語られることの少ない、そんな場所に存在する、または存在していた全ての女性たちは、小さなダイヤモンドのように控えめに輝いている。
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『ダイヤモンド広場』(著:マルセー・ルドゥレダ、訳:田澤耕、発行:岩波文庫)(Amazonで見る)
舞台は再度バルセロナだ。旧市街を北に上ったところにあるのが、この物語の舞台であるグラシア街。そして巡り合った若い二人。「俺の女王さま」と彼が呼んだ。ダイヤモンド広場での運命的な出会いから程なくして、結婚したキメットとクルメタ(ナタリア)は二人の新しい生活をスタートさせる。
この世に存在している意味は未だわからないままに、日々を懸命に生きる若いナタリア。やがて生まれた小さな子どもたちを抱えながら、妻であり母であるという役割を果たし続け、スペイン内戦が引き起こした混乱と貧困、戦地に赴いたキメットの不在の中でも家族の生活を守り抜く。
「悲しみは丸めて玉にしてしまわなければならない、急いで小さな玉に」
仕事がなくなり、食べるものがなくなっても日々は続いていく。
そして別れ。クルメタは生きるための選択をする。
詩的な文体と、物語全体に散りばめられた羽と鳩のイメージは、華やかに飛び立つことのない日々を生きたクルメタを美しく、そして優しく包む。
日々の暮らしを持続させていくことは、決して受動的に与えられただけのものではなく、むしろ強い意志の元にあるものだ。語られることの少ない、そんな場所に存在する、または存在していた全ての女性たちは、小さなダイヤモンドのように控えめに輝いている。
これは、人生を駆け抜けていった、一人の女の子の愛の物語。