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売野機子インタビュー。自分らしくいることは自分に誠実であること

売野機子インタビュー。自分らしくいることは自分に誠実であること

自分と他者とで違う部分、それが自分らしいってことなのかな

2020年9〜12月 特集:自分らしく?
インタビュー・テキスト:野中モモ 撮影:小林真梨子 リード文テキスト・編集:竹中万季
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自分らしくいることは、自分に誠実であることでもあると思います。(売野)

—生活のために「自分らしさ」を抑えなければいけない状況に置かれてしまう場合もありますよね。

売野:こういった自己肯定感の高いメンタリティで生きてこられたので、自分らしさを損なうような場所に入るくらいなら入らなくていいと思うけど、誰もがそんな強くいられるわけではないことも知っているので、そういう人にこそ寄り添いたいと感じます。

—意見が衝突した時に自分を通せるか、周りに合わせてしまうか、状況によるところも大きいですよね。

売野:空気を読むときもありますよね。この間、サイン会で読者の方に来ていただいたときに、編集さんが読者の方の質問に対して間に入って会話をしてくださったんです。ただ、読者の方が私にだけ心の柔らかい部分を出してくれたのに、編集さんが良かれと思って話を一般化してしまったりして、私も思わず空気に乗って相槌を打ってしまう場面も多くて。読者の方を裏切る行為だったなと思って、終わったあと一週間くらい落ち込みました(笑)。自分らしくいることは、自分に誠実であることでもあると思います。

—売野先生は同人活動で注目を集めた末に商業デビューして、少女誌から青年誌までさまざまな雑誌で作品を発表しています。

売野:ありがたいことにいろいろお声がけいただいていて。自分の好きなものだけ描きたかったら、描ける場所はたくさんあるんです。そこで商業誌のようにいろんな読者がいるところに行くのは、「自分が見たことのない自分の作品が読みたい」という思いもあります。

—環境によって新しい自分らしさが発見できたりする。

売野:そうですね。自分から見える自分だけじゃないですからね、自分って。

—最新刊『売野機子短篇劇場』はすごくバラエティに富んだ作品集です。漫画制作については、一般に「キャラが先かプロットが先か」というのがありますが、売野さんはどうですか。

売野:いつも聞かれた時に質問してくださった方を満足させる答えができているかわからないんですけど、間違いなく「雰囲気」から作っています。温度とか空気、質感みたいなものですね。たとえば夜で、東京で、スモーキーな感じ……とか。冷たい話、乾いた話、ドキドキする話、ヒリヒリした話とか、そういう感じです。そうじゃなくて最初からテーマがある話も、もちろんあります。たとえば『まりすのせいなる墓あらし』は大好きな女優さんが逮捕されて、引退したことをきっかけに描いた話で。

—人生に躓いてしまった子役出身の若手俳優のお話ですね。

売野:違法であることは事実だし改めるべきだとはもちろん思うけれど、彼女がやるはずだった役のことを考えると涙が出ます。彼女の夢に、彼女が演じる予定だった役が出てきたらどれだけつらいだろうと思います。そういう悲しみは放っておくと大きな怒りになってしまうので、そんな自分の気持ちを救済するために描きました。

『売野機子短篇劇場 (ビームコミックス)』(KADOKAWA)(Amazonを見る

—怒りからあんなしみじみいい話が生まれるというのはすごい。

売野:私、こんな一日中怒っていて大丈夫かってぐらいずっと怒ってますよ。Twitterで自分のいいね欄を見てみると、友達の怒りだけが溜まっていて(笑)。やっぱり、怒りってその人らしさじゃないですか? 「地雷」という言い方はよくないけれど、そう表現されるような、“映画のように作品を観た時にひっかかる部分”とかも、その人らしさがでるように思う。

たとえば友達に、ポイ捨てがダメな人がいて。作品の中で鍵を捨てたり書類を捨てたり、指輪を川に投げるようなシーンが耐えられないそうなんです。映画を観ている時にもその子のこと思い出して、「あっ、あの子が観たらこの展開怒っちゃう、どうしようどうしよう、あっよかったゴミ箱に捨てた!」って安心したり(笑)。性格の一部が怒りには表れるし、なんでその子がそういう考えかたになったんだろうって考えると愛おしくて。

—「嫌だ、許せない」って「好き」と同じかそれ以上に強くパーソナリティを表しますね。

売野:許せないことって人それぞれ違う。面白いなー、と思います。

短編集の最後には売野機子さんによるメッセージと各作品に対するコメントが。

なんでこんなにサボっちゃいけないと思ってるんだろう!? 「人生マジレス」なのも、私の性格で、自分らしさです。(売野)

—『ルポルタージュ』は恋愛結婚をする人がマイノリティとなった世界を描いた作品です。現実の世の中ではまだ恋愛結婚はいいものだからぜひするべきだという価値観が主流だけれど、その状況を逆転させている。売野さんは恋愛についてはどう考えていらっしゃいますか?

売野:恋愛は人をその人たらしめるものの一つでしかないと思うんです。この話をするときにはまず「私はフェミニストです」と言わなくてはいけないんだけど、たとえばフェミニストを自称している人たちの本当に一部ではありますが、異性どうしの恋愛や結婚にまつわる物事を下に見るような風潮があると思うんです。フェミニズムって本来は多様性とか、マイノリティを救うためのものだったのに、もともと少数派だった意見の数が集まったときに、そうやって別の誰かを叩くようになってしまうのは本末転倒というかありえないと思う。

私がデビューしてからのこの10年でも相当世の中の考え方が変わったし、本当に1年、数か月ごとに変わっているから、自分の主張にくつろがず私自身もずっと勉強しないといけないと思うし、また一方で、最近では「毎日自分の価値観を疑います」と言えばクリアといった風潮も散見されて、それも結局は何も考えてないと同義だと思うので、自分の意見は持ち続けたいな。なんでこんなにサボっちゃいけないと思ってるんだろう!? 「人生マジレス」なのも、私の性格で、自分らしさです。

『ルポルタージュ‐追悼記事‐(1) (モーニング KC)』(講談社)(Amazonを見る

PROFILE

売野機子

漫画家。東京都出身。乙女座、O型。2009年「楽園 Le Paradis」(白泉社)にて、『薔薇だって書けるよ』『日曜日に自殺』の2作品で同時掲載デビュー。『薔薇だって書けるよ―売野機子作品集』(白泉社)、『ロンリープラネット』(講談社)、『MAMA』全6巻(新潮社)、『かんぺきな街』(新書館)、『売野機子のハート・ビート』(祥伝社)、『ルポルタージュ』(幻冬舎)ほか、著書多数。

野中モモ
野中モモ

ライター、翻訳者(英日)。訳書『世界を変えた50人の女性科学者たち』『飢える私 ままならない心と体』『GIRL IN A BAND キム・ゴードン自伝』他多数。共編著書『日本のZINEについて知ってることすべて』。著書『デヴィッド・ボウイ 変幻するカルト・スター』『野中モモの「ZINE」 小さなわたしのメディアを作る』。

INFORMATION

書籍情報
書籍情報
『売野機子短篇劇場 (ビームコミックス)』
著者:売野機子

2020年9月12日
価格:792円(税込)
発行:KADOKAWA
Amazon

『ルポルタージュ‐追悼記事‐(1) (モーニング KC)』
著者:売野機子

2018年10月23日
価格:671円(税込)
発行:講談社
Amazon

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