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川上未映子からあなたへ。見せかけの言葉にどうか騙されないで

川上未映子からあなたへ。見せかけの言葉にどうか騙されないで

『夏物語』30名限定トークレポ。出産、ママ友、本当のキャリア

テキスト:阿部洋子 撮影:内田咲希 編集:野村由芽
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自分がそのことに対してどれだけ考えたか。それが本当の意味でのキャリアだと思う。

野村:今回ハッシュタグで集めた感想の中には、男性からの声もたくさんありましたね。

川上:どの感想も大事に読ませてもらいました。すごく嬉しかった感想の一つに、夏子とすごく似ている境遇だった男性のものがあって。彼はお母様が自分と兄弟を支えるために昼は保育園、夜はスナックで働いていたそうなんです。当時は貧乏なことや、夜のお店で働く母のことがすごくイヤで、「なんで僕たちを産んだんだろう」とずっと思っていた。体を壊した母を見て、自業自得じゃないかと思ってしまう自分すらイヤだったそうなんですね。

でも、『夏物語』を読んだことで、自分の子どものころを肯定されて、自分たちが生きてきたことを抱きしめられた感じがしたと言ってくださった。「どんな事象にも後から意味を見出して、生きていけるのが人間だ。母の子でよかったと、後出しの言葉で思う」と言ってくださった。これはすごく示唆のある言葉ですよね。結局「今」って常にすり抜けていくものだから、後から「それってなんだったのか?」と、思い返すしかないんですよね。だから辛いことも、後からそれがなんだったのか理解することができるようになる。

野村:まさに「後出し」ですね。

川上:じゃあ私たちが「今」に対してできることといえば、「このことについてはこれ以上考えられなかったから、後悔はできない」というところまで考えることだけなんですよ。恋愛にしても仕事にしても、親との関係にしても。

人から決められた抑圧だったり、打算のみで行動していたら、うまくいってるうちは良いよ? でももしそれがだめになったとき、納得できないじゃない。でも、そのときに「あのときあれを選んだ自分は心底考えた」と思えれば、後悔のしようがない。それが私は本当の意味でのキャリアだと思う。どこで働いたとか、どういう賞を取ったとか、それは人が与えてくれるその時々の状況でしかなくって、本当のキャリアっていうのは、自分がそのことに対してどれだけ本当に考えたか。それしか残らないものなんだよ。

PROFILE

川上未映子
川上未映子

1976年、大阪府生まれ。 2007年、デビュー小説『わたくし率イン 歯ー、または世界』が第137回芥川賞候補に。同年、第1回早稲田大学坪内逍遥大賞奨励賞受賞。2008年、『乳と卵』で第138回芥川賞を受賞。2009年、詩集『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』で第14回中原中也賞受賞。2010年、『ヘヴン』で平成21年度芸術選奨文部科学大臣新人賞、第20回紫式部文学賞受賞。2013年、詩集『水瓶』で第43回高見順賞受賞。短編集『愛の夢とか』で第49回谷崎潤一郎賞受賞。2016年、『あこがれ』で渡辺淳一文学賞受賞。「マリーの愛の証明」にてGranta Best of Young Japanese Novelists 2016に選出。他に『すべて真夜中の恋人たち』や村上春樹との共著『みみずくは黄昏に飛びたつ』、短編集『ウィステリアと三人の女たち』など著書多数。『早稲田文学増刊 女性号』では責任編集を務めた。最新刊『夏物語』は第73回毎日出版文化賞を受賞、また世界十数カ国で翻訳が決定している。『文藝別冊 川上未映子』が好評発売中。

INFORMATION

書籍情報
書籍情報
『夏物語』

著者:川上未映子
2019年7月11日(木)
価格:1,944円(税込)
発行:文藝春秋
Amazon

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