慌ただしく過ぎゆく日々に夏の暑さもあいまって、体力も気力も、どうしたってすこしずつ消耗してしまいます。そんな中でリズムと勘をとりもどすためには、なんといっても休息が不可欠。気後れせずにじょうずにやすむ方法を身に付けることができたら、より人間らしい日々を送ることができるはずです。「やすみたい」から「やすみます」へ、羽をどこまでものばして眩しい季節へ。
今回は「憩い」を感じさせる絵を描く作家と、その作品をご紹介します。長いながいおやすみや、頭のなかだけのショートトリップなど、休息の方法は様々。あなたに合ったやり方で自身に宿る野生のきらめきを見つめ、澄みわたったきもちで暮らすためのヒントとなれば幸いです。
桑沢デザイン研究所を卒業後、デザイン会社に従事したのち2010年よりフリーランスとして活動するグラフィックデザイナー・イラストレーターの惣田紗希さん。ceroやザ・なつやすみバンドのアルバムアートワークで知られるほか、書籍の装画や挿画などを中心に国内外で活動し、投票を呼びかけるポスターや、自分の性や身体は自分で決定できる権利があることを見失わないための「MY BODY MY RIGHTS」ステッカーなども手掛けています。
彼女の作品は、植物と人物の組み合わせや、ショートヘアを風になびかせる女性など、大地の上で肌に感じるやさしい刺激を思い起こさせるものが目立ちます。慌ただしい日々の中で取りこぼしている四季の魅力や、感覚を整えて研ぎすませばいつだって得ることができるはずの些細な癒し、そういったものと隣接しながら過ごしていることを再認識させる柔らかくも的確な絵の数々です。
惣田さんに「自然の中など澄み渡った空気の中で羽を伸ばしている人物の絵が印象的ですが、 現在のモチーフを描き出した理由、もしくは伝えたい感覚があれば教えてください」という質問を投げかけたところ、こんなお返事をいただきました。
2013年に東京から栃木に移住(Uターン)して、グラフィックデザイナーからイラストレーターという肩書きが増えたタイミングということもあり、1日1枚ドローイングを描くというトレーニングをしていました。最初は人物だけをひたすら描き続けていましたが、季節の移り変わりによって姿を変える植物たちが目に飛び込んでくる田舎で、そんな自然の風景やかたちも描けるようになりたいなと思い、植物を観察してドローイングするようになりました。それから人物と植物の組み合わせが自分の作風のひとつになりました。
SNSやインターネットで夢中になれることもたくさんあるけど、外に目を向けると、自然の姿はどんどん移り変わっていて、そういうものを目安に季節や時間の流れに気づけるのはとても豊かなことだと思います。自然のなかにいることが自然、というテーマで、そこでの呼吸の仕方が思い出せるような絵が描けたらと思ってます。
情報のあふれる社会の中では、ごく身近なものに視線を向ける発想や余裕が失われてしまうこともしばしば。自然の中に生きるいきものとしての豊かさを忘れ去ってしまわないよう、ときには力を抜いて周囲を見渡し、深くゆったりと息を吸い込んでみてはいかがでしょう。
今回ピックアップした3枚の絵は、台湾に行った際に観察した植物の絵なのだとか。惣田さんは滞在の際、台湾の人たちはせかせかしていなくて、お店の軒先や公園などいたるところでお茶を飲むなど「隙あらばのんびり休んでいる」「何もしてない」という印象を受けたのだそうです。ワーカホリック気味な人が多いと言われがちな日本人ですが、自然とゆったりと共存する台湾の人たちのように、上手な休みかたを習慣として身につけることができたらとても素敵ですね。