありますよね。
松尾:赤いリップがあるだけでも自分を輝かせてくれるって思えたりするし、植物もタトゥーも、そういう力を持っていると思います。
ーさきほどIwayaさんがおっしゃられていた音楽の聴き方も、その歌詞の感覚に近い感じがしますね。
Iwaya:玄関のドアを開けて、一日が始まるぞって思える曲とかあるんですよ(笑)。Kool & The Gangの“Celebration”っていう曲なんですけど。ドアを開けて、そのまま駅まで闊歩するときにぴったりなんです。
松尾:そういうのいいですね!
晴れてる日もあれば、雨の日もある。それを音楽が助けてくれたりするんですよね。(小川)
ー小川さんはいかがでしょう。
小川:僕もKahoちゃんが言っていたように、自分の枠を飛び越えたような気分になることはすごく好きなので、あえてそういう道を選んでいくようなところはあります。そもそも植物は人間ではコントロールしきれないものです。大事にしていても枯れることがあるし、大事にしていなくても生きたりする。
Iwaya:本当にそう思います!
小川:僕はシルクスクリーンっていう昔の版画技法を使って絵を作っているんですけど、版画って擦ったときの力の加減やインクの乾き具合で絵がどんどん変わるんです。どこまでいってもコントロールしきれないけど、自分が思っていた以上にいいものができあがるとすごく嬉しいし、逆にそうじゃないものができると、がっかりする。本当はインクジェットプリンターで印刷すればすむ話なのかもしれないし、「わざわざそんなことやってる俺はばかだな」と思うんだけど、楽しいです(笑)。
花の版を持った小川さん。
一同:(笑)。
小川:僕も情緒がぶれぶれな方で、晴れてる日もあれば、雨の日もある。それを音楽が助けてくれたりするんですよね。僕、今日は一日中一人でアイロンをかけてたんですよ。Kahoちゃんがさっきドアを開ける瞬間にかける曲があるって言っていたけど、僕も今日、「アイロンをかけるときはこの曲だな!」っていう曲が見つかって、本当に楽しかったんです。
Iwaya:それ、なんて曲?
小川:恥ずかしいから教えません(笑)。でもそういう風に、アイロンをかけるときも音楽をかけるだけで彩られる。「雨の日だからこの曲を聴こう」とか考えることって、すごく豊かですよね。聴くことで予想外のことが起こるかもしれないですし。