通訳から出張整体師へ。体の観察・実験で出会ったもの/万力春乃

やりたいことを邪魔する体にむかついていたけれど

2021年3月 特集:出会う、何度でも
テキスト:万力春乃 編集:竹中万季
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寝起きに浴びた朝日、お昼に食べたブロッコリー、さっき驚いて飲んだ息、これを読んでいる今の姿勢。
体は、いろんな刺激を受けて一瞬一瞬変化しています。ひとつも、1秒も、同じ体はありません。

自分だけの自分にしか気づけないその変化を観察して実験する。
わたしはそれが楽しくてたまりません。体の観察と実験が楽しくなるきっかけとの出会いになりますようにと願いを込めて、出張整体師としていろんな場所で体の話をしています。

善光寺近くのお店「シンカイ」でのセルフケア講座(長野)

整体師になる前は、通訳や翻訳の仕事をしていました。日本各地に急に出張したり、徹夜したりすることもよくあったその頃は、自分にとって体は邪魔なものでした。出張と生理がかぶってしまい痛みで嫌な汗をかいたり、締め切りの直前に頭痛におそわれたりしていたからです。

なんでそんな自分が体の勉強を始めたのか、今改めて考えると、負けず嫌いだから、やりたいことを邪魔してくる体にむかついたのかもしれません。体のせいでやりたいことを諦めるのが辛かった。だからどうにかして健康になりたかった。さらに、警戒心が強くて人に体を預けるのが苦手なので、自分で、健康になりたかったんだと思います。

気に入っているセルフケアのひとつ―土や草の上に寝そべる(北海道)

今のわたしの核になっているのは、「人間にはもともと自己治癒力がそなわっているから、その力を活かすだけでいい」という考え方です。この力があるから、傷は自然にふさがるし、不要なものが勝手に体から排出されるし、攻撃してくる菌を退治するために熱が出ます。体の反応にはちゃんと理由があって、体を生かすために発生していたんです。死なせないためでした。体の反応に邪魔されていると感じていたのに、本当は救われていたなんて、なんて面白いんだ! と思いました。

体の勉強を始めたばかりの頃は、痛くなった時に自分で治せるようになりたい、友人が抱えている痛みをとってあげられるようになりたいと思っていました。だけどこの考え方に出会って、それだと結局痛み止めを飲むのと変わらないと気づきました。痛みに理由があるなら、根本的な原因を解消できれば再発しにくいんじゃないかと考え始めました。もちろん薬で痛みを感じなくさせてしまう方が早くて簡単なんだけど、わたしの中で「実験」の楽しさが面倒くささを上回りました。

それまでは邪魔で仕方がなかった体のいろんな症状を分析して、仮説を立てて、実験するようになりました。水分補給や座り方など生活の小さな点を意識して変えていくだけで、体はどんどん変化していきました。何のための反応なのか、どうすれば痛みが出ないのか、そんなことを考えているうちに、それまでオバケのような未知でこわい存在だった生理痛や頭痛の輪郭が見えてきて、どんどん実験に夢中になりました。

整体の施術はやめて、根本的に改善する方法を一緒に探すカウンセリングだけにしようと思ったことが何度もあります。整体師がいなくても体は自分で整う力を持っているから。

だけど、わたしたちは頑張ろうとすればするほどたくさんの情報や刺激に追われて、心も頭も忙しくなってしまって自分で立ち止まるのが難しくなる時があります。そんな時、人に体をゆだねることで少し元気になったりする。そんな時のためにわたしの整体があるんだと、今は思っています。

どちらにせよわたしが外からできるのは、体がもともと持っている健やかに生きようとする力が働くのを手伝うこと、その力が働きやすい環境づくりを手伝うことだけです。だから、ゆるむ時間と空間を作ったり、滞っている箇所を少し流れやすくしたり、痛みの原因を一緒に分析して解決策を探ったり、回復力を上げる方法を伝えて実験してもらったりしています。

デニムホステル「float」にて出張整体(岡山)

心と体は影響しあっているし、外の環境と体内の環境、内臓も脳みそもすべて複雑に絡み合っています。それでもどんな環境にも適応して生きていけるように、体は作られています。いろんな反応はその適応の過程の一部です。それは現在の科学ではまだ人間をゼロから作り出せないほどの高度な技術です。そして、全人類が100点満点で健康になれる薬はまだ発見されていません。そもそもどんな状態を「健康」と呼ぶのかも人によって違います。だから世界中の人がそれぞれの考え方や視点で薬や治療法を生み出しています。

生活しているだけで、体に関するいろんな知識や情報と出会う機会があります。だれかが作った「常識」にとらわれず、新しい出会いを楽しんで欲しいなと思っています。自分の体で実験するつもりで試して観察してみてください。自分が美味しいと感じるものは自分にしかわからないように、自分の体にその方法が合っているのかは自分にしかわかりません。その時の自分に合っていれば、スッキリしたり軽くなったり気持ちよかったり、心地よさを感じるはずです。少しでも違和感や不快さを感じるときは立ち止まってください。説明してもらった言葉に納得ができないときは、自分で調べてみてください。

体と向き合い続けるのは簡単なことではないです。答えを見つけたと思っても、自分も環境もどんどん変わっていくから。唯一絶対の正解がないから。だけど、だから面白くて、終わりがなくて、楽しくて、むかつきます。

気に入っているセルフケアふたつめ―動物とふれあう

体の実験を通して出会う、今まで隠れていた自分の一面やさっきまでと違って見える世界を、楽しんでもらえたら嬉しいです。

1日の終わりのセルフケア

1)横になり、おでこや胸元、お腹、お尻、ひざなど、
その時にふれたいと思った自分の体のどこかに手を置きます
2)息を吐くたびに手が体に沈みこむイメージで、気持ちよく呼吸します
3)自分の心や体が何を感じているかボーッと観察してみましょう

PROFILE

万力春乃
万力春乃

日本各地への出張整体や、オンラインでのカウンセリングを通して、ひとりひとりの生き方にあわせた体との付き合い方を提案する。「生理な体の実験室」やYouTube番組「生理のじかん」で、生理関連の観察と実験報告をしている。

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