文月悠光×ひらりさ、30代を機に考える。臆病なままで全力疾走する

文月悠光×ひらりさ、30代を機に考える。臆病なままで全力疾走する

映画『私をくいとめて』に見る、他者と生きるやり方

SPONSORED:『私をくいとめて』
インタビュー・編集:野村由芽 テキスト:羽佐田瑶子 撮影:中里虎鉄 ヘアメイク:Waka.
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個人の在り方は多様化し、都会では「どんな生き方でも肯定されるべき」という風潮が広まりつつあります。しかし、実際に「結婚適齢期」と言われる年齢を迎えても「おひとりさま」を楽しんでいる人に対する社会の目は、肯定的なものでしょうか。親世代から脈々と続く、「人生の物語の平均を歩むべき」という圧力が、いまだに私たちに無言で迫ってくる場面も少なくありません。

映画『私をくいとめて』の主人公・黒田みつ子は、31歳・独身・恋人なし。休日にはひとり焼肉に挑戦するなど能動的に「おひとりさま」ライフを謳歌しています。彼女が「おひとりさま」を楽しめる理由、それは脳内で「A」という相談役と対話をしているから。些細な日常の出来事から、爆発寸前の怒りまでみつ子のあらゆる思いをAが受け止めてくれます。そんな彼女が恋をして、他者との関係に一歩踏み出していくーーその様は、女性たちがぶつかる葛藤をありありと描いています。

今回は、みつ子と同世代の詩人・文月悠光さんと、編集者・ライターのひらりささんに映画を観ていただき、社会のカテゴリーやレギュレーションに対して声を上げながら、自分自身を深めることを楽しんでいるふたりに話をうかがいました。個人を深めながら他者と生きていくこと、傷つくことと納得することについてまで、話題は広がりました。

参考記事:綿矢りさ×大九明子対談「誰かと生きることはデフォルトじゃない」

誰かと関わらなきゃ人は生きていけない。その過程で傷つくこともあるけれど、少し助けられることもある。(ひらりさ)

─映画『私をくいとめて』は、主人公のみつ子が「おひとりさま」を楽しむことを肯定的に捉えながら、社会での生きづらさも描かれていました。おふたりはみつ子と同世代ですが、彼女が「おひとりさま」として生きる姿をどう思われましたか?

ひらりさ:私は独身ワンルーム暮らしでまさに「おひとりさま」っぽい暮らしをしているので、本作は「あるある」の連続でした。ただ、私の場合、SNSで他人にかまってもらってますし、土日は友達との予定をたくさん入れちゃう。昨年は、みつ子と同じで人生で初めて一人で海外旅行に行ったのですが、毎日Twitter開いちゃって……。 みつ子はものすごくストイックにおひとりさまを追求していると思いました。

私、20代中盤に激務だった頃は、孤独死への不安があって。その時に、この先の人生をイメージするためにソロウェディングなどの「ソロ活」をライターさんと取材する企画を立てていたんですが、忙しくてうやむやになってしまったんですね。あの時追求しておけばよかったなあとちょっと思い出しました。

左からひらりささん、文月悠光さん

─追求していたら、どうなっていたんですかね。

ひらりさ:自分の世界をきちんと持つことで、他者との新しい関わり方が見つかったかもなと思います。私は、なんやかんやSNSで常時人とつながっているので、適度に助けられてしまうんですよ。それはとてもありがたいことなんですが、みつ子のように、自分と向き合うことに専念したから こそ、いい形で他者と付き合えるようになった人が身近にもいて、その生き方に憧れがあります。

文月:他者と関わる前に、自分自身を知っていくことも大事ですよね。私は20代前半ごろ、知人から「文月さんは強いね」と言われることが度々あって、当時は弱い女の子の方が誰かに守ってもらえて幸せになれるんじゃないかと感じていたので、複雑な心境でした。そんな頃、河合隼雄さんの『こころの処方箋』(新潮社)を読み返して「二人で生きている人は、一人でも生きられる強さを前提として、二人で生きてゆくことが必要である」「一人でも生きてゆける人間が二人で生き、お互いに助け合ってゆくところに楽しみが見出せるものなのである」と書かれていて、衝撃を受けました。他者と関係を築くことに必死だったけれど、自分自身を深めていくことをまず大事にしてよいのだと。

だけど今、20代も終わりを迎える中で、「人は何かに依存しないと生きていけない」ということも認めたいと思うようになりました。ここ数年、「依存先を分散しよう」という言説に触れることが増えましたが、私の場合「他人に迷惑をかけないように分散するんだ」と感じてしまい、その矛盾した価値観から逃れられなかった。本当はもっと自立した人間になりたいけれど、仕事でも恋愛でも、救いを求める先がないとバランスが取れないですよね。悔しいけれど(笑)。

ひらりさ:依存先を増やすということでいうと、たとえば仕事だけ、恋人 だけではなくていろんなことに軸足を持とうって、よく言われていますよね。

文月:もちろん軸足をあちこちに置くことは大切だけど、それも限界があると思います。10代からキャリアをスタートした自分には、「仕事」という軸が圧倒的すぎるのもあって、その他とのバランスに悩みますね。

ひらりさ:みつ子は、過去の人間関係のトラウマがあって「誰にも依存すまい」と生きてきたけれど、絶対にどこかで誰かと関わらなきゃ人は生きていけない。その過程で傷つくこともあるけれど、少し助けられることもある。無理に依存先を増やそうとしなくてもいいけれど、ひとりで生きることに頑なにならなくてもいいのかなと思います。

『私をくいとめて』 ©2020『私をくいとめて』製作委員会

30代を前に友人たちがいろんな選択をしていて、それをどう受け入れて、どう見つめたらいいのか。(文月)

─文月さんがおっしゃるように、年齢によってものごとの捉え方が変化していくことがありますよね。仕事のことや友人関係、あらゆることの選択肢や可能性が広がっていくような感覚もあれば、経験を重ねたことで臆病になってしまうこともあると思います。

文月:のんさん演じるみつ子が、橋本愛さん演じる親友の皐月と邂逅するシーンがすごく好きです。つい朝ドラの頃を思い出して胸が熱くなったのもありますし、みつ子には皐月がこんな風に輝いて見えるんだろうな、という像が端的に切り取られていました。私自身も最近、自分と異なる選択をした友人との関わり方に悩むようになりました。能力が高くてバリバリ働くんだろうなと思っていた子が家庭に入り、対する私は10年以上この仕事を続けているけれど、このままでいいのだろうかと考えることもあります。

30代を前に友人たちがいろんな選択をしていて、それをどう受け入れて、どう見つめたらいいのかと。もちろん私がその選択についてあれこれ言う権利はない。ただ、自分は選ばないだろうと思っていた道も、身近に選択をしている人がいると、眩しく映ってしまうことってあると思うんです。

『私をくいとめて』 ©2020『私をくいとめて』製作委員会

─みつ子も、皐月に憧れのような感情を抱いていましたよね。皐月は結婚して日本を飛び出して、妊娠までしていて。学生時代は同じ道を歩んでいた友人が、遠く離れていくような感覚をみつ子は持っていたように思います。

文月:ふたりはそれぞれ違う選択をしながらも「これでいいんだろうか」と自分の決断に揺れているところは重なっていましたよね。いまいる場所は違っても、お互いに影響を与え合っていることは忘れてはならない、と自分自身の友人関係に重ねながら実感しました。

PROFILE

文月悠光
文月悠光

詩人。1991年北海道生まれ。中学時代から雑誌に詩を投稿し始め、16歳で現代詩手帖賞を受賞。高校3年の時に出した第1詩集『適切な世界の適切ならざる私』で、中原中也賞、丸山豊記念現代詩賞を最年少18歳で受賞。2016年に初のエッセイ集『洗礼ダイアリー』(ポプラ社)、第3詩集『わたしたちの猫』(ナナロク社)を刊行。2018年2月、エッセイ集『臆病な詩人、街へ出る。』(立東舎)を刊行。NHK全国学校音楽コンクール課題曲の作詞、詩の朗読、書評の執筆、詩作の講座を開くなど広く活動中。

ひらりさ
ひらりさ

1989年生まれ。ライター・編集者。会社員の傍ら執筆活動を行う。連載に「平成女子のお金の話」「コスメアカの履歴書」など。

INFORMATION

作品情報
作品情報
『私をくいとめて』

2020年12月18日(金)全国公開

原作:綿矢りさ『私をくいとめて』(朝日文庫/朝日新聞出版刊)
監督・脚本:大九明子
出演:
のん
林遣都
臼田あさ美
若林拓也
前野朋哉
山田真歩
片桐はいり
橋本愛
配給:日活

映画『私をくいとめて』|12月18日(金)全国ロードショー

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