好き嫌いって個人によって全然違うものだから、どんなことを感じてもいいと思う。
─和田さんは今年の夏から、ご自身のYouTubeチャンネルで美術についてお話するシリーズを始められましたよね。
和田:私は文章で美術のことを書きたいという目標があるけれど、話しているのを聞いた方がわかりやすく伝わる人も多くいると気づいて。話すためにも言葉を生み出さないといけないから、自分の訓練になると思ったのが始めた理由の一つです。でもやっぱり、マネのよさを伝えたいという気持ちが一番強いかもしれません。
─和田さんは伝える順番や、内容、言葉をすごく選んでいる感じがして。自分の持っているものを投げかけたうえで、受け取った相手に考えてもらおうとしているような感じがするのですが、伝え方においてどのようなことを心がけられていますか。
和田:アートは正解がないものだから楽しいし、見ている人にもそういう心がけでいてほしいと思っているから、それは伝えるうえで大切にしたいと思っています。例えば友達と一緒に美術館に行っても、友達と私ではそこから感じることがまったく違ったりするじゃないですか。好き嫌いって個人によって全然違うものだから、どんなことを感じてもいいと思うんです。
─和田さんは美術を伝えることについて、すごく使命感を持っていらっしゃいますよね。
和田:自分にとって美術は大きな柱で、美術があることによって広い世界を知りました。だから信頼しているし、人の心を豊かにする、とても大切なものだと思っています。美術って、一部の人にしかわからないものにもなりやすい存在だけど、後世に残すために伝えていかなければいけないと思うんです。日常の中に、文化がもっと身近にあるようになれば、みんなが文化を大切にできるし、そうすることでさらにいろんな表現が可能になると考えています。
─わかりにくいものだけど、大事だと思う感覚はどういうところからきていますか?
和田:例えば、ダムタイプというグループの作品を最初に見たとき、「わからない」と思ったんですよ。身体に自分のセクシュアリティに関することなど、いろんな単語を貼ってパフォーマンスするという作品(『S/N』)だったんですけど、まず貼ってある言葉の意味がわからなかったし、世界観もわからなかった。でも、そこで言われているメッセージについて先生から解説してもらったときに、自分は知らなかった世界だけど、どこかで自分の日常ともつながっていると気づいたんです。そうした小さな声がなくなってしまうと、あまりカラフルな世界じゃなくなってしまいます。だから「わからない」という部分も含めて大切にしたいと思ったんです。
アートはもちろん、文化というもの全体を伝えていきたいです。
─渋谷PARCOは80年代からショッピングビルでありつつ、新しい文化を発掘し、発信してきた場所ですが、和田さんは「アイドル」と名乗りながら、アートを伝えていくことについて、どのような思いを持っていますか。
和田:文化って、人々が生きている生活や習慣、行動の中から生まれるものですよね。そう思うと、この社会が偏った視点から成り立っていることで生まれたものだとしても、アイドルというのは日本独特の愛すべき文化の一つだと思います。私はフェミニズム的な視点を持っているから、アイドルという存在に疑問を持ってしまうことや、心が痛いと感じることもあるし、変化していくべき部分はもちろんあると思っているけれど、だからと言ってすべてを否定してはいけないと思うんです。自分が文化について発信するようになってから、余計にそういうことを感じるようになりました。
─和田さんは今後、アートとどのように関わっていきたいですか。
和田:アートはもちろん、文化というもの全体を伝えていきたいです。私は美術のよさをもっと知ってもらうために、皆さんの水先案内人となれるような活動を進めていきたいし、最終的には自分で美術批評を書けるようになりたいというのが一つの目標です。一方、美術を広めるのとは別に、文化をつくる側になりたいと思う自分もいて、それはライブや音楽活動がメインになると思います。文化が、人の日常や習慣から生まれるものであれば、そこに向かう私の眼差しを通して、一つの文化というものをつくっていけたら嬉しいなと思っています。
- 4
- 4