今年1月にエッセイ集『これでもいいのだ』を上梓したジェーン・スーさん。1月28日(火)に、東京・有楽町で刊行記念のトークイベントが行われました。ゲストは、盟友・土岐麻子さん。お二人はスーさんの会社員時代から親交があり、2015年にはスーさんが土岐さんのアルバム『Bittersweet』のコンセプト・プロデュースも担当。同世代ということで、親の近況から、これまでのジェンダーロールを受け継いではいけないという話など、「これからの40代」はどう生きるかについて大いに盛り上がりました。今回はそんなトークの様子をお届けします。
現実は思っていた未来とちょっと違う。もっと大人になると思ってました。(ジェーン・スー)
スー:突然ですけど、土岐さんは背中のハミ肉とか気になります?(笑)
土岐:そうですね、後ろから写真を撮らないでほしいとは思いますね(笑)。
スー:わかります。この歳になると、いろいろ現実と理想のギャップがあるじゃないですか。我々の世代は、今までの歴史の中ではじめて「どこでもカジュアルに装うのが素敵」とか「世代なんて関係ない」っていう顔をすることを期待されている40代なわけですよ。カジュアルに関しては『VERY』がユニクロの特集してるくらいですから!
土岐:本当、そうですよね!
スー:私たちよりちょっと上のバブル世代だと、実際どうだったかは別として、「これを持てば大人」っていうブランドがあったんですよね。記号的にそれを纏っていれば大人になれた。例えば夫の長渕剛の浮気が発覚してインタビューを受けたときの志穂美悦子ってすごくかっこいいんですよ。当時36~7歳ぐらいなんですけど、メイクバキッ、肩パッドドーン、前髪ブワー! って感じで。
土岐:90年代前半ですね(笑)。大人っぽい感じが主流でした。
スー:そう。若くて勢いのある年齢で、わざと大人っぽい格好をしているかっこよさみたいなのがあの時代はあったんです。でも今はそういう感じではないですよね。現実は思ってた未来とちょっと違うし、私自身ももっと大人になると思ってました。
土岐:たしかにそうですね。
スー:今は40代の基準になるものがないんですよね。昔だったら「家を持つ」「車を買う」みたいなことがあったかもしれないけど、今は経済的にも、価値観的にも上の世代のやってきたことが、ほぼできなくなっている。こういうふうになったら素敵だなっていうロールモデルがいないんですよね。そういう中で模索しながら生きていかなくちゃいけない。
土岐:すごく難しいですよね。
性別と役割がくっついている、この国ジャパン。(ジェーン・スー)
スー:前の世代の価値観とのぶつかり合いって、土岐さんにもありましたか?
土岐:やっぱり親ですかね。うちは父がミュージシャンなので音楽のことだけを考えているような人で、母はずっと専業主婦だったんです。母は責任感がとても強いので、どれだけ風邪をひいても家族のために働こうとするんですよね。手を抜いたっていいのに、そうすると罪悪感が生まれるみたいで。
今は元気なのですが、実は去年の夏、両親とも続けて入院したんですね。母の方が先に入院して手術して、退院したあと父が入院というてんやわんやな……。
スー:それは大変でしたね。
土岐:そのとき、父には病院から薦められていたちょっとした運動があったそうで、母は「健康のために毎日やったほうがいいよ」と言っていたんですけど、結局父はめんどくさがってやらなかった。そしたら検診のときに、先生に「ちゃんと運動してますか?」とちょっと叱られたそうなんです。それで母が「だから『運動しろ』ってずっと言ってたのに」と思わず言ったところ、父から「もっと俺が納得できるように言ってよ」って返されたらしくて(笑)。
スー:おお! きた!(笑)
土岐:私はびっくりして爆笑しちゃったんですけど。母がいたれりつくせりで過保護にしてきた結果、70歳手前で「俺の納得できるようにものを言ってよ」って言わせちゃうわけですよ。さすがに「お母さんは大丈夫かもしれないけど、私はそれちょっと無理だな」って言いました。
スー:未だにそうですけど、性別と役割がめちゃくちゃくっついているんですよね、この国ジャパンは。そして、その役割の人はこういう特性を持っているといいよということもくっついている。例えば男の人は泣いちゃダメだとか、稼ぐものだとか。女の人はサポートするとか。それができない人は居場所がなくなっていく。
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