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料理をしなきゃいけない、を捨てよう/黒井いづみ

料理をしない自分を責めずに、休むことを優先させる

2019年7・8月 特集:やすみやすみ、やろう
テキスト:黒井いづみ 編集:野村由芽
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職場が変わって3か月ほど経った。転勤手当がつくくらいの遠距離転勤だったので家も変わった。「もう慣れた?」と訊かれるけれど、正直よく分からない。慣れてきたな~と思った頃にまた新しいルールが目の前に現れるので、このままいつまで経っても慣れないんじゃないか。

引っ越し業者がなかなかつかまらなくて、転勤して最初のひと月は冷蔵庫も電子レンジも洗濯機もない部屋で暮らしていた。小さなテーブルとふとん、あとはこまごました荷物が散らばるだけの部屋、と職場を行き来するうちに、いろんなものがそげ落ちていった。主に料理をしようという意欲が。

ほとんど料理ができない状態で社会人になり、ひとり暮らしを始めたのが数年前のこと。実家のレシピをまるっきり受け継がなかったかわり、自分でいろんなレシピを調べて覚えていった。冷凍のパスタに自作の半熟卵を乗っけたときには感動した。味玉を仕込むようになった。ツイッターで見つけたフライドポテトの作り方を真似したこともある。揚げたてのフライドポテトがどんなに綺麗な黄金色か、自慢して回りたい気持ちになった。失敗したこともあるけれど、料理スキルを身につけていくなかで、じわじわ自己肯定感を高めていった気がする。これは初めて温泉たまごを作ったときの短歌。

世界一主人公かも出来たての温泉卵の黄身をすくえば

今はほとんどコンビニのごはんで生きている。料理をしないことに対する罪悪感がぬぐえなくて、パック詰めされたサラダにベビースターを混ぜたりしている。なんとなく手を加えた感が欲しいのだ。悪あがきです。

新しい環境に、正直ちょっと疲れている。エネルギーの充填が必要、土日に料理作りおきとか無理。元気になったらやります。それでいいはずなのに、どうしてもさぼっている、怠けているような気がしてしまうのは何故だろう。この数年でせっかく獲得してきたものをほったらかしにしているから? あるいは女子たるもの料理くらいできて当然、という刷り込みのせい?

そんなのはやめたいな。料理のおかげで自己肯定感を高めてきたはずなのに、今度は料理のせいで自己肯定感が下がっちゃうのは変だ。毎朝起きて化粧して仕事して残業して、それだけでいいじゃん。栄養バランスを考えてごはんを買っているだけでもえらい。

料理をしなきゃいけない、を捨てよう。もしエネルギーがたまらなくて、料理をしようという意欲が戻ってこなかったなら、そのときのわたしに必要ない、あるいはしないほうがいいことなんだろうと思うことにする。そうすれば、もっと自由に、もっとわたしのことを好きになって生きていけるはずだ。勇気を持って休みます、わたし。さて、今日の晩ご飯は何にしよう。

PROFILE

黒井いづみ
黒井いづみ

1991年生まれ。中学2年生から短歌を始める。あだ名は「好きな服着るやくざ」。将来の夢は草野マサムネに歌集の帯文を書いてもらうこと、自分の短歌に合唱曲をつけてもらうこと。スピッツ短歌アンソロジー『短歌ウサギ』同人。

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