情報の「偏食」を防ぐ、4匹のカエル
かん:目の前の情報から、発信者の《意見・印象》を仕分ける大切さはよくわかりました。でも、そもそも自分の情報の集め方自体が、かなり偏っているんじゃないかなと思うことがある……。
あんな:どういうときに思うの?
かん:参院選の記事で、微力ながら「選挙に行こう」っていう発信をして、Twitterのタイムラインではすごく盛り上がっているように見えたんです。でも結果、若者の投票率がびっくりするくらい低くて……。(*2)
*2=10代:32.28%、20代:30.96%、30代:38.78%(全体:48.80%)出典:総務省「参議院議員通常選挙における年代別投票率(抽出)の推移」より
あんな:それ、フィルターバブルってやつじゃない? 前回の米大統領選で問題になっていた。
しもむら:巨大な1個の泡の中に入っているように、関心のない情報が外から全く入ってこない状態のことですね。SNSで好きな投稿ばかり検索で選んだり「いいね」してると、似たような投稿やユーザーがオススメされて、段々それ以外の情報が来なくなる。アルゴリズムでジャストミートな情報が出て来ますから、読みたいものだけを読めるようになって、受け手が気をつけないと情報の偏食が進んでしまうんですね。
かん:確かに私のタイムラインにはアイドルと舞台関連の話題はめっちゃ流れてくるけど、スポーツの話題とか全然目にしない。
あんな:ステーキにいいねして焼肉をググっていたら、知らないうちに肉好きクラスタの中にいて肉の情報ばかり入ってきて、「空前の肉ブームだな」と勘違いしてしまう感覚かな。体のためにはお野菜食べようみたいに、バランス良い情報摂取をするためには何を心がけたらいいのでしょう?
しもむら:情報の見方を色々と変えてみることです。その方法は沢山あるけれど、例えば「立場」「重心」「順序」「視野」の4つを変えてみてください。これが代表的なので、授業では「4匹のカエル」を意識してほしいと伝えています。
あんな:まずは「立場」をカエル?
しもむら:例えば、「人里にクマが出ました」というニュースを見たときに、住宅なんて無かった時代から生息していたクマの立場から見ると、「クマ里に人が出ました」という話になってきます。害獣退治の話から一転、人と自然の共存の話になってくる。
以前話題になった新聞広告のように、有名な桃太郎だって、鬼の子どもからみたら「ぼくのお父さんは桃太郎というやつに殺されました」となりますよね(アドタイ/桃太郎の新聞広告から、中学校の授業が生まれた)。
かん:同じ事実の報告も、立場を変えると情報に多面性が出てくるんだ。
しもむら:「立場をカエル」とき、《人 or クマ》のどちらか一方で捉えると視野が偏るので、《人 and クマ》と足し算で考えるのがポイント。
日本海の向こうからミサイルが飛んできたときにも、そりゃ許せん! と憤るのは当然として、だからこそ情報は多面的に捉えないと。自分が平壌(ピョンヤン)放送のキャスターだったらどんな理屈・言葉で報じるだろう、韓国・中国・アメリカは? と、いろいろ立場をカエル足し算をしていく。それによって、どんどん立体感があるバランスの取れた情報に育つんです。
あんな:でも、相容れない立場の人の見方を想像するのって、練習が必要な気がする……。
しもむら:そう。そこで、真逆の立場で考える練習になるのが、「逆リポーターごっこ」です。
かん:ニュース内容の主語を入れ替えたりしてみるってことかな?
しもむら:さっきクマや鬼の子の立場になったみたいに、ニュースでもSNSでも、何か情報に接した時に、ふと「この人と逆の立場から同じ情報を伝えたら、どんな言い方になるかな?」と、自分で「逆リポーター」になりきって言葉にしてみるんです。
例えば、ある番組で「新元号を考える有識者会議」のメンバーを紹介するときに、この画像のように、男性の識者は仕事上のグループ分けをされているのに対して、女性の2名だけ、「女性」とグループ分けされたことが話題になりました(BuzzFeed/新元号有識者の番組内紹介で「女性」の分類に批判の声。日テレの説明は…)。
かん:突然の女性枠! 性別が女性なだけで、女性学の有識者ではないのに。林真理子さんを「文学界」にして、宮崎緑さんを「教育界」にしないと変じゃない?
しもむら:ですよね。ここで「逆リポーターごっこ」をやってみると、こうなります。
あんな:悔しいけど、こうなって初めて違和感に気がつく人も多そう。
かん:レストランを舞台に、車椅子を利用する人と健常者の立場を逆転させて、障害と社会のあり方について考えてさせる体験型のイベントのニュースを最近見ました(日テレNews24/床がツルツル? 健常者が利用しにくい飲食店)。これも発想としては逆リポートですよね。先生、次はどんなカエルですか?
しもむら:「重心をカエル」、ですね。例えば、そうだなあ。労働基準局の窓口で「ブラック企業の相談が去年より増えた」と聞いて、いいニュースと思いますか。悪いニュースと思いますか。
あんな:泣き寝入りが減ったなら、いいニュース?
しもむら:この情報に接したとき、「ブラック企業」という部分に重心を置いた人は、「ブラックな会社が増えたから相談が増えた」=悪いニュースだと感じる。一方で、あんなさんのように「相談」という部分に重心を置いた人は、ちゃんと相談しなきゃと行動できる人が増えたのはいいことだと感じたわけですよね。ニュースを聞いた時の印象は、どこに自分が重心を置いたかで大きく変わってくることがありますから、自分とは異なる受け取り方もありえないか、ときどき意識的に重心をずらしてみるのも大事です。
あんな:頭の体操って感じだな。
しもむら:3匹目は「順序をカエル」です。米朝首脳会談で「合意にはいたらなかったが、一定の前進が得られた」と言われるのと、「一定の前進が得られたが、合意には至らなかった」と言われるのでは、印象が大きく違いませんか。
かん:同じ事実でも、前者は前向きに感じて、後者はがっかり感がある。
しもむら:これも、情報の《別の受け取り方》の発見ですよね。
あんな:前後入れ替えるだけなら、簡単に実践できていいね。
かん:面白いな、いろんなニュースの書かれ方、チェックしてみよっと!
しもむら:そして4匹目、「視野をカエル」。3年前に出した仕掛け絵本の、下のイラストを見てください。街でマスクをしている人が少数でも、ニュースで赤枠のみを切り取って報道されると「わ、みんなマスクしてる!」と思ってしまいますよね。
しもむら:情報とは常に、際立たせたい部分にスポットライトを当て、切り取って発信されるものです。報道だけでなく日常会話だって同じ。「あっちの角で、家が火事だよ!」と友達に知らせるとき、いちいち「他の角では、火事じゃないよ」なんて付け加えないでしょう? でもしばしば受け取る側が、その切り取られたフレームの中が全てだと思いこみ、他の情報が見えなくなってしまう……ということが起こるんです。
あんな:たしかに、新橋駅前の街頭インタビューの様子を見ていても、ニュースの切り口に合うものが採用されてますもんね。嘘じゃないけど都合よくトリミングされた情報は、鵜呑みにしてはいけない。
しもむら:新型コロナ関連のニュースでも、マスク不足が起きる前(!)の「マスクの人が少し増え始めた」くらいの時期から、このイラストの赤枠みたいな切り取り方で、雑踏の映像や写真が使用されていました。悪意があるわけじゃなくて、そこが関心ごとだからアップにしているだけなんだけど。
そしてご存知の通り、トイレットペーパーの売り切れた商品棚ばかりアップした映像は、ますます買いだめ騒ぎを煽ってしまいました。生産工場まで視野を広げれば、全く品不足では無かったのに。
かん:鵜呑みにしちゃいけないのはフェイクニュースだけじゃ無いってことですね。
しもむら:その通り。この4匹のカエルが身につけば、フェイクはもちろん、パニックを煽るような報道にも引っかかりにくくなりますよ!
ここまでが、メディアリテラシーの基本です。まとめると、前回お話しした
1. 結論を[ソ]ク断するな
2. 意見・印象を、[ウ]呑みにするな
に加えて、今回カエルで説明した
3. 一つの見方に[カ]タよるな
4. スポットライトの[ナ]カだけ見るな
の4つ。「『ソ・ウ・カ・ナ』の自戒を大切に」と、小学生から経営者の皆さんまで同じように伝えています。
<ポイント>
Q.「自分の考えや情報が偏っていないか不安になったらするべきことは?」(かん)
A.「立場・重心・順序・視野などをカエル」(しもむら)
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