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百年繋がるパラレル/七

いくつものパラレルの先に私がいる、あなたがいる

2017年9・10月 特集:未来からきた女性
テキスト:七 編集:竹中万季
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百年後にも「もしもし」とか言っていたらいいね。あ、もしもし、元気? 元気だよ。ダイヤル、プッシュ、タップ、なんでもいいけど秘密の番号でとにかくその電話が繋がって、百年後の未来人と会話できたとして、なにを話そうか。

2017年、私は東京にいる。それを選んだからここにいる。あらゆる分岐点について考えるとき、それは後悔ではなく回想だ。「そんなこともあったかもしれないね」の連続。たとえば実家と職場を往復する地方公務員の毎日を、知らないだれかと結婚して縁もゆかりもない場所で暮らすOLの毎日を、あったかもしれないいくつもの地続きの人生を、ただなんとなく思う。いつか、どこかで、どちらにしようかな天の神様のいうとおりで転んだ方向にあるのが、地獄につづく落とし穴でも天国にのぼる梯子でも、私が今を選んだ事実は遡って変わることはない。タイムパトロールに追われないように、私たちは止まらない時間の中を生きている。標識のない曲がり角をまがる。信号はいつも点滅している。

だから、ときどき百年後の彼女に電話をかけてみる。もしもし、元気? 元気だよって、そうじゃなくてもあなたは言うんだろう。あなたは私の年齢のとき、ちょっとだけ大きな決断をした。暗い暗い部屋の中で、突然こう思った。あ、そうだ、選ぼうって。たったそれだけのことをひらめいたとき目の奥がぱっと赤くなって、あまりにもまぶしい光にあなたは目をつぶるのではなく逆に凝らしたんだった。そして手をつないだ運命と、ずっとそこにいる。

あなたは実際、百年後の未来から突然やってきたみたいにこの世界に慣れていない。ふつうのことができないし、ふつうじゃないものをつくる。それを好きになってくれる人もたまにはいたけれど、大半の人からは石を投げられた。あなたはべつに、たくさんの人に好かれたいわけではなかった。でも、あなたはあなたの作品のことが大事だったし、そのためならべつに貧乏でも空腹でもよかった。

短大を卒業して就職した会社を半年で辞めたとき、あなたは預金残高で買えるだけの食料を買い込んで部屋に鍵をかけた。再放送のドラマを観て、テレビの画面の中に夢をみて、死んだみたいに日々を過ごした。ある日、だれもが知っているスーパースターの言葉が、孤独なあなたの心臓を鳴らした。その瞬間でなければ決してひっかからないような、とるにたらない言葉だった。でもあなたはそれを全身でつかみとって、自力で舞台に這い上がってみせた。そしてあなたは今あなたの夢の中にいて、同時に私の夢の中にいる。もう貧乏でも空腹でもなくて、その生活を守っていくことを、考え始めている。

百年後にひっかき傷を残すにはいろんな方法があって、たとえば偉大な人物になるとか、絵や文章をかくとか建物をたてるとか子どもをうむとか。私も、あなたも、なにを選んだっていいし選ばなくてもいい。そんな単純なことはだれもわざわざ教えてくれないから、みんな迷う。あなただって迷った。選択肢をぶつけられつづけて、私たちはいつしか二択のクイズにしか答えられなくなって、でもそんなのはぜんぜんちがう。なんでも選べるのにそれを選んだという感情が、かつてあなたを助けた。

そしてあなたは今そこにいるし、私はここにいる。もしもし、元気? 元気だよ。オーケー、私もなんとかやっている。うまくいくかなんてわからないけれど、あなたがいるから、とりあえずやってみる。百年後のあなたの吐息が、風になって大気圏をめぐりめぐって辿り着いたここで。あなたに出会わなかったと仮定した世界の私は今どこにいるんだろう? いくつものパラレルの先に私がいる、あなたがいる。選んで、そして選ばれたということ、血肉として生きていくね。ぜんぶ大丈夫だよ、今日も静かに息をしている、かわいいあなた。

PROFILE

七

そろそろ若さを盾にできないし、したくもない年齢。みんなが部活で揉めたりファミレスのドリンクバーで何時間も粘ったり彼氏とプリクラ撮ったりしてるあいだインターネットにポエムを投稿していたので青春の偏差値が37くらいしかない。好きなものはお笑いとビールと炙りしめさば。

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