生き方の可能性が広がり続けるこのご時世、その人を表す「肩書き」が職業のことだとは限らない。それは狭義では仕事内容や地位、役職を指す単語ですが、自分のイメージを表すキャッチコピーが肩書きとして成立している人もいれば、主収入源とは別軸でやっている活動で名前が知れ渡っている人も大勢います。たとえば「イラストレーター」だって、もはや「イラストで食べている人」だけを指す言葉ではありません。
「何をしている自分自身が好きか」と考えたときに浮かんだ答えを、細々だとしても継続していけば、それは本業に良い効果をもたらしたり、別の仕事につながるきっかけ、意外な誰かと出会うきっかけにもなるかもしれない。人生は、好きなことを仕事にする/諦める、の二択じゃない。中間の選択肢や両立の方法があるはずです。熱意は何かにつながっていく。きっと誰かに見つけてもらえる。自ら理想に歩み寄れる。そしてその過程のすべてが、自分らしくいることにつながるのではないかと思います。
愛らしいオリジナルキャラクターを携える女優、今川宇宙
女優・アーティスト・イラストレーターとして活躍している今川宇宙さん。現在もミュージカルの公演予定を控える彼女は、インターネットで「宇宙戦士ちゃん」としてモデル活動をはじめた2013年頃からイラストの発表も行ってきました。彼女のSNSには、「モーまるちゃん」と命名された自身発案のオリジナルキャラクターが頻繁に登場します。この愛らしいキャラクターは、トレードマークとしてファンの間で愛されていることはもちろん、彼女を知ったばかりの人に親しみやすい印象を与える役割をも果たしているのではないでしょうか。思い描いたセルフイメージを表現する手段として、イラストはとても有効です。情報の溢れかえるSNSに於いて、これを味方につけている彼女はきっと無敵。これからも多くの人目を引き、輝きを増していくのだと思います。
絵を描くことで本業につながったこと、または個人的な人脈につながったことについて今川さんに尋ねると、こんな答えが返ってきました。
中高生の頃から絵をネットに載せて、同じ趣味の人と友達になったり話し相手になったりしていました。それからずっとネットに絵を載せ続けていたら、好きなアイドルの生誕グッズをデザインさせて頂けたり、ドット絵の展示に参加させていただけたりと本業にも繋がっていきました。
純粋な趣味として続けてきたことでも、それを発表していると、興味を抱いてアクションを起こしてくれる人が次第に現れます。「好きなこと」はときに存在表明としての役割を果たし、人と人とが関わり合いを持つことのかけがえのない発端になるのです。
前田エマ、全身で世界と関わるタフな精神
ウィーン芸術アカデミーに留学経験を持ち、在学中からモデル、エッセイ、写真、ペインティング、朗読、ナレーションなど様々な分野の活動を行ってきた前田エマさん。やりたいことが運良くたくさん見つかったとして、すべて実現してしまえる人は、きっと極めて希少です。しかも彼女はただ嗜んでいるという程度ではなく、作品としてのクオリティが高いものばかりで、その多才さに驚かずにはいられません。
「なにして生きる」のか選ばずに、「なんでもして生きる」という方法は、ずるいようですが“アリ”なのです。迷ったら、すべて挑戦してみてはいかがでしょう。やってみたすべてを活かし合うことができるかもしれない。そのうちにしっくりくる一つが定まるかもしれない。たとえ上手くいかなくても、着手したという事実は偉大で、心残りがあるよりもずっと発見が多いことは間違いありません。行動力があれば、自力の力で自分の人生を豊かにすることが可能です。
彼女は自分の活動についてこう語ります。
絵を描くことも、モデルの仕事も、感情や感動を、自分の身体と心を使って、人に届けること。行ったり来たりするから、見えることがある。いつもどこか、宙ぶらりん。だから楽しんでいられるのかもしれない。
感じ取ること、表現することに全身で取り組んでいる様子がこのコメントから伝わります。創作のジャンルが変わっても、根底にある気持ちは同じ。「絵」がやりたい、「モデル」がやりたいという願望がまず存在するのではなく、それは単なる手段であり、自分の表現したい感情に最も適した方法を真摯に探し求めている、衝動を重んじている。その様子そのものが、前田エマという一つの作品になっているのです。実践しながら行ったり来たりする心身のタフさ、そしてそれをあくまでも楽しむというスタイルを、見習って過ごしていきたいものです。
溢れ出るポテンシャルとプレゼン力、ろるらり
雑誌『週刊プレイボーイ』のグラビアを務めるなど、活動の幅を広げる中でイラストの仕事もこなすろるらりさん。グランプリに輝いた『ミスiD 2018』のオーディションでは自主制作のイラストのZINEを披露、現在もカレンダーなどのオリジナルグッズを販売しています。まだまだ情報量が少なくミステリアスな彼女ですが、彼女の描くイラストには、人柄が滲み出ているような気がします。ポップで、シニカルで、気が付くと目を離せなくなっている。「どういったイラストを描いているか」は、オーディションの場に限らず自己紹介の役割を果たすもの。趣味嗜好や性格、精神状態などが、ときには本人が自覚している以上に滲み出ることすらあるかもしれません。
『ミスiD』というミスコンに出たとき、自分は特段冴えたルックスではなく、アピールできるものはこれぐらいしかないと思い、なけなしの絵を持っていったことがあるのですが、それがきっかけで商業イラストや、アイドルグッズデザインのお仕事が増えました。わたしは今のアイドルのような活動はもちろん楽しんでやっておりますが、制作のお仕事ができるのはもっと嬉しいので、今後はものづくりのお仕事の比率が上がっていけるといいなあと思っております。
彼女から寄せられたコメントには、現在メインにしているアイドルの仕事・制作の仕事の両方に対する思いが綴られていました。あらゆることを分析して自覚的に楽しみ、きっかけをきっかけにつなげる、そのポテンシャルの高さと未知のエネルギーが伺えます。彼女がグランプリ獲得に至った所以はここにあるのかもしれません。「自分を抜かりなくプレゼンすること」、これはアイドルオーディションだけではなく、誰がどの世界で生きる場合でも意識するべき心掛けだと思います。