慌ただしく過ぎゆく日々に夏の暑さもあいまって、体力も気力も、どうしたってすこしずつ消耗してしまいます。そんな中でリズムと勘をとりもどすためには、なんといっても休息が不可欠。気後れせずにじょうずにやすむ方法を身に付けることができたら、より人間らしい日々を送ることができるはずです。「やすみたい」から「やすみます」へ、羽をどこまでものばして眩しい季節へ。
今回は「憩い」を感じさせる絵を描く作家と、その作品をご紹介します。長いながいおやすみや、頭のなかだけのショートトリップなど、休息の方法は様々。あなたに合ったやり方で自身に宿る野生のきらめきを見つめ、澄みわたったきもちで暮らすためのヒントとなれば幸いです。
第206回『ザ・チョイス』入選などの経歴を持ち、栗原泉さん著『ブレない子育て』の装画や個展の開催など、様々な活動を行うイラストレーター・アーティストの辰巳菜穂さん。
彼女はGoogleストリートビューで世界中を旅してみつけた「何かいい風景」を描くことをライフワークとしています。「やすみ」というと「どこか遠くへ出掛けること」を連想してしまいがちですが、スケジュールを立てたりお金を貯めたり、実際の旅行は何かと気力が要るもの。それに対し、遠くの土地に心を飛ばして想像を膨らませることは、いつだって可能です。テクノロジーを活用したGoogleストリートビューの旅は、風景をまなざす心を刺激し、世界の広さを思い出させてくれるはず。工夫次第でどこにいても新たな発見が得られること、羽が伸ばせることは、現代の魅力のひとつだと思います。
Googleストリートビュー上で良い風景を発見する喜び、そして「実際に風景を求めて歩くこと」とは異なる面白みについて、辰巳さんに質問を投げかけてみました。その回答がこちらです。
絵のモチーフ選びとしてストリートビューを使う面白さは、「誰のものでもない目」を通して世界中の景色を探しに行けることだと思っています。ニュートラルな情報としての景色を世界中の人と共有できて、それを私の主観的な視点で見た時にはこんな作品になるんです、と示すことができる。それって旅をして目の前の風景を描くだけではない、現代だからこその新しい可能性があるような気がして面白いなと思っています。
偏った情報やキャッチーな感想のみが広がることも多い中で、ニュートラルな状態のまま風景に対峙する体験を可能にしたGoogleストリートビューは、貴重なツールだと言えるかもしれません。事前の知識にとらわれず何かをインプットすること、アウトプットすること、そして誰かに伝えること。そういった自然な行為への導線や、出会いへの原始的なときめき、感覚を研ぎ澄ますための土壌が、実は身近なインターネットの中にも潜んでいるという事実は、なんだか心身を身軽にさせてくれますね。