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世界各国のCOVID-19への向き合い方。混沌した世界を生き抜くために/菅原万有

世界各国のCOVID-19への向き合い方。
混沌した世界を生き抜くために/菅原万有

韓国、台湾、ニュージーランド、ドイツの共通点

テキスト:菅原万有 編集:竹中万季
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「世帯」という単位にはらむ問題とは。「#世帯主ではなく個人に給付して」の広がり

安倍首相は現金給付額を10万円、20万円、30万円とつり上げた結果、1世帯一律の現金給付ではなく、全世帯の多くが排除されることを明らかにし、対象となっても煩雑な申請手続きを経なければならないことがわかりました。その後、減収世帯への30万円給付案を撤回し、国民1人当たり現金10万円を給付する方向性に転換しましたが、申請の上での世帯主への一括給付ということから、家庭内で立場の弱い人へ支援が届かないなどの問題が残ります。DV被害を受けている人、住民票の上では元夫と同居しているが実際には別居している人、さらには夫とは同居していても夫婦間でお金の配分がうまくなされていない人など、これでは給付金を受け取れない人が出てくるという懸念が相次いでいます。

社会保障給付や貧困を論じるときの基礎にある「世帯」という単位には様々な問題がありますが、「女性の貧困」について研究する丸山里美氏は、イギリスで1970年代に世帯のなかの誰の口座に給付をするのかが議論になり、夫の収入を増加させる形の配偶者控除が廃止され、代わりに児童手当が母親の口座に給付されるようになったことを指摘しています。「この制度変更による効果を検証した研究(Lundberg & Pollack 1997)では、世帯収入としては変化がなくても、給付の名目と給付口座が変わることで子どもと母親への個人支出が増大することが検証された。つまり、世帯に入るお金は一定だったとしても、世帯の誰の口座に給付がなされるかによって、実際にその給付金が誰にどのように使われるのかが異なってくる」と丸山氏は述べています。

もともと困窮した状態にある人たちは、ウイルスの影響でさらに困難な状況陥っていることは明らかです。様々な背景を持つすべての人が見過ごされることがないような給付方法の検討を求める、「#世帯主ではなく個人に給付して」というハッシュタグが広がっています。

政府や役所、企業の優しさのない応対や社会システムは今、コロナウイルスにより窮地に立たされる世界中の人々が直面している問題でもあります。

貧困層へ確実な保障を届ける、ユニバーサル・ベーシック・インカム

現在、パンデミックの影響で世界経済は大きなダメージを受けています。世界中の33億人の労働者の81%が職場の全面的または一部閉鎖に直面し、2020年の第2四半期中に、世界中の1億9500万人のフルタイム労働者が職を失うとみられ、景気への対策以前に困窮した状況にある人への支援が必要とされます。

そんな中で、これまで机上の空論のイメージを拭えなかった「最低所得保障」のユニバーサル・ベーシック・インカム(以下、UBI)現実化の可能性が出てきました。UBIとは国民全員に所得保障として一定額の現金を支給する制度で、社会保障と再分配の要素を兼ね備えた政策です。豊かな欧州の小国を中心に以前から議論されており、2016年にはスイスが導入について国民投票が実地されたこともあります。フィンランドでは17年から2年間実証実験を行い月額月額560ユーロ(約7万円)を給付し、オランダでも同様の実験が行われました。

Universal Basic Income Explained – Free Money for Everybody? UBI

全てのアメリカ成人に1人当たり毎月1,000ドル(約11万円)を与えるという計画を掲げていた大統領民主党予備選挙から離脱したアンドリュー・ヤン氏も、今月新型コロナウイルス対策として、民主党幹部とUBI計画について話し合ったことを明らかにしており、現在、彼の計画はかつてないほど支持されています。

ベーシックインカムの長所として、
(1)あらかじめ予想できる収入なので生活設計がしやすいこと
(2)使い道が自由であること
(3)公平に支給されること
(4)支給対象者を確認する手続きが要らないこと
(5)受給者が恥の感情を持たずにすむこと
(6)定額なので額が大きすぎなければ労働意欲を阻害しないこと
(7)他の社会保障制度よりも事務が簡素で低コストであること

などが挙げられますが、UBIは既に収入がある中級階級だけではなく、貧困層へ確実な保障を届けられるもので、「本当に貧困している人」に対して最低限の所得が常に保障されるものです。また、今審査基準や手続方法が煩雑化している行政が負担しているコストを大幅に削減することもでき、経済危機などで多くの人が一時的に仕事を失っても安心して当面の生活を続けることを可能にします。

新しいビジネスにもチャレンジしやすくなるため、ヤン氏などの推進論者はUBIを導入しても経済に悪影響を与えないと主張しています。むしろ、社会人類学者デヴィッド・グレーバーのいうところの“bullshit jobs(無駄な仕事)”を排除し、「世界にとって必要な仕事」を増やすとしています。

今、新型コロナウイルスが勢いを増すなか、病院では医師や看護師、医療助手らが過酷かつ勇敢な仕事に取り組んでいますが、看護師、バスの運転手、介護士、保育士、そしてブルーカラーといった直接的に社会に貢献し、いなくなったら困るのが明らかな人たちほど賃金が低く、社会的には恵まれない立場に置かれてます。日本でも保育士や介護士の平均年収は300万円台前半程度で賃金が低く抑えられていますが、UBIはすべての人の暮らしが保障されることで「世界にとって必要な仕事」を増やすことに注力することができると主張しています。

ボリス・ジョンソン英首相は、4月13日に全国民に最低限の所得を保障するUBIを検討する考えを示し、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う一時的な措置ではありますが、英国がこの制度について本格的に議論するのは初めてとなります。

また、4月5日にスペイン経済大臣のナディア・カルビニョスも経済の立て直しに向け、可能な限り迅速にUBI制度を導入することを決定したと発表しました。カルビニョ経済大臣は現地メディアの取材に対し、感染拡大の脅威が去った後も制度を継続すると述べています。これからコロナウイルスにより全世界的な社会不安が増すことで、世界各国がUBIに切り替えるのは、時間の問題なのかもしれません。

※本記事の情報は4月27日(月)時点のものです。情報は随時更新・変更される可能性があります。最新情報は以下のウェブサイトも参考にしていただくようお願いいたします。
世界各国・地域の累計感染者数・死亡者数

※新型コロナウイルス感染症については、必ず厚生労働省や首相官邸のウェブサイトなど公的機関で発表されている一次情報をご確認ください。

PROFILE

菅原万有
菅原万有

トロント在住のアーティスト。1994年東京生まれ。10代を英国で過ごし、早稲田大学国際学部卒業後、カナダに移住。現在オンタリオカレッジオブアートアンドデザイン美術学修士課程に在籍し、アジア系ディアスポラとトランスナショナリズムに関する作品制作と研究を行う。同大学で教員助手を務める傍ら、翻訳者、雑誌『Japan In Canada』の編集長兼ライター、レポーター、写真家、ビデオグラファーとして多義に渡り活動している。

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