一瞬の刹那的な行為が、記憶をずっと照らすことがある
数ある夏の風物詩の中でも確固たる存在感を放つ娯楽、花火。手持ち花火をする予定があるというだけで、途端に夏の日の長さが疎ましくなり、夜の訪れが待ち遠しくなるものです。
福岡県のみやま市に、子供向け玩具花火の製造を続けて約90年の歴史を誇る「筒井時正玩具花火製造所」という花火工場があります。国内唯一の線香花火製造所が1999年に廃業し、それに伴い日本から消えゆく運命にあった線香花火の製造技術を3代目である筒井良太が継承、現在も販売を続けており、歴史を引き継ぐものとして「守りながら磨く」ことを重んじる中で、「伝統は革新の積み重ねでもある」という精神をも同時に持ち、若者の関心を惹くような先進的なデザインがほどこされた花火を多数世に送り出しているのです。
今回はそんな「筒井時正玩具花火製造所」の商品を含む手持ち・噴出などの玩具花火を花火問屋にて複数購入、河川に出向いて実際に遊んでみることに。
あの夏あの場所でおこなった花火は、職人がこだわりぬいた光、誰かが守り続けてきた光です。そしてそれは気晴らしの枠を超え、慰めにすら何度もなってきたのではないでしょうか。一瞬の刹那的な行為が、記憶をずっと照らすことがある。ひとつひとつの花火のきらめきとその模様をレポートとしてお届けします。
「筒井時正玩具花火製造所」による、現代的なデザインの花火
・「ミッドタウン」
「筒井時正玩具花火製造所」の新作で、都会でも遊びやすいようにつくられた煙の量が少ない花火。写真にも煙はほとんど映りませんでした。お菓子の包装を思わせるようなパッケージで、実用性が優れているだけでなくおもちゃやインテリアとしての愛らしさも兼ねた逸品。
・「ビッグスター」
太めの薬筒が特徴の、伝統的なデザインをそのまま受け継ぐ手持ち花火。パーティーを連想させるキラキラしたパッケージで、フリンジのような飾りも施されています。お祭り気分を増幅させる賑やかさが魅力。
・「和火 炭火」/「洋火 三色芒」
木炭の素朴な光が魅力的な「和火」と、彩色光剤で鮮やかな光を放つ「洋火」、二種類のシリーズ。違いを味わいたい方のためのセット売りと、お気に入りを楽しむためのバラ売りの取り扱いがあります。
短い筒が棒の脇に括り付けられている新鮮なビジュアルですが、実は「和火」とは江戸時代に国内で手に入る材料でつくられていた花火のことを指し、歴史のある一品。当時の花火は火薬が硝石・硫黄・木炭でつくられているため、火の色は赤橙色のみで、浮世絵の花火の色も赤橙色で描かれているのだそう。見慣れた花火のような眩しさはなく、ぼうっとした光の粒がきれぎれに放たれていく様子が、上品で美しい。
一方「洋火」とは、明治維新後に外国から輸入された発光剤や彩色光剤を使用し、様々な色を表現することが可能になってからの花火を指します。商品名にある「芒」とは、洋火を使用したスタンダードな手持ち花火のこと。「和火」に比べると火の色にバラつきがあり眩しさも増大、粒というより枝のように光線が伸びていていく様子は、確かにとても見覚えがあります。日本に生まれた醍醐味として行ってきた手持ち花火ですが、慣れ親しんできたものが「和火」ではなく「洋火」だったことに驚いたのでした。
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