滝口悠生『高架線』/「この本を一冊読み終わる頃には、みんなの生活の全てを知りたい気持ちになってきます」(藤原麻里菜)
東京の地味な駅にある激安ボロアパート「かたばみ荘」のある一室から始まるゆるやかな生活と人生の物語です。部屋を中心として様々な人生が語られます。
私は、電車から街を見下ろして、「人がたくさん住んでいる……」と当たり前なことを思う時があります。洗濯物や汚い室外機とか、バルコニーに雑に置いてある植物。私とは別の不思議で素敵で面白い人生を送っているんだろうなと思うと、なんだかこう、わくわくしてきます。
これを読んでいるあなたも私も、誰も彼もが、このかたばみ荘の住人のように、ゆるやかで面白い生活をしているんだろうな。この本を一冊読み終わる頃には、みんなの生活の全てを知りたい気持ちになってきます。(藤原麻里菜)
土井善晴『一汁一菜でよいという提案』/「知らず知らずのうちにかけられていた『食事とはこうあるべき』という呪いを解いてもらえた」(ものすごい愛)
毎日忙しなく暮らす中で、知らず知らずのうちにかけられていた「食事とはこうあるべき」という呪いを解いてもらえた。パンと味噌汁でもいい。具沢山の味噌汁に冷やごはんを入れ、それで済ませたっていい。量が足りなければ味噌汁もごはんもおかわりをすればいい。整理整頓された秩序の中で気楽にやることが大切なんだ。移ろいゆく季節を五感で楽しみ、スーパーをぐるりと回って旬を知ろう。背筋をしゃんと伸ばし、それでいて肩の力を抜き、愛する人たちの笑顔を思い浮かべながら、さて今日も料理を作りましょうか。(ものすごい愛)
向田邦子『女の人差し指』/「飾らない人間臭さへの愛と、女の生き方への洞察力は時を重ねても色あせない」(龍崎翔子)
食卓、ショーウィンドウ、タクシーの中。向田邦子のエッセイはいつもとりとめもないありふれた日常を切り取る。その筆はありふれた生活の光景を軽やかに飛び渡って、最後に線で繋がるように鮮やかに展開し本題へと向かっていく。このエッセイ集は当時売れっ子の脚本家だった向田邦子が37年前に飛行機事故で急逝する前に連載していた作品をまとめたものである。日常のこと、テレビドラマのこと、食のこと、そして旅のこと。飾らない人間臭さへの愛と、女の生き方への洞察力は時を重ねても色あせない。(龍崎翔子)
武田百合子『日日雑記』/「生活とは日常を絶えずつないでいく淡々とした奇跡にほかならず、であればこんなものの見方で生きていきたい」(野村由芽)
日々を丹念に観察し、詩の魂で散文を綴った武田百合子。出版社勤務や作家の秘書などを経て、喫茶店「ランボオ」の店に立っていたところ、作家・武田泰淳と出会い結婚。思うままに世を見て、ものの見方によって自由に生きることを手にしようとした人の最後のエッセイ集。「鳥肌が立つように煮くれたおでん」の食品サンプルを見て、「こういうものがごたごたあるところで、もうしばらく生きていたいという気持ちが、お湯のようにこみ上げてくる」の一節は、生活に愛着を持った彼女に、生活がくれたギフトのような感覚だと思った。生活とは日常を絶えずつないでいく淡々とした奇跡にほかならず、であればこんなものの見方で生きていきたい。(野村由芽)
池辺葵『プリンセスメゾン(1)』/「自分の心を明るくするものは何かを知り、その光にむかって行動するならば、人は自分の力でプリンセスになれるのだ」(野村由芽)
生活というのは「居場所」を探すことでもあると思う。息がしやすく、居心地のいい場所を見つけることは一人ひとりが自分の幸せの形に気づいていく過程でもあり、だから私は自分の家を探す物語がとても好きだ。『プリンセスメゾン』は、居酒屋勤務、年収200万円少しの独身女性の沼越さん(通称・沼ちゃん)が、マンション購入の野望の実現にむけてすすんでいくお話。タイトルには「プリンセス」とあるけれど、王子さまが家を買ってくれるわけではない。高いお給料をもらっているわけでもない。だけど、自分のために自分を諦めない彼女の目がきらりと光るとき、あ、これはきっと王冠より輝いているだろうなと確信する。自分の心を明るくするものは何かを知り、その光にむかって行動するならば、人は自分の力でプリンセスになれるのだった。そういう、これからの生き方の話。(野村由芽)
白洲正子『たしなみについて』/「『型』を知り、自分なりの審美眼が養われたからこそ叶う自由な生活」(竹中万季)
昨年、松屋銀座で行われた『白洲正子ときもの』展を観に行き、彼女が愛した着物や器などを実際に目にする機会がありました。驚いたのは、とにかく「自由」であるということ。彼女の着物の合わせ方も自由であれば、器の選び方も自由。そのように感じた一方で、彼女自身はこの本で「みんな手軽に『自由』を云々しますけど、私には出来ません」と語っています。「大事なのは、むしろ型を覚えること。自由とは、自由にどんな型にでもはまれること」という考えにはっとさせられました。美しいものに数多く触れ、その「型」を知り、自分なりの審美眼が養われたからこそ叶う自由な生活。白洲正子さんの潔い言葉に背筋がしゃんとする一冊です。(竹中万季)
暮らしの手帖編集部『暮らしを美しくするコツ509』/「一つひとつの行為を投げやりにせずにきちんと目配せをするだけで、随分と変わることもある」(竹中万季)
『暮しの手帖』に掲載された暮らしにまつわる工夫やコツをまとめた一冊。「掃除と収納」「おなじみ料理」「洗濯とアイロン」「ダイエット」「快眠」と5 つの章にわかれ、生活にすぐに取り入れられる工夫がずらりと並んでいるので、めくっているだけで発見があります。「暮らしを美しく」というと一見ハードルが高く感じますが、一つひとつの行為を投げやりにせずにきちんと目配せをするだけで、随分と変わることもあるんだと気づかされます。(竹中万季)
コナリミサト『凪のお暇(1)』/「足掻きながらも自分なりの豊かな暮らしを追い続ける凪を見ていると自分も一緒に戦おうという気分になります」(竹中万季)
空気を読むことに必死な主人公、大島凪。唯一の生きがいが「節約」という凪が、過呼吸で倒れたことをきっかけに会社をやめてからリセット生活を過ごす中で出てくる生活の知恵がとてもおもしろい。冒頭から豆苗を大切に育てているシーンから始まるんですが、お金がなくても作れる美味しい料理が出てくるのはもちろん、お茶の出がらしで畳を掃除したり、パーカーを鞄にしたり……。まわりの空気を気にしすぎると、ついどういう家に住んでいるか、どのくらい稼いでいるか、どういう恋人がいるかなど自分の地位を気にしてしまいがちだけれど、足掻きながらも自分なりの豊かな暮らしを追い続ける凪を見ていると自分も一緒に戦おうという気分になります。(竹中万季)
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