「刹那」を感じる短編映画と本に思いを馳せる、渋谷の夏の夜
過ぎ去った一瞬は、もう二度と味わうことはできません。限られた時間や戻らない日々、私たちは目の前の過ぎていく刹那的な一瞬一瞬と常に向き合っています。She isでは8月に特集「刹那」を展開し、平成最後の夏に多様な別れや一瞬の煌めきを切り取る文章や写真をお届けしました。その連動企画として、毎月の特集テーマから連想される本をゲストに選んでいただくイベント「She is BOOK TALK」を開催。
ゲストは初の長編映画『少女邂逅』が全国でロングラン上映され話題となった映画監督の枝優花さんと、10月6日に第5回目の開催を控える、旅する野外映画フェス『夜空と交差する森の映画祭』代表補佐のちばひなこさんです。
「映画」でつながるふたりにぴったりの映画館アップリンク渋谷を会場に、「刹那」にまつわる短編映画の上映と、本を紹介してもらいました。暑い夏の渋谷の夜、映画と本に思いを馳せます。
「一瞬に対してどれだけパワーを使えるのか、ということがテーマでした」(枝)
この夏、映画『少女邂逅』を公開した枝監督。いじめや死、さまざまな悩みを抱え孤独と向き合う少女と転校生、ふたりの女子高生の交流を描いた物語です。「人間関係がうまくいかなくて、思い悩んだ14歳の時の実体験をもとにつくった映画です」と枝監督。
『少女邂逅』
「私自身、かつて抱いていた『誰とも接したくない』という強い気持ちを忘れかけていて。一生忘れられないと思っていた痛みも忘れてしまうんだ、という思いがこの作品を撮るきっかけになりました。
一瞬は続かないから、今撮るしかない。だから、一瞬に対してどれだけパワーを使えるのか、ということがテーマでした。初の長編映画の撮影で、主演のふたりも長編は初。ぎこちなさも含めて、今しか撮れないふたりを撮ろうとカメラを向けました」と枝監督は話します。
ほかの人と仲良くすることに嫉妬したり、ぼそぼそ喋って笑い合ったり、オフでも映画と同じような関係だったという主演のふたり。「久々に会ったらふたりが大人になっていて、当時の関係性は残っていませんでした。クランクアップから1年しか経っていないのに、もうあのシーンは撮れないんだ、と実感しましたね」。「今しかできないことをやろう」という監督の刹那への向き合い方は、この先もずっと残る「映画」という形で作品となりました。
「言葉で言い表せないことがたくさんある」(ちば)
刹那的な瞬間が切り取られて残ることは、映画のひとつの魅力だと言えるでしょう。今回「刹那」というテーマをもとにアップリンクが2本の短編映画をセレクトし、上映してくれました。
1本目は『わたしはロランス』『Mommy/マミー』など数々の名作を手がけた映画監督グザヴィエ・ドランが、若干15歳で俳優として主演を務めた14分の短編『鏡』です。
多感な思春期ゆえの少年の苦悩や、性への目覚めが描かれた本作。緑豊かなベランダ、プール、家族と共に過ごす避暑地という非日常的な空間で、自分も知らない自分に出会う彼。夢と現実の狭間を感じさせます。言葉数は少なく、目線や表情、モチーフによって、彼の内面が一瞬一瞬変化していくことが感じられ、思春期ならではの儚さが、短編だからこそ浮き彫りになります。
2本目は『エコール』『エヴォリューション』のルシール・アザリロヴィック監督による作品『ネクター』。森の中に暮らす女王蜂とメイド蜂たちが織り成す密やかな儀式を、人間に置き換えて、艶かしく幻想的なタッチで描いた18分の作品です。蜜を生み出すシーンや食事のシーン、どれもが脳裏に焼き付くほど、美しく残酷な映像作品でした。
「『鏡』はモチーフが印象的でした。特に橋のモチーフは、想像をこちらに委ねてくれる感じが心地好かったです。『ネクター』は一瞬吐きそうになるほど、映像にインパクトがありました。『少女邂逅』も蚕をテーマにしていますが、痛みを感じないと言われている昆虫がテーマになっているのは想像が膨らみますね」と枝監督。
ちばさんは「現実は言葉で溢れかえっていますが、言葉で言い表せないことが現実世界にもたくさんあるのだとこの2作品を観て思いました」と感想を話しました。
ミューズとは自分で構築した幻想。『かわいそうだね?/亜美ちゃんは美人』
映画の上映後には、おふたりが「刹那」をテーマに選んだ本を紹介してくださいました。1冊目は「学生の時に、あなたは読んだほうがいい、とおすすめされた本です」と枝監督が紹介してくれた、綿矢りささんの『かわいそうだね?』に収録されている『亜美ちゃんは美人』です。
<さかきちゃんは美人。でも亜美ちゃんはもっと美人。>という書き出しではじまる物語。高校で出会ったふたりは親友同士になりますが、書き出し通り容姿で見比べられることにさかきちゃんは劣等感を抱えます。それでも亜美ちゃんを支え続けますが、最後は思わぬ展開に。ふたりの女の子が大人になるまでを描いています。
「自分にとってのミューズのような存在がいる人には、共感できる作品だと思います。あらためて思ったのは、ミューズというのは自分自身で理想を構築した幻想である、ということ。その幻想が崩されていく転換点が色濃く描かれていて、ショックを受けました。亜美ちゃん自身のことをきちんと見られていなかったのかな、そういうことは現実でもあるかもしれないよなと考えさせられました」。
好きと嫌いを何千回も繰り返す、高校時代の恋や友情。『櫻の園』
ちばさんが選んだ1冊目は吉田秋生さんの漫画『櫻の園』です。
毎年チェーホフの『桜の園』を演じている、女子高校の演劇部が舞台。そこに所属する生徒たちの人間模様や葛藤、思春期特有の悩みを描いたオムニバス漫画です。映画化や演劇としても上演され、一時しかない思春期を閉じ込めた、吉田作品の名作のひとつとして挙げられます。
「女子高校生、という一瞬しか訪れない時間が舞台です。恋の話も友情の話も、何千回も好きと嫌いを繰り返すことができる彼女たちの姿に、とても刹那を感じました」とちばさんは話しました。
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