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年齢も体力も変わる自分。どう生きる?と100回問うた先に/青羊

「時」は超強引にぐいぐい私の背中を押して来た

2018年3月 特集:変身のとき
テキスト:青羊(けもの) 編集:野村由芽
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振り返ってみれば、2017年は脱皮していたのだとわかる。
いまはすごく自由で、もしかしたら、背中に羽が生えたのかもしれない。

細胞が再生し続ける限り、生物は意思に関わらず変化し続ける。
細胞がそうであれば、心や考え行動も変化せずにはいられないのだと思う。
きっと、DNAには「メタモルフォーゼ」って書いてあるんじゃないかって思っている。
(「メタモルフォーゼ」《ドイツ語: Metamorphose》変身、変形/『大辞林』より)

生物は同じことを繰り返せないようにできていて。
例えば、1週間毎日カレーを食べたら嫌になってしまうのは、
細胞自体が他の栄養(=つまり変化)を求めているからだと思う。

私にとって、2017年の「メタモルフォーゼ」は特別だった。
「メタモルフォーゼ」単体ではなく「時」と結びついたからだ。
「メタモルフォーゼ」を自分が選択しているのではなく、見えない何かが選択し操っているみたいだった。そして、その見えない何かは「時」だった。
「時」は超強引にぐいぐい私の背中を押してきた。
「もう、前に進むしかないですからね」と。
「時」が私にそう伝えているかのように2017年はずっと鐘の音が鳴っていた。
2018年のいまはもうその鐘は聞こえない。

2017年以前の私は、いまより子供だった。
自分の思い通りにならない時、だだをこねた。
ものごと、人に対してシャットダウンしてしまうところがあった。
いまになってみれば、以前の自分はイジケテいたのだ。
だけれども、2017年。
私にとっての大仕事、アルバム制作と同時進行で、
その小さな女の子のような性格を改めることも、ほぼ強制的に進行した。
なにかひとつのことをする時、プロデューサー、レーベルスタッフ、アレンジャー、プレイヤーそれぞれに事情があることを推し量りながら、相談し、合致する点を見つけていくこと、それを学んだ。
何度も戸惑い、繰り返し、慣れるまでに時間がかかった。
腑に落ちるまで、身体に馴染むまで、私は2017年の前半を泣いて過ごした。
事あるごとに、涙がこぼれた。
(魚座だからこんなに涙が流れるのか? とも思った)
きっと、新しい考えを受け入れることに、混乱していたからだと思う。
「混乱と涙」は私を脱皮へと促した。
2018年のいまでもそれは完璧にできるわけじゃないけど、
前より人の事情にも気付くようになったし、相談することを覚えた。

もし、他人が自分の願うように動いてくれたら、
それは只々ラッキーで、単純に感謝すればいいということ。
それぞれに事情があって、
世の中の大半というか自分以外すべては思い通りにならない、
つまりは、思い通りにできるとしたら自分だけだということ。
そして、他人の力があるから、見たことのない世界へいくことができると実感したのだった。
アルバムを通して、考えを改めることになるなんて、正直思ってもみなかったけれど。
2017年夏に完成したアルバムは「毎日聴いてます」という言葉をよく貰った。
もう、これは私にとってのご褒美で、ほんとうに嬉しい感想だった。

 

2017年1月のある朝にパソコンの前でできた曲は、
私の背中を押してくれた、一緒に歩いてくれた、あるいは引っ張っていってくれた。
アルバムのリード曲であり、タイトルを“めたもるセブン”と言います。
「めたもる」はメタモルフォーゼ。「セブン」は2017年。

けもの『めたもるシティ』。ジャケットのイラストは漫画家の池野恋さん。

同じ時期に夢中で読んでいた東村アキコさんの漫画『東京タラレバ娘』にも影響を受けています。
20代に求めた妄想みたいな夢は、33歳の主人公の手には結局入っていなくって、主人公・倫子は東京の街を見ながら「ただ自分が納得いく答えをみつけたいだけ」と心の中でつぶやく。その主人公に自分を重ねてみたりした。
毎秒毎秒変わっていく東京で暮らしながら、年齢も体力もそのスピードにつけなくなった時、じゃあどう生きていけばいいの? と自分に問うてみる。
その問いを100回ぐらい繰り返した先に、「変身のとき」がようやく顔を出す。
ニコリと笑いながら。

この“めたもるセブン”はMVもつくりました。
インスタ越しに憧れていたおみゆさんこと小谷実由さんが出演を受けてくださいました。
知り合いの事務所がちょうど神宮球場の辺りにあり、屋上から見る景色がどんどん変わっているんです。旧都営霞ケ丘アパートなどの周囲の建物が壊されて、新たな建設が始まったり、クレーンが林のように並んでいたりします。
オリンピックに向けて再生していくTOKYOをおみゆさんが闊歩しています。

「メタモルフォーゼ」+「時」=「変身のとき」は、私にはたまたま2017年だったようで、
いまはあの強引な「時」の気配はなく、ただ小さな細胞分裂を日々繰り返している。
「変身のとき」と入れ替わるかのように、2018年現在は胃の中に「ずっしりとしたもの」の気配を感じている。その「ずっしりとしたもの」は、私に「何があっても大丈夫。楽しめるよ」と教えてくれる。

 
そして、2018年始めにもうひとつギフトがやって来ました。
それは2017年のおまけ。3月末に発売となるレコードのジャケットのこと。
2017年「池野恋」さんに描いて頂いたイラストの女性が、
2018年には「寺本愛」さんに新たに描いて頂いたイラストの女性へと変身する。
恋→愛 へ。

(「寺本愛」さんの「独特な瞳の女性」を意識したのはこのサイト「She is」からなので、
こうやってチャンスをもらって「She is」で執筆させて頂いたのも、また、嬉しい)

けもの『變異的城市(めたもるシティ)』(アナログ盤)。ジャケットのイラストは寺本愛さん。

このジャケを寺本愛さんに依頼したことをきっかけに、
新しい曲(タイトル“月食過去未来、愛”)ができました。
最後に、その新しい曲の歌詞を一部分だけ、ココに記します。

<月とコスモス、太陽が 一直線に並んだ時
過去と未来がほんのちょっとだけ 愛によって、交差する>

 

PROFILE

青羊
青羊

からだの奥にぽつんとある大事な感覚 それが“けもの”。
“けもの”は青羊のソロユニット。曲をつくる、歌う、朗読する。
アルバムは「めたもるシティ」(2017年)・「LE KEMONO INTOXIQUE」(2013年)など。
言葉が連れて来るメロディーを基本に、ジャンルはその時の気分で決めている。
2017年はシティ・ポップ。2018年はNerd-Rockの気分。
朗読と音楽のライブでは翻訳家柴田元幸と共演している。
(写真:©田里弐裸衣)

INFORMATION

リリース情報
リリース情報
けもの
『めたもるシティ』(CD)

2017年7月19日(水)発売
価格:2,700円(税込)
発行:ヴィレッジレコーズ
Amazon

けもの
『變異的城市(めたもるシティ)』(アナログ盤)

2018年3月30日(金)
価格:3,888円(税込)
HMV record shop

イベント情報
『アルバムリリース記念ツアー』

2018年3月23日(金)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:岩手県公会堂21号室
料金:4,000円(1ドリンク込み)
出演:
けもの with 菊地成孔
坪口昌恭
トオイダイスケ
守真人

『魚の夢を見た』

2018年3月24日(土)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:岩手県公会堂21号室
料金:4,000円(1ドリンク込み)
出演:
柴田元幸
菊地成孔
けもの
トオイダイスケ
公演の詳細

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