眠るときに見る夢も、いつか叶えたい希望としての夢も、いつもと違うレンズで世界を眼差し、日常に一筋のきらめきを与えてくれるもの。3・4月のShe isでは、そんな両義の意味での「夢の時間」をテーマに特集しています。
今回は、私たちを未知なる見晴らしのよい場所へ連れて行ってくれるクリエイターたちにとって、夢を切り開くステージであり続けているPARCOのキャンペーンで、ショートフィルム『SHINING RED FISH』を制作した映画監督の井樫彩さんと、メインビジュアルを手掛けた、グラフィックデザイナーの脇田あすかさんに、おふたりが夢へと向かうきっかけやインスピレーションを授かった人、本、映画、ゲームなどを、5つずつご紹介いただきました。
ふわふわとした夢、とてつもなく巨大な夢、役に立つ夢、突拍子もない夢、恐ろしい夢。あらゆる姿の夢が、日々の歩みを進めるための手がかりとなりますように。
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表現って、夢や幻想のように遠くにあるものだと思っていましたが、実は自分とすごく密なところにあるものが、映画や小説になると学んだんです。(井樫)
専門学校時代に卒業制作『溶ける』が『第70回カンヌ国際映画祭』シネフォンダシオン部門にノミネートされ、昨年には初長編作品『真っ赤な星』が劇場公開された、映画監督の井樫彩さん。
高校生の頃、映画監督になるという思いを抱いてから、まっすぐな意思のもと、夢の渦中へと進んできたように思える井樫さんですが、人との出会いや縁、運も、夢を叶えるための大切な要素だと話します。井樫さん自身も、専門学校で映画の勉強をしているときに、身近な人の示唆によって、大きな気づきを得たのだそう。
井樫:脚本を書きはじめた頃は、自分からすごく離れた物語を書いていたんです。だけど先生から、私たちのような若者が世の中に出ていくための表現というのは、自分から半径5mの物語であるべきで、半径5mのことを面白く書けなければ半径100mのことなんて書けない。表現というのは自分が丸裸になることだから、私が自分を隠していたら面白いものは作れない、と言われて。
それまでは表現って、夢や幻想のように遠くにあるものだと思っていましたが、実は自分とすごく密なところにあるものが、映画や小説になると学んだんです。そこからは視界が広がって、自分がどんな映画を作りたいのかも含め、夢が目標に変換されて現実になっていきました。
輝かしい表現というのは、彼方で光る星のような存在に思えたりもしますが、実は身近なところにその糸口はあって、それを手がかりに、自らへ手繰り寄せることもできるのだと井樫さんの経験からは気付かされます。
また、井樫さんは、自身が見た夢を題材にした『21世紀の女の子』の一篇『君のシーツ』など、眠っているときの夢から直接制作にインスピレーションを受けることもあるのだそう。
井樫:夢のなかで言われた台詞を目が覚めてから速攻でメモして、脚本に取り入れたりします。だから、眠ったときに見る夢は、自分にとってはクリエイティブな面にすごく近しい存在です。眠ることって、無意識のなかに放り込まれるから、死に近いと思っているんですよ。それでありながら、同時に夢のことを覚えているというのも面白いですよね。
眠る間に見る夢も、人との出会いや運命も、自分ではコントロールがきかないものですが、あえてそこに身を委ねてみることで、巡りあえる未踏の景色があるのかもしれません。そんな井樫さんが紹介してくれたのは、自身の夢に影響を与えた存在や、出会いの喜びと悲しみを描いた作品でした。
父親/「父親が喫茶店をやっているかたわらで、水彩画を描いていた」
井樫:父親が喫茶店をやっているかたわらで、水彩画を描いていて。北海道の大きな展示に出品したりもしていました。私がモチーフになった作品もあるんです。
そういう環境で育ったので、私自身も絵を描くことが好きで、子供の頃は漫画家になりたいと思っていました。自分の日常を絵や詩に変換していく作業をしている人が、幼い頃から身近にいたことは、今振り返ってみると現在の自分にすごく影響を与えたんじゃないかと思います。
『H2』(あだち充)/「説明的ではなく想像させる、多くを語らない表現がものすごく好き」
あだち充さんの作品が好きなんです。なかでも『H2』はすごくいい漫画で。例えばふたりで話している場面を表現するのに、登場人物の台詞を書かずに、絵だけでわかるような見せ方をしたりするんです。
あと、本当は好きなのに「嫌い」とか、本心とは真逆のことを言わせてみたり。しかも言われた相手もその思いをわかっていて泣くような描写があったりして。説明的ではなく想像させる、多くを語らない表現がものすごく好きで、自分の作品もそういう風にしたいなと思うんです。
『東京フレンズ』(永山耕三)/『一番最初に描いた夢を、あなたは今も、覚えてる?』
井樫:高知の田舎町で夢も目標もなく過ごしていた女の子が、東京に出てきたことによって、人間関係が広がり、やりたいことを見つけて、その夢を叶えるために進んでいくという、ある意味で王道なストーリーなのですが、この作品を見た中学生の頃、同じように北海道の田舎でなんとなく日々を過ごしていた自分にはダイレクトに響いて。
私も東京に行ったら何か見つかるかもしれないと思って、上京したあと、ドラマの真似をして主人公と同じように居酒屋でバイトをしたんです(笑)。現実はドラマとは全然違ったんですけどね。
「一番最初に描いた夢を、あなたは今も、覚えてる?」っていうキャッチコピーもすごくよくて。大人になるとどんどん現実に直面して、夢を忘れて日常をこなしていってしまったりもすると思うのですが、それを読むたびにハッとします。
『MOTHER3』/「すごくドラマチックで、まるで一本の映画のようなゲーム」
井樫:糸井重里さんが作ったRPGです。ゲームだけど、シチュエーションがすごくドラマチックで、まるで一本の映画のようなんです。
主人公の男の子が旅の過程でいろんな人との出会いと別れを繰り返すのですが、私たちの日常も、すごく仲が良かった子とあるときからしっくりこなくなってしまったり、大切だった人と離れてしまったりするような瞬間を繰り返して生きていますよね。そんな風に、多くの人が経験したことのある感情に寄り添うようなストーリーで、子供心にこれまでに遊んだゲームとは、全然違うと感じたんです。
AKB48/「多感な時期に憧れとして存在していた、すごくパーソナルで大きな存在」
AKB48の関連グッズ/撮影:井樫彩
井樫:中学の一時期、ちょっとだけ引きこもっていたことがあって、その頃にAKB48と出会いました。前田敦子さんや大島優子さんがいる時期だったのですが、女の子たちそれぞれが、女優やソロの歌手になるという目標があるなかで、アイドルをしていて。
AKB48のドキュメンタリー作品で、裏側で泣きながらもステージに立つ姿を見て、この人たちはすごく「生きている」な、と思いました。夢も目標もなく引きこもってうだうだしていた自分にとっては、彼女たちの姿がすごく輝いて見えて。それから、学校に行こうと思ったんです。
私はずっと大島優子さんのファンで、高校生のときには握手会に行って、大島さんに「私は映画監督になるから、いつか作品に出てね」と言いました。多感な時期に憧れとして存在していた、すごくパーソナルで大きな存在です。
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