真偽がわからない情報は拡散しない
しもむら:まずできることは、デマを拡散しないこと。でも、いくら「デマの拡散はやめましょう」なんて呼びかけても、何の意味もありません。だって、拡散する人のほとんどは、「これはデマじゃなくて本当のことだ」もしくは単に「面白そう」と思ってクリックしてるんでしょうから。前に「おいふざけんな、地震のせいで うちの近くの動物園からライオン放たれたんだが 熊本」というTwitterへの投稿が話題になりました。
あんな:え!? そんなニュース聞いたことないなぁ……。
しもむら:2016年に熊本地震が起きたときに話題になったツイートです。この文章と一緒に、道路を歩くライオンの写真が投稿されました。この嘘ツイートは投稿からわずか1時間で2万以上リツイートされて、その結果、震災直後の熊本市動植物園には、100件を超える問い合わせの電話がかかっていたそうです。
かん:震災直後で対応に追われる動物園にとってはすごい迷惑なデマ。
しもむら:そうですよね。実際、この投稿をした人物は、園の業務を妨害したという容疑で捕まりました。でもこのツイートのもっと罪深いところは、業務妨害だけでなく、一刻も早く避難所に移動しないといけない人たちが、ライオンが怖くて外に出られなくなったかもしれないことです。逃げ遅れてその人の家が余震で倒壊してしまったら……?
あんな:人命に関わりますね。
しもむら:そう。後から「実は違いました~」「デマでした」では済まない問題です。「大変だ、知らせてあげなくちゃ」という正義感からのクリックで、人殺しを犯してしまうかもしれない。熊本地震のときには「川内原発で火事が起きた」とか、多くのデマが拡散されました。有事の時ほど焦って、結論を急いでしまうんですね。
だけどそういうときこそ、疑わしいものはとりあえず拡散しないこと。発信には責任が伴うんだから、即断せず「まだわからないな」と思って立ち止まることが大事です。
かん:面白い話やビックリするようなことほど反射でリツイートしちゃうけど、まずは一呼吸置くクセをつけていかないと……。今後そういうツイートに出くわしたら、アプリを閉じて待受画像の推しを眺めることにします。
あんな:最初にデマをツイートした人は論外としても、危険を知らせるために良かれと思って拡散する人が出てきちゃうと厄介ですね。Twitterではさすがに気をつけているけど、地元で新型コロナウィルスの患者が出たとき、親戚に聞いた情報をあまり考えずにLINEで送ってしまい、ファクトに厳しい友達をイラッとさせてしまったことがあって……。気心知れた人に「こんな話を聞いた!」っていつもの調子で知らせたかっただけなんだけど、それこそが負担なんだよねと反省しました。
かん:でもそういう時に、「それほんとなの?」って言い合える友達の存在はストッパーとしてめっちゃ大事ですね。拡散をグッと堪えたら、次に何をしたらいいんですか?
しもむら:ちょっとおかしいなと思った情報は、ササッとでいいから別の新聞、番組、ネット記事、友達のおしゃべりやLINEでもなんでも、他の情報源を探します。ここで大事なのは、人数は信憑性とは関係がないこと。
かん:どういうことですか?
しもむら:例えば、先ほど紹介したライオン脱走のデマも、たくさんリツイートされていますよね。でも他の情報源を探すときに重要なのは、リツイートの数じゃなくて、情報の種類の数です。本当にライオンが脱走していたら、いろんな場所でライオンの目撃写真や動画が上がるはずですから、ちょっとTwitterで検索するだけで、「ん? これ、同じ写真のコピーばかりで、別の情報は全然ないじゃん! おかしいな」と気付けたはずなんです。
かん:広めてる人数じゃなくて種類で数えたら、「2万ではなく1」になるんだ……!
しもむら:その通り! こういう話を、僕は子どもから経営者まで幅広い人たちにしているんですけれど、小学生の授業の感想で「まず下村先生の話から、『まだわからないぞ』と疑ってみようと思います」と言われたことがあって。
かん:いいぞいいぞ~!
しもむら:今まで何万人にこの授業したかわかりませんが、これがベスト・リアクションですね(笑)。これって、相手を嘘つきだと思えという暗い教えじゃないんです。メディアリテラシーの本質が「すぐ決めつけず、窓を広げてみる」という明るい教えであることを、この子は理解してくれたんですね。
あんな:そうやって調べてみて、ちゃんと複数の情報が見つかったら?
しもむら:次に「報告か、意見・印象か」をわけてみるといいです。例えば、芸能人Aに薬物使用疑惑が持ち上がり、その自宅前に張り込んでる記者がこんなリポートをしたとしましょう。
「疑惑のAはこわばった表情で、記者を避けるように家からこそこそと出ていきました」
このまま聞くと、「あ~、やっぱりAは薬やってるな」なんて、勝手に確信を深めちゃったりしませんか。でもこの中で、「これは記者の《意見・印象》が混じってないか?」という怪しい言葉はどれですか?
かん:「こわばった表情で」「記者を避けるように」「こそこそと」。あ、あと「疑惑の」?
しもむら:そうですね。「元々ゴツい顔つき」で、「ちゃんと用事」があって、「普段から少し猫背」の姿勢なのかもしれない。「疑惑の」だって、記者がそう思ってるから張り込んでるという話で。じゃ、残りはどうなりますか?
かん:「Aは/家から/出ていきました」……お!
しもむら:そう、それが《報告》部分です。ここに、「やっぱりAは怪しい」と判断する材料はありますか? こうやって、《報告》と《意見・印象》が混ざっているものをそのまま鵜呑みにしないように、情報の汚れを大まかに拭き取ることが大切になるんですね。
あんな:事実描写にくっつけられた脚色部分を拭き取ればいいんですね。
かん:少し前だと1月末に「新型コロナウイルスで東京オリンピック中止か」という見出しの記事もミスリードがあると指摘されてましたね(Buzzfeed/新型コロナウイルスで「東京オリンピック中止か」はミスリード。組織委員会は「中止は検討しておりません」と回答)。
しもむら:結末はまだわからないけど、少なくとも1月末の段階で「中止」という言葉を使うのは、相当フライングでしたよね。それも《報告》と《意見・印象》がごちゃ混ぜになっている例です。
かん:見分けるコツとか、分かりやすい手がかりってありますか?
しもむら:例えば、週刊誌や新聞などの見出しの最後の最後に小さく書いている「〇〇か」「〇〇も」「〇〇へ」「〇〇説」「〇〇?」などの1文字も、すごく大事なサイン。「中止。」と言い切っていれば《報告》ですが、「中止か」だと中止されるかは、まだわからない。あくまで記者の抱いた《意見・印象》に過ぎません。
あんな:週刊誌の吊り広告だと、見出しの文末の「か」がめっちゃ小さく書いてあったりするからね(笑)。
かん:最後の小さな一文字も超重要、覚えました!
<ポイント>
Q.「最低限必要なメディアリテラシーを教えて」(あんな)
A.「即断して拡散せず、複数の情報源を探す。鵜呑みにせず、《報告》か《意見・印象》か考える。文末の《か・も・へ》なども見落とさない」(しもむら)
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