見せかけの言葉にどうか騙されないでほしい。
野村:どうしたらその時々に、納得いくまで深く考えられるでしょうか。
川上:「考える」ってやっぱり言葉で行うことですよね。だからもう、言葉を総動員して考える。じゃあ言葉はどこからやってくるかといったら、私は書物からやってくると思う。あとは自分の信頼している人が責任を持って発している言葉からやってくるの。決して、誰かを傷つけるための言葉や、ただ流れて消費されていく匿名の140字からやってくるものではないんです。
今はまとめ上手な人が頭が良いと思われるし、加速主義的に切り捨てて腑分けした考えが注目されたりしますよね。でもそれは、いちばん大事なものを削ぎ落として成立しているものですよ。だって私たちの人生って、まとめられないものだけで成り立っているじゃないですか。
野村:まさに文学の範囲というか。読むことの意味に触れたような気がします。
川上:そういうディテールを積み上げているのが文学や哲学、また、批評です。だから若い時はもちろん、いくつになってもそういうものに、言葉に、触れ続けることがすごく大事なんです。言葉が自分の力になってくれるの。だから、若い人たちに思うのは、見せかけの言葉にどうか騙されないでほしいということ。
「これを読んだらあなたたちはこう思うでしょう?」というインスタントな言葉に惑わされず、本当にその人のなかから出てきた言葉を読んで、いったん吟味してください。その上で意味があると思った言葉を、一個ずつ頭の中に貯めていってほしいんです。そして、自分の大事なことを決めるときに、自分の言葉として使えるようになるといいですよね。人と比べたりせず、自分のことをよく知るために言葉や、自分自身を使ってほしいと思います。
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