「肌が荒れたりシワができたとしても『それこそ美しいよ』って、絶対に言い切りたい」(永原真夏)
パンクロックに自身の音楽的なルーツを持つ永原さん。ボロボロのファッションに身を包み、ハスキーボイスで叫ぶスターの姿を見て「自分の美しさの概念が広がっていった」のだそう。その上で、今のスタイルを選んだのには理由がありました。
野村:永原さんの音楽のルーツはパンクやロックにあるということですが、発信しているメッセージはすごく前向きなエネルギーがありますよね。ヘルシーな感じというか。
長田:例えば野原をスキップしている姿に、パンクが宿っているよね。デニムが破れているようなパンクじゃない。
永原:私はイメージよりもかなり不健康な人間なんですよ(笑)。朝、日の光を浴びたりもしないですし、夜に起きてジャンクフードを食べるような人間で。
もともと駆け出しの頃は、かなりアンダーグラウンドなライブハウスでばかりライブをやっていたんです。それこそ床には「鬼ころし」のパックが落ちていて、周りのバンドはみんなボロボロの格好でロックをやっていました(笑)。それもそれでかっこいいと思うんですが、そういうときに明るい曲を歌うということが、私にとって最大のカウンターだったんです。
長田:なるほど。そうやって生まれたものだったんですね。
永原:ロックミュージックというものが今に至るまで歌って表現してきたものを、一番まっすぐに表現してみようと思ったんですよね。それが自分のスタイルにとても合っていたから、続けることによって自分自身もヘルシーな気持ちになってきたのかな。どんな生き方でも、希望がないと間違いなく人は生きてはいけない。そのことをいろんな角度から見つめたいんです。
野村:永原さんの歌っている姿を見ていると、生命のきらめきに、勝手に涙が出てくるような感じがあります。今日は美をテーマに映画やトークをお送りしてきましたが、永原さんに歌っていただいた“BEΔUTIFUL”の歌詞も、美についての新しい解釈を与えてくれますよね。
長田:前半の小田切ヒロさんのアプローチとはまた違う美のあり方だよね。小田切さんの理想の美はすごくストイックな世界にあって、それはそれですごくいいなって思う。それと同時に、永原さんの哲学的な解釈も素敵。そう考えたら美にはもっと選択肢と形があると思いますね。それこそ無限の。
永原:そうですね。“BEΔUTIFUL”は自分自身のことを歌ったというより、まわりの友人のことを思って作った曲なんです。やっぱり年を重ねて環境が変化していくことで、以前とファッションもメイクも、話すことだって変わっていきますよね。でも私は、友人が頑張って生活をしていく中で、肌が荒れたりシワができたとしても「全然いいっしょ!」って思っていて。「それこそ美しいよ」って、それを絶対に言いたい、言い切りたいと。
長田:美しさってともすると、美しいものとそうじゃないものをジャッジする場面で使われてしまうけれど、本来はそういうことではないんですよね。コスメを始めビューティにまつわるものって、美しいという概念を押し付けてると思われがちだけれど、自分自身を謳歌するための、日常生活の応援なんだよね。
永原:いろんな種類の美しさを知りたいんですよね。国ごとにもたくさんありそうだし、時代によっても違うだろうから、勉強なんでしょうね。
長田:メイクやファッションもそうだけれど、膨大な数の美しさの中から、自分の気持ちに合うのはこれだなって見つけるのはすごく楽しいよね。
「昨日はメイクをしたくなかったから、眉毛をとかしてリップクリーム塗って終わり。それでいいと思う」(長田杏奈)
美しさが多様化しているからこそ、何を選んだらいいのか戸惑うことも。永原さんにもそういう日があるのだそう。そんな永原さんに、長田さんから素敵なヒントが。
永原:でも、私はけっこう迷っちゃうこともあって。長田さんは迷いませんか?
長田:私はあまり迷わないんだよね。どういう迷いがあるの?
永原:日によっては、洗顔しただけでTシャツにジーパン着てきゅうり食べちゃおうって思う日もあれば、ちょっとした肌荒れが気になってずっと鏡に向かってしまう日もあるんですよね。バイオリズムのせいなのかな。
長田:確かに、バイオリズムに無理矢理「こうでなければならぬ」というのを被せられるのは辛いよね。きゅうりを食べて「イェイ!」ってしたいときに、きっちりファンデーションを塗って、体の表面を気分じゃない何かに合わせて変質させるようなことはすごくしんどい。
美容ライターというと、化粧品をいっぱい使って、いろんな工程を経てメイクをしているって思われることがあるんですけれど、実際はそうでもないんですよ。昨日はメイクをしたくなかったから、眉毛をとかしてリップクリーム塗って終わり。割とそういう感じだし、それでいいと思う。
永原:それはすごく励みになります。美容に携わる方には、いろんな色の下地を顔に巧みに塗り……みたいなイメージがありました(笑)。
長田:もちろん、ここはパープルでここはピンクで、みたいなこともまた楽しい(笑)。私は楽しい方を選ぶことが誰にとっても当たり前になって、今より自由になればいいなと思っているんです。「あなたはそっちを選ぶんだね、私はこっちを選ぶよ、お互い楽しいねイェイ!」って。
資生堂S/PARKで「美」について考える1日、『She is BEAUTY DAY』はこれにて閉幕。最後に鳴り響いた永原さんのハーモニカによるファンファーレは、日常へ帰る私たちを応援してくれるようでした。
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