1980年代後半、ブラウン管の光をぼんやり眺めていた、物心ついたばかりのわたしの目の前に、彗星のごとく到来したヒロインがいた。
彼女は、マージョリー・トラッシュヒープ。
アメリカのケーブルテレビ、HBOで当時放映していたパペットショー番組『フラグルロック(FRAGGLE ROCK)』に登場する特別な存在である。
ざくっとその世界の社会構造を説明する。
主人公であるフラグル(地下住人の小人族)たちは、人間のおじいさんが住んでいる小屋の壁の穴の中に住んでいる。
人間や、フラグルを見つけると吠えて人間に知らせようとする好奇心旺盛な犬、フラグルたちを捕まえて遊ぶのが趣味の裏庭に住むトロールの家族など、外に出ると未知なる大きいものが自分たちを捕まえるのではないかという不安からいつもビクビクしながらも、地下の世界で歌ったり踊ったり、それなりに楽しい日々を過ごしている(なんとなく弾圧されていた時代の社会主義者たちをイメージさせる)。
その生活の中で沸き起こるいろいろな謎、悩みに対し、アドバイスをくれるのがマージョリー・トラッシュヒープ(ゴミの女王様)だ。
登場人物は皆、困ることがあったら、危険を冒してでも彼女のところに知恵を求めに行く。
ゴミ溜めの中に向かって彼女の名前を呼ぶと、ムクムクと起き上がり、彼女が出てきて、もったいぶってアクビをする。
彼女の身体は枯葉、空きカン、ガムなどのゴミでできていて、2匹のネズミが住み着いている。
彼女ならなんでも知っている。
彼女はいつもレイドバックしている。
慌てて助言を求めるものたちに「まあ落ち着きなって」と気だるげに言い、
おもむろにブルースやファンクを歌いはじめる。
そして、彼女の予想の斜め上を行くアドバイスに対して最初は困惑していた面会者も、
なんとかそれっぽく解釈して、満足して帰っていく。
ゴミでできているのに、みんなのヒーローで尊敬の対象であるマージョリー・トラッシュヒープ。
それは、彼女が知っているものが「問題の答え」ではなく、「問題を受け流すアティチュード」だからかもしれない。