堀静香:ムーミンと生きる
去年の誕生日、とつぜん家にムーミンがやってきた。夫にはこれまで大なり小なり色んなサプライズをしてもらってきたが、これには驚いた。
どこかにずっと置いておくには存在感がありすぎるし、ぬいぐるみとして扱うのはなんだか違った。そうして一緒に食卓を囲むうちにムーミンは控えめに、けれども自然にわが家に馴染んでいった。ムーミンがいない暮らしを、もう考えることはできないような、大切な家族のひとりである。仕事から帰ってくると、おかえりなさいという表情でこちらを覗く。食卓で書きものをしているとき、ふと見遣ると花瓶の花をじっと見つめている。生活の、ちいさな呼吸のおりにムーミンがいることが私をやさしくする。そんな瞬間が増えたようにおもう。
ムーミンの定位置はここ。片方が二人掛けのベンチになっているところが気に入って結婚祝いに両親にプレゼントしてもらったダイニングセット。いつかは子どもがここに座るのだろうか、なんてその当時はぼんやり考えていたけれど、ムーミンの指定席となった。もし子どもが生まれたら子ども用に新しい椅子を買おう。
食卓を囲むときも、一緒。毎日こうやって食べる前に写真を撮っているけれど、毎日表情が違う。この日はなんだか考えごとをしているよう。肉豆腐にかぼちゃのチーズ焼き、そして満を持しての筍ごはん。旬のものが入る食卓はやっぱりうれしい。
ムーミンは夫と仲良しだ。こんな風にリビングでテレビゲームをしたり、二人でマラソン中継を見たりしている。私がそこに入るときもあるけれど、なんだか二人を後ろから見ているのが好きだ。
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