眠りにつくとき、どんな気分だったら心地よくいられるでしょう?
頭を空っぽにしてリラックスしたい、答えのない大きなことをぼんやりと考えたい……。今日を終え、明日を迎える自分のために大切にしたい眠りにつく前の時間。She isでは、藤原麻里菜さん、前田エマさん、MICOさん、たなかみさきさん、西加奈子さんの5人に、「眠る前に読みたい本」をそれぞれ1冊ずつ選んでいただきました。
そして、忙しい毎日を過ごす女性たちに自分自身を見つめ直す時間として「香りにつつまれる心地よい眠り」を届けたい、という思いから生まれた柔軟剤のアロマリッチのキャンペーン「SLEEP WITH MY AROMA」と連動し、アロマリッチの香りの開発を行っているライオン株式会社 香料科学研究所の高橋典子さんに、Girlfriendsが選んだ本から見えてきた眠る前のさまざまな時間の過ごし方に合わせた香りのアドバイスもいただきました。
豊かな睡眠を誘う、心地よい時間を過ごすためのヒントにしてみてください。
深沢七郎『言わなければよかったのに日記』/「アーと思っている自分自身を少しだけ笑えるようになる気もします」(藤原麻里菜)
ふとんを被りながら「アー」と唸るときがあります。
眠る前の数分間、何と何が繋がったのかは分からないけれど、急に恥ずかしかった出来事を思い出してしまうときがあります。あそこでなぜ、あんなことを言ったのだろう。私はなぜ、こんなにも恥が多い人間なのだろう。頭の中は、そのことでいっぱいになり、それを「アー」という唸り声でかき消そうとするのです。
深沢七郎の『言わなければよかったのに日記』は、そんなアーがつまった本です。尊敬する文壇の大御所たちにしてしまった粗相や、いろいろ考えた末の変な行動。そんな自分を省みて、アーと思う自身の心境が書かれています。作家の正宗白鳥に対して、「お酒の菊正宗とご関係が?」と、恐る恐る聞いて「関係ないよ」とピシャリと言われてしまったり。「なぜこんなことを言ってしまうのだ!」と、思うエピソードばかりですが、飄々とした書き口に、ふとんの中でクスクスしてしまいます。
人のアーを知ることはあまりないですが、この本を読んでいるかぎり、人のアーこそ笑えるものはないなと思います。そして、アーと思っている自分自身を少しだけ笑えるようになる気もします。アー。(藤原麻里菜)
村田沙耶香『きれいなシワの作り方~淑女の思春期病』/「今日の私を肯定してくれ、明日の私を励ましてくれる」(前田エマ)
この本は『コンビニ人間』が話題となった村田沙耶香さんのエッセイをまとめたもの。
大人になっても、誰もが心のどこかで大人に対して反抗心を持っている。それは大人という漠然としたイメージに対しての、染まれなさや、疑問でもある。「大人であることがしっくりこない」という気持ちを隠すことなく、一生懸命に考えることは、かけがえのない「大人の青春の1ページ」になる。
他人と違うかもしれない性癖や、理解を得難い結婚観が私にだってある。そういった愛おしくて面倒くさい私を、イケイケドンドンしてくれるエッセイの数々が、今日の私を肯定してくれ、明日の私を励ましてくれる。
私は村田さんの『しろいろの街の、その骨の体温の』という小説を、もう20回くらい読み返している。この小説はなぜか「変わってるね」とよく言われてしまう私の色んな価値観を「それで全然オッケーだよ! むしろ万々歳だよ!」と私を守ってくれるような小説だ。あの頃よりも大人になった私を、今度はこの本が守ってくれるような気がして、眠りにつく前にページを開いて勇気をもらうのだ。(前田エマ)
鶴谷香央理『メタモルフォーゼの縁側』/「いつかお婆さんになった私のことなどをあてもなくぼんやり考えたりする」(MICO)
夜、眠りにつく前を意識できる日というのは、時間がゆっくり流れた日だけで、毎晩訪れるわけではない。少し貴重で、少し特別な夜だ。けれど、少し意識するだけで自分で作り出すこともできる。
そんな夜に私は、幼い頃の私のことや、もっと大人になった私のこと、そしていつかお婆さんになった私のことなどをあてもなくぼんやり考えたりするのが好きだ。
『メタモルフォーゼの縁側』は75歳の老婦人がたまたま書店でBL漫画を手に取ったことがきっかけで、書店員の女子高生と友達になるという、なんとも今風だけれどもほんわかするストーリーなのですが、学生の頃の私なら、きっと書店員の女子高生に感情移入して物語を読み進めたはずが、ちょうど今の年齢では女子高生と老婦人のどちらの気持ちにも感情移入できて、そのギャップに時の流れの儚さや美しさを感じずにはいられませんでした。優しい絵柄と共に、自分の未来を想像する旅路へと橋をかけてくれるようなストーリーが、いい夢を見させてくれそうな暖かい心地にさせてくれます。(MICO(SHE IS SUMMER))
小島功『ヒゲとボイン Forever』/「あなたが居ないそんな夜は笑っちゃうくらい明かりを小さくして布団に入りながらヒゲとボインを読ませてよ」(たなかみさき)
いきなりですが、淫夢を見たい! と強く思っていた時期があって、眠りにつく前にセクシャルなモチーフの読み物をちらほらと読んでいる時期がありました。
『ヒゲとボイン』はエロをモチーフにしながらも、ピューっと爽快な風を感じさせるような漫画で、登場キャラクター達がなんとも愛らしく、女っていいな、男っていいな、女ってどうしようもない、男ってどうしようもないな、となんだか微笑んでしまいます。
そうそう、エロスってユーモアだなって思い出させてくれるような作品。
これを読んだら、なんだか風通しの良い淫夢が見られそうな予感がするのです、あなたが居ないそんな夜は笑っちゃうくらい明かりを小さくして布団に入りながらヒゲとボインを読ませてよ。(たなかみさき)
スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ『戦争は女の顔をしていない』/「せめて暗くなってからは、世界のことに思いを馳せたい」(西加奈子)
明るいうちは利己的だ。忙しさや情報量の多さにてんやわんやして、自分の手の届く範囲のことばかり考えている。だからせめて暗くなってからは、世界のことに思いを馳せたい。自分の想像の及ばない範囲にも手を伸ばしたい。
『戦争は女の顔をしていない』は、著者であるスヴェトラーナ・アレクシエーヴィチが聞き取りを行った500人以上の従軍女性の語りからなる。本だからもちろん活字ではあるけれど、文字を追ってゆくと、いつしかそれが声になる。彼女たちの声はもちろん一人一人違う。可憐であったり、勇敢であったり、絶望していたり、怒っていたり、悲しんでいたり。死の匂いが充満していた世界で、彼女たちはそれぞれの生を間違いなく生きていた。
例えばこんな声が、耳から離れない。
「どうして私は生き残ってしまったんだろう。誰のご加護なのか? 何のためなのか? こういうことを語り伝えるためかしら……」
読むのが苦しくても、その苦しみごと抱えて眠ろうと思う。恐ろしい夢を見ても、それが現実に起こったことなのだと知っていたい。そしてその現実は、もしかしたら私たちのものだったかもしれないのだ。(西加奈子)
おなじ眠る前という時間でも、どんな時間として過ごしたいかは十人十色。Girlfriendsが選んだ本に寄せた言葉からも、その時間に大切にしたいことは一人ひとり違うということがわかりました。さまざまな言葉、さまざまな思考で、今日と明日をつなぐ夜の時間。今回、そんな時間をより豊かにするための香りのアドバイスをいただきました。
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