わたしたちが20代だったころ、フェミニズムはバックラッシュに遭っていた。物心ついてからずっと不況、就職氷河期に首まで浸かり、多くの若者が社会の入り口でピシャリとシャッターを下ろされ立ち往生した。そしてじわじわと世の中は保守化していった。自己実現を人生のテーマに掲げながら、どこにも進めないでいるわたしたちを反面教師にしてか、気がつけば下の世代の女の子たちは、専業主婦にあこがれを抱くようになっていた。それも仕方ない。だって自立を目指そうにも、非正規雇用では貧困まっしぐら。20世紀の女性たちがこじ開けた未来が、21世紀に入ったとたん、ぐるりと一周して押し戻されようとしている。わたしがフェミニズムに目覚めたのは、そういうタイミングだった。
フェミニズムを知ると、女性たちはつながっていることがわかる。ただ女性であるというだけで、わたしたちはみんな姉妹だ。そして感動的なのは、縦糸のつながりを実感した瞬間。明治、大正、昭和、平成、それぞれの時代を生きた、会ったことのない女性たち。差別と闘ってきた女性たち。彼女たちがいばらを刈り、一歩一歩踏み固めて作った道の上に、わたしたちの今がある。そのことを知った以上、わたしは、誰かがこしらえてくれた権利に、あぐらをかくだけのずるい人間にはなりたくない。
取材を進める中でお会いした田嶋陽子さんは、70代の今も読売テレビ系列の討論バラエティに出演するバリバリの現役であり、シャンソン歌手として、また書アートのジャンルで、元気いっぱいに自分を発揮され、多忙な日々を送っていらっしゃった。決して偉ぶらず、裏表なく、ユーモアたっぷりにお話ししてくださる陽性のパワーの持ち主だ。話し上手で聞き上手、凝り固まったところがまるでなく、若輩者のわれわれが使う単語に知らないものがあると、「それ何て意味?」と素直に質問される。精神の若さは外見にも表れ、しゃっきりと姿勢良く足取りは快活で、カラフルな服がよく似合い、存在に華がある。ひと言でいうと、気持ちのいい人だった。こんな素敵な人を、世間は今も誤解したままだなんて……。
その誤解を、ようやく解くときが来たのだ。
日本一有名なフェミニストでありながら過小評価されて久しい田嶋陽子という人を、2019年の価値観で捉え直したら、なにが見えてくるだろうか。
新潮文庫から本書が復刊されることは、これ以上ない喜びだ。この名著が、この機会に、一人でも多くの人に読まれますように。彼女のメッセージが届きますように。
そして読者一人一人の中で、田嶋陽子さんのイメージが刷新され、アップデートされ、ポジティブなものに変わることを願ってやまない。彼女の名誉のために。でもそれだけじゃない。このスーパーポップなフェミ・アイコンを正しく再評価することは、ネガティブなものという呪いからフェミニズムそのものまでを解き放ち、日本の女性全員を祝福するものになると思うから。そうに違いないから。
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