The dolphin(パブ)
163 -165 Mare St, London E8 3RH
ビール1パイント4£×2杯
男の子とイーストロンドンでいちばん最低なパブと名高いThe dolphinの前で午後4時に待ち合わせ。アタシは完全に昨日の夜の浮かれすぎを引きずっていて、まるでゾンビみたい。身体が重たい生きるゾンビ。本当に最低な気持ちで、とりあえず蘇生するために寝起きはコーヒーを飲み、申し訳程度に健康に気を使いサラダを食べて家を出る。月曜日が来たら朝はやく起きて泳ぎにいこう、と心に誓う土曜日の夕方。
The dolphinはクソみたいな音楽が大音量で鳴っていて擦れたジジイとババアが踊りまくっている、そんな場所。唯一いいところはこのエリアの他のパブよりも1£ほどビールの値段が安いところ、あとは遅くまで開いてるというところ。それ以外にいいところは一つもない。まだ今日は始まったばかり(そのうえアタシはゾンビ状態)だからここに来る必要はなかったんだけど、デートっぽくなくて面白いかなと思った。男の子はアタシにこう言う「みんなThe dolphinが嫌いなんだけど、遅くまでやってるから女の子を家に連れていけるかどうか揺れ動いてるときはここで様子を見るんだ、それか完全に酔っぱらって仕方なくハイになるかのどっちか」。
パブで鳴っている音が大きすぎて叫びのように男の声が耳に届く。アタシだけ勝手にまだ寝起きのような気持ちだけど、挨拶のかわりに1杯ずつビールを流し込む。またアタシたちの1日が始まってしまった。外は明るくて、この部屋はとても暗い。
Victoria Park(公園)
Grove Rd, London E3 5TB
公園 0£
やっぱり昨日の夜をまだ引きずっているせいで、なんとか人間に戻るためThe dolphinから歩いてすぐの巨大な公園Victoria Parkを散歩することにする。大きな池があるからボートにでも乗ろうかって話をしながら、アタシは完全にその提案をギブアップして芝生に横になる。まったくデート日和ではない。二日酔いとさっき飲んだビールをお腹のあたりに感じながら、空を見上げる。
「ねえ見て、あの雲さあ龍みたいじゃない?」男もアタシの隣に横になり、二人でアホみたいに空を見つめる。「まるでこの地球上に僕たちしか存在してないみたいだ」。アタシは「そうだね」と相槌を打ちながら、「あの世なのに君はいない」と歌を口ずさむ。「なにそれ日本語?」「そうだよ」「なんて言ってるの?」「ナイショ」。
男と繋いでる右手の皮膚がヒリヒリする。男はアタシのヘタな歌をかき消すように iPhoneで音楽ながしはじめる。遠いところまで来てしまったな、と思いアタシはぎゅっと目をつむる。はやく夜になって色んなことが曖昧になればいい。
Sainsbury's Local(コンビニとスーパーの中間、まいばすけっと的な)
27-31 Mare St, London E8 4RP
瓶ビールとチップス 5£
コンビニで瓶ビールとポテトチップスを買ってダラダラと1時間かけてHolbornまで歩く。イーストロンドンから Holbornまでの1時間ちょっとの散歩はいつも気持ちいい。道端にたくさんマットレスが落ちていて、発見するたびにアタシは足を止めて写真を撮る。アタシはちっぽけなマットレス写真家。誰もアタシのことを知らないから、 どこまでも自由だ。そうしてアタシはまたビールをごくりと飲む。「君はモンスターだ」と男は言う。「そうだよモンスターだよ」と答える。「もし貧乏な家に育ってなかったら今頃ぼくはヒマを持て余して死んでただろうな、つまりは感謝だな」と男は突然言う。「アタシたちは金のない環境で育ったせいでいつまでも怒りっぽいよね、どうにでもなれと思ってやっと稼いだ小金をバグってたまに使い果たしちゃうよね、でもしょうがないよね、だって事実だもん」とアタシは答える。もう文句言うなよ大人なんだからって言われるのは承知だけど、復活不可能な傷というのも確実に存在する。生きるのは本当に虚しい。
Curzon Bloomsbury(最高の映画館)
The Brunswick Centre, London WC1N 1AW
ウィンドウショッピングならぬウインドウ映画。トイレ借りた。0£
Holbornに着く。このエリアは中心部なのにとても静かで、死者たちがこっそり生きている街って感じがしていい。ヴァージニア・ウルフがかつて住んでたエリアでもあり、ああもう大好き、歩くだけでたのしい、ロンドン大好き。
このエリアにはCurzon Bloomsburyという素晴らしい映画館もある。5つのスクリーンがあって、そのなかのひとつにはBertha DocHouseと名付けられたなんとドキュメンタリー専門のスクリーンがある、そんな映画館。ドキュメンタリー専門って、信じられる? サイコー。毎週日曜日の夜に(懲りずに酒で重たくなった身体を引きずって)ここで映画を観るのが大好きだ。いつもガラガラで、満足感の高い孤独って感じ。
アタシたちはこの映画館でトイレに行きがてら今週のラインナップを見る。「ねえBARBARA KOPPLE監督の、ケンタッキー州 で1976年に行われた炭鉱労働者のストライキのドキュメンタリー観ようよ」「あ、でも来週まで待てばFEMALE HUMAN ANIMALがやってるよ」「ラテンアメリカのフェミニストの小説家のドキュメンタリードラマ」
The duke(パブ)
7 Roger St, London WC1N 2PB
魚のフライ 5£、1パイント5£×4杯
本当は教えたくない、完全にロンドンで一番好きなパブ。ここでパーティしたい。別になにもスペシャルなところはないんだけど、壁がピンクで、クラシックですごく可愛い。あと、ふとした瞬間に耳に入るごく小音で流れる曲はビリー・ホリデイ。スペシャルじゃないってことが心地いい、みたいな感じでそうゆうタイプの愛をいつか手に入れられたらいい。アタシは一切嫉妬をしないし、多くを求めないし、相手を喜ばすことばかりを考える。そんな愛。
E1 London
unit 2, 110 Pennington St, St Katharine's & Wapping, London E1W 2BB
24£ぶんの酒
友達と合流してCav Empt×TTT×Hinge Fingerのパーティに。デートじゃなくなっちゃった! 楽しかったです。
Uber 8£
誰かの家にみんなで流れる? どうする? ってダラダラしているうちに太陽がちらつき始める。ここでちょっとだれてしまって、アタシたちは夜を続けるのを諦め、同じ方向に住んでる数人でUberを割り勘して家に帰ることに決める。朝になるたびにアタシは世界から取り残されたような気持ち、というよりはもはや追放された気持ちになる。夜が永遠に続く、そんな奇跡を残しておくために世界は朝から始まったんだわ、世の中はなんて思わせ ぶりに構成されてるんだろう、もっと遊びたいよ、まだ全然シラフじゃないよ、どうしてくれるの、アタシはブツブツとUberの中でみんなに訴えてウザがられる。だいじょうぶ、来週も一緒にあそぼうね。
Camberwell(アタシの住んでるエリア)
ひとりで眠るのにもやっと慣れて、それがうれしい。部屋が狭くても、窓が大きくて、目の前が公園なのがうれしい。もう誰のことも傷つけたくない、とそっと祈り、まだ寝ません、と文字通りつぶやき、自分の声だけが部屋にこだまして、アタシは目を閉じる。