父からもらった一冊の本が
まるでラブレターのようでいて
/はくる

根暗ポップなバーのママが、愛と情緒のルーツを語る

2017年9・10月 特集:未来からきた女性
テキスト:はくる 編集:野村由芽
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わたしがはじめて惹かれた女性は『星の王子さま』のバラでした。バラ自身の性質に憧れていたわけでは決してないのですが、それが自分にとってどれほど大切な花だったのかを泣きながら説明する王子さまに本の中で出会い、いつかこんなふうに誰かに愛してもらえたら、それはどんなに素晴らしいことだろうと幼いながらに思いを馳せたものでした。今の生活の根本にある「愛に貪欲に生きよう」という思いが芽生えたきっかけは、この本だったように思います。

幼少期に父から贈られたこの本に出てくるバラは、わがままで、寂しがりやで、そしてプライドがとても高い。彼女は王子さまのガールフレンドであり、そしてこのバラのモデルはサン=テグジュペリの妻、ミューズであるコンスエロ(・ド・サン=テグジュペリ)です。王子さまが地球を訪れた理由は、バラとのいざこざが発端なのですが、彼は作中で、あの奔放なバラから逃げ出すべきではなかったと言い、たった一輪のバラの咲く故郷の星のことばかり考えています。そしてこれらのバラにまつわる全ては、作者が喧嘩ばかりしていた妻との生活から学んだことなのだと、父と訪れた星の王子さまミュージアムで知りました。

サン=テグジュペリが妻に送った最後の手紙には「きみしかいない」という言葉と共に、「戦争から生還したら、もうトゲのあるバラではないきみが王子さまを待つ『星の王女さま』という続編を書く」という主旨の約束が記されています。また、彼の母親も「『星の王子さま』は息子の愛の感動的な証言である」と語っているそうです。この本は、こどもや、かつてこどもだった大人たちに宛てられた小説であると同時に、全体を通して愛の話であり、妻に対するラブレターなのです。

わたしはこのことを知ったとき、薄い刃物で背をなでられるような戦慄を覚え、甚く感動しました。このような世界的な児童文学書ですら、個人に向けた愛を立ち上がらせて書かれているのだから、世の中には創作だけでなく、魂によって書かれた日記のような他人の本物のラブレターが、作品という形式で点在しているのだということに、改めて気付いたのです。

わたしはこれから先の人生を通して、何としてでもそれらを読みたい。本だけでなく音楽でも映像でも、誰かの愛の話を聞かせてほしい。こういった気持ちを抱いたことが、文化的なものに傾倒していったきっかけでした。そしてわたしも、コンスエロのように愛される人間を目指そう、愛を持った人に出会えるよう、何かが起こりやすいように能動的に生きていこう、それ以上にサン=テグジュペリのようにわたし自身が愛を持った人間になろうと強く思いました。わたしにとってはこの「星の王子さま」という作品が、自分がどういったものを追い、どのような女性になろうという火種を心に持つきっかけでした。

数年前、わたしは「かろやかに・しなやかにありたい」という抱負を新年に掲げました。これらの単語の羅列に続く言葉は、一般的には「駆け抜ける」だと思いますが、駆け抜けたい先が今のわたしにはないということにすぐに気が付き、そのときわたしはかろやかどころか足がすくんでしまったのです。しかし、最近は駆け抜ける必要など全くないのだと思うようになりました。愛すべきものを探しにいくために身軽でいる、今目の前にあるものを的確に愛するためにかろやかでいる、そしてそれらに愛されるためにしなやかでいる。この場所にとどまり、見つめ続ける。ロングショットで見た未来の行き先はまだわかりませんが、ラブレターを読んで育ったわたしとしては、愛にクローズアップした生活を謳歌していきたいと思います。

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はくる
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根暗ポップ・ゴールデン街『バー新子』の日曜ママ・愛と情緒がだいすき

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