恋の消滅、愛の派生/玉木はる

恋人を憎んでいる。公募で選ばれた「愛憎の記録」

2017年12月 特集:だれと生きる?
テキスト:玉木はる 編集:野村由芽
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毎日LINEを送り合い、週に一度は会う。
他愛もない話で何時間も飽きずに盛り上がれる、そんな恋人がいる。

私は、恋人のことを憎んでいる。

9年目になる付き合いの中で、私たちは、3年前に一度別れている。
お互いの中に降り積もった不満がそうさせた。罵り合いや取っ組み合いもなく、話し合いの末私たちは別れたのだった。

1か月後、元恋人は新しい恋人を作った。
時折連絡を取り合っていた彼の口からそれを聞かされて、私は呆然とした。
納得して別れたつもりだった。これ以上関係を続けていくことはできないと、手離したはずだった。
しかし、あまりにも早すぎないか。彼の私に対する気持ちは、その程度のものだったのか。あまりにも薄情だ。
その後の日々は、地獄だった。
彼を恨み、吐き出せない苦しみは内に内に溜まっていく。
私だけが、別れの耐え難い痛みの中に留まっていて抜け出せず、一方彼は同じとき、新しい彼女と楽しい時間を過ごしている。
その思いは彼に対する憎しみを増幅させた。悲しみや寂しさよりも、怒りで私ははち切れそうになっていた。
真夜中、ベッドの中で抱き合う二人の姿を想像しては、今度は自分を責める。「どうして、どうして」と答えの出ない問いばかりが頭に渦巻いて、夜明けはやって来なかった。

1年後、「やっぱりはるちゃんしかいないよ」という言葉と共に彼は戻って来る。私は性懲りもなく受け入れた。

それから2年が経ち、今穏やかな二人の時間の中で、あのときの思いは、しかし決して消えないのだった。
ふとした拍子に呼び起こされて心が爆発する。
そうなると手に負えない。
小さくなって見えなくなっていた炎が、再び激しく燃え盛るのだ。
泣いて、喚いて、地団太を踏み、どうにもならないことを訴え続けた。
「あんたは私を殺しかけたんだ。のうのうと楽しそうにしやがって」
私を、死にたいほどに追い込んだ当の本人が、なぜ目の前でヘラヘラと笑っていられるのか。罪の意識を持て。
彼が、私と同じほどに苦しまなかったことが悔しかった。

いつだってあのときに立ち返る。
何度でも、くりかえしくりかえし、まるで今そこで行われているかのように、鮮やかに蘇る。怒りと共に。
生々しく血を流し、私は飽きもせず、傷つき続ける。
 
彼を憎いと思う。
ならばなぜ、私は彼と別れないのだろう。繋ぎとめているものは何なのか。

愛は許すことだと、どこかの何かで読んだ。
果たしてそうだろうか。
憎むべき相手を許そうと努力することは、いわば自分自身との闘いである。そこには自分しかいない。相手がいない。愛とは一人で成すものだろうか。
愛のことは知らないが、恋は許さないことである。
この執着こそが、恋である。
この執着を目の当たりにして、あの地獄のような1年間も、私は、彼をずっと好きだったのだなと気付いた。そして思った。私は彼を絶対に許さない。

50年後に、この憎しみが果たしてどうなっているのか知りたい。
ヨボヨボのおばあちゃんになってもまだグチグチと言っていたら、「それはそれでちょっとすごいよ」と彼はまるで他人事のように笑っている。
この憎しみが自然に消えたとき、そこに恋は残っているのか。
彼に対する気持ち自体も冷めて失くなっているのか。
恋が消え、そのあとに愛があるのか。
それを知るためだけにでも、この人と一緒に生きてみたいと思う。

PROFILE

玉木はる
玉木はる

売れないバンドマンの彼女。

恋の消滅、愛の派生/玉木はる

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指先に白い地図をたずさえて