今もこの先も、きっとずっと続くことを疑いもしなかった平坦な日々が、いかに脆く愛おしいものであったか。
この作品は1986年に起こったチェルノブイリ原発事故に遭遇した、ごく普通の人々の物語を著者ならではの視点・方法で聞き取りし、まとめ上げたドキュメントだ。
これを読もうと決めたあなたは、この悲惨な事故について今までに学び、見聞きしたこと、灰色がかった凄惨なイメージが既に頭の中にあるかもしれない。それは確かにその通りだ。しかし、この本に書かれていること、それは、シンプルに愛の物語だ。
人々が生まれた場所で、ただ毎日を生きていたこと。どんな風に愛して、どんな風に暮らしたか。透明で目に見えない大きな力、原子力について、ただ人々は無知であったこと。
今もこの先も、きっとずっと続くことを疑いもしなかった平坦な日々が、いかに脆く愛おしいものであったか。読み進めているうちに、わたしたちが今それぞれに生きている世界や大切な人への想いで心が満ちていく。きっと、思い浮かべるのは、いつものあの場所やあの顔。今、わたしたちが生きている、ずっと守りたい場所。