気に入った洋服で出かける時の高揚感に名前をつけたい。
あの気持ちを何と呼ぼう。
いつでも願いが叶う気持ちになれる。
それは物心ついた時からあった。
例えばそれは幼稚園の制服の赤いジャンパースカートとジャケットだったし、母に大丸で買ってもらったワンピースだった。
大人になってからは、カシミアのニット、バーバリーのジャケット、シャネルの口紅やマノロブラニクの靴がそうだ。
心地よく背筋が伸びた。
下着できちんとはじめてその気持ちを感じたのは、ずっと大人になってからで、その時のことはとても鮮明に覚えている。
ニュージーランドのLonely Lingerieを見つけた時の興奮は今でも忘れられない。
10代のはじまり、私はいつでも世界に違和感を感じていて、それをうまく口にする術を持たなかった。
もしあの頃の自分に会えるのだとしたら、そういう違和感で傷つかないようにそっと教えてあげたい。
百貨店で買う妙に子供っぽい白いスポーツブラも、駅ビルのショップに売っているケバケバしい配色で分厚いパッドが入った安っぽいブラジャーも、それが下着の世界の全部ではないことを。
あの頃身にまとっていた子供っぽいスポーツブラや似合わないランドセルは、私をどんよりした気分にさせた。
あの息苦しさはきっと今も私の原動力だ。
「私の生きる世界にはどうして、私が一番好きだと思える、美しい下着がないのだろうか」
デザインが好きで身体にフィットするブラジャーを探すことは、服を探すことの何十倍も困難だった。
私の10代~20代前半の頭の中にはいつも、
「なぜブラジャーにはワイヤーが入り、コテコテとした花の刺繍が施され、分厚いパッドが入っているのだろうか?」
「日本にはなぜ、コムデギャルソンのようなブランドがあるのに、それに似合う下着がないのだろうか?」
という疑問があった。
日本には「思想に共感できる」「感情にフィットする」下着のブランドがなかった。
今ならその理由がわかる。
日本ではずっと長いあいだ、ブラジャーの商品企画に関する意思決定にも、広告に関する意思決定にも、女性が関わることが圧倒的に少なかったからだ。
例えば、フランスを代表するランジェリーブランドChantal Thomass、Maison Lejabyは両ブランドともに創業者が女性であり、ほかにもヨーロッパには女性が立ち上げたランジェリーメゾンが多く存在した。
ブラジャーを「自分たちをより美しく魅せ、快適に過ごすことができるようにするためのもの」と考える女性が中心となってつくり上げた文化と、ブラジャーをつける必要がない男性が中心となってつくり上げたそれはまったく違った。
いつでも谷間のある盛り上がった胸だけが美しいと決めたのは、細いアンダーバストが正義だと決めたのは、誰だったのだろうか?
その意思決定の場所にずっと女性がいたとしても、先人たちは同じ下着を身につけて生きてきたのだろうか?
こんなにも多様なキャラクターや気分を表現する服のブランドがあるのに、下着にそれがないのはどうしてだろうか?
これまで、Theoryのジャケットと白いシャツでプレゼンをする日も、胸の開いたトップスとタイトスカートで夜の街を歩く日も、シフォンのワンピースで恋人と出かける日もあった。
締め付けないブラトップは、それらのすべてに“合わせる”ことはできたと思うけれど、それらの洋服と同じくらい気分を高揚させてくれる下着ではなかった。
緊張するプレゼンを落ち着かせてくれたのは、イタリアで買った美しいレースのLa Perlaのランジェリーだった。もちろん、それを着ていることは私しか知らない。
胸の開いたトップスが綺麗に着れたのはヌーブラのおかげだった。
休日のデートではフランスで買ったレースのブラレットが、気分を高揚させてくれたし、リラックスさせてくれた。
私は自分の人生に「下着のよそおいの選択」があることをすごく幸せだと思った。
ヨーロッパの下着文化に触れて、大人になって、その日の気分と着る洋服に合わせて下着を選ぶ自由を手にした。
現代を強く生きる美しい女性たちが、洋服を選ぶように自由に下着を選ぶことができる市場をつくりたかった。
2017年はじめににスタートしたランジェリーセレクトショップTiger Lily Tokyoも、今年2019年の新しいチャレンジであったノンワイヤーランジェリーブランドMon Bebe Lilyもその一心で取り組んできた。
世界中で「#MeToo」運動が盛り上がり、多様性が推進されている現代においてセクシーの定義は変わりつつある。
「胸が大きい方がいい」という時代は終わりを迎えつつあり、他人に定義された「不自然」「偽物」のセクシーを目指すのではなく、ひとりひとりの個性を生かしたファッションを楽しむ新しい時代がついに到来した。
Tiger Lily Tokyoをスタートした2017年はまだ日本では「胸は寄せて、あげて、盛るもの」という考えが普通だった。
その中で「自分の体型を生かすべき」「締め付けて痛い思いをしなくてもいい」という話にピンとくる人の人口はそう多くなく、特にビジネスシーンで男性からの理解を得ることには並ならぬ困難を感じた。
それでも私たちは、ランジェリーを身につけた自分が「他人からどう見えるか」ではなく「自分がどう感じるか」それが一番大切なことだと一貫して信念を貫いてきた。
スリムなモデルだけを起用した写真広告に違和感を覚える女性が増えてきているように感じる。
自分ではない誰かになることに、世の中の女性は疲れてしまった。
そのままでいい、今のままが美しい。
お腹がへこんでいなくてもいい。
谷間がなくたっていい。
無理しなくていい。
誰かのための「美しさ」ではなく、ありのままの自分を愛して、自分の人生を生きよう。
無理をしない、ありのままの自分を愛してくれる人の方がきっとあなたを幸せにしてくれる。
それがMon Bebe Lily、そしてTiger Lily Tokyoを通じて伝えたかったこと。