生理やねむけ、自律神経、ホルモンバランス、性欲、なみだ……。からだのことにまつわるさまざまな現象が、わたしたちには日々起こっています。社会からも自分からでさえも、そのゆらぎは無視されてはならないはずのもの。こんなわたしはわたしじゃないと否定してしまいそうになったら、自分の味方でいるやりかたを獲得して、どうか思いだして。そうすれば、昨日よりもずっと、大丈夫です。
今回は「生理現象」を連想させる絵を描くイラストレーターと、その作品をご紹介します。自分を具体的に愛しながら戦っていくために、生きていこうとがんばるからだとこころの声に耳を澄ませて、生理現象と向き合うきっかけになれば幸いです。
第211回『ザ・チョイス』入選などの経歴を持ち、展示などを行いながらイラストレーターとして活動する大塚文香さん。レーザープリンターを使い、版画のように色を重ねることで絵を製作しています。また、同じくイラストレーターのササキエイコさん、小山義人さんを含めた三人で行っているInstagram上での絵しりとりでは、しりとり遊びの域を超えたクオリティーを誇る作品群を鑑賞することができます。
今回は、彼女の絵の中から、女性の顔を至近距離で捉えたものにフォーカスを当ててご紹介します。描き出された人物たちは、共通して一見簡素な表情をしていますが、決して単なる「無表情」ではなく、水面下での心の動きを感じさせる面持ちをしています。これらの絵の中にただよう気配が心に響くのは、どこか身に覚えがあるような、他人事ではないような、そんなムードが彼女たちから漂っているからではないでしょうか。
ゆらぎをひめたなまなざしを的確に表現する大塚さんに、「こころやからだのゆらぎ」を題材とするときに感じること、心掛けていることについて問いかけたところ、こんなお返事をいただきました。
数年前から「違和感を覚えたことから逃げる、という選択肢を持つ」ということができるようになりました。私はとても頑固な性格で、自分で決めたことは、何かが変だ、ここに居てもつらいだけのような気がする、と思ったとしても「自分で決めたんだから、すぐに逃げてしまうなんて私は弱い人間だ」と無理矢理続けていることが多々ありました。けれど、いくら自分が決めたことだったとしても選択を間違えている場合がある、ということに気がついて。それからは居心地の悪さを感じた時はそこから逃げても良いんだ、と考えられるようになりました。
逃げるという選択肢がなかった時には、自分のなかで無かったことにしようとしていた「ゆらぎ」。そのゆらぎを自覚するようになり、それはとても愉快で、けれども不快な時もある、さまざまな感情が自分のなかに生まれることが、たのしくて、愛おしいです。私の描く絵にも、ゆらぎが混ざって、気持ちのいいような、わるいような、そんな絵が描けると良いなと思っています。
自らの選択に対して柔軟であること、無理をしていると気付いた際はしかるべき対処をすること、これらは自愛のために心掛けたい習慣です。間違えることは必ずしも悪いことではないし、逃げることが弱さだとは限りません。違和感というのは重要なシグナルであり、あなどれないヒント。「ゆらぎ」に耳を澄ますことで感情に対する自覚が生まれ、創作物や、ときには人生そのものが豊かになっていくかもしれません。