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林央子とエレン・フライスのParallel Diaries(2020年5月)

禁断の道の散歩、アクティビズムと生活、死刑についての作文

連載:林央子とエレン・フライスのParallel Diaries
テキスト・撮影:林央子、エレン・フライス 翻訳:林央子 編集:竹中万季
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2020年5月10日(日)

エレン 5月10日 21:00

あと数時間で、フランスでは公的にはロックダウンが解除される。用紙に記入したり、警察に制限される危険をおかさずに、外出できるようになる。けれども「普通」に戻っていくとは言えない。前の通りということは、何に関しても、ないのだ。いくつかの、守らなければならないルールがある。そのいくつかは良いもの(ウイルスに感染せず、また弱者である他人にも移さないための)だが、いくつかは自由を制限し、社会的な動きを抑え、私たちの生活さえもコントロールするものだ。

今日、私は3人の友達を昼食に招いた。外は雨が激しく降っていた。私たちはたくさん話をした。彼らは私とちがって、とても政治的だ。私は去年、いくつかの会合に参加し、公共の場で話をした。私にとっては、とても難しいことだったけれど。内容は、私たちの村の観光化に反対するものだ。もしくは、市の唯一の事業が観光であるという事実に反対するもの。私たちなど存在しないかのように感じている。行政はここに一年中住んでいる我々のことを考えていないが、ここに数日、あるいは数時間訪れる人々について考えているのだ。その理由は、経済が世界を支配しているから。けれども私たちは議論した。住人である私たちも経済を生み出している、と。私たちは、食べ物を買うし、レストランや映画館、書店に行く。私たちの需要についても、考えるべきなのだ。

経済を攻撃すると、お返しに経済に攻撃される。実際、そんなことが起った。去年、村民の半数が、のこりの半数と戦って、数か月間、雰囲気がとても悪くなった。今日、私たちは小さな公園の再開発について話をした。この動きに私たちは激しく抵抗していた。抵抗の主な理由は、その醜さからくる。この事業に反対する多くの人々の署名を集めたけれど、市の職員は取り合わなかった。私の友人たちは、夏の間にアクションをおこす計画をしていて、私もそれに参加する。けれども私は、アクティビズムが自分の生活の大半を占めることは望んでいない。それに参加するのは、私が落ち込んでいるからであって、その活動は私を触発はしない。反対に、私の友人たちはアクティビズムにとても触発されるようで、それが彼らの生活の中心になっている。だから、私は説明した。私は自然や映画や本からインスピレーションを得ている。だからあまりたくさんの時間をさけないのだ、と。私が正直だったから、彼らは理解した。

ナカコ 5月10日 21:30

今夜、ボリス・ジョンソンのTV演説を聴いた。イギリス政府がロックダウンをどのように解除するのか、その道筋を知ることができると期待していたのだが、十分な情報はなかった。残念だ。今日は下の階の住人がパーティーをしていて、とてもうるさい。ジョンソン首相の15分間の演説のあと、ホウキさんとFaceTimeで会話した。ロックダウンになってからの習慣になっている。

ホウキカズコさんは、90年代初頭に『花椿』でコラムを連載していた。だから、知り合って約30年ということになる。ロンドンに引っ越すことを決めてから、ホウキさんがこの街に住んでいることを思い出し、ロンドンに来る機中で、ホウキさんの昔の連載を読み直した。とても面白かった。ホウキさんが1982年に結成したバンド、フランク・チキンズの音楽も、今聴いてみると、とても興味深い。夫や息子も、ホウキさんのファンだ。はっきりした個性があるけれど、とても気さくで付き合いやすい方だ。

今夜、ホウキさんに話したことは、私が昨日受けたパームリーディングについて。聞き上手なホウキさんなので、いつも、自分の身に起こったことをいろいろ話してしまう。結局、パームリーディングで私が言われたことは、とても理にかなっているし、納得のいく話だということになった。まとめると、彼女が教えてくれたことは、私のロンドンへの転居は意味があることだったし、ここに住むことが幸運を呼び込むということだ。この励ましは、私を前向きな気持ちにしてくれた。ホウキさんもこのエピソードを喜んでくれた。ほっとした。

PROFILE

林央子
林央子

編集者。1966年生まれ。同時代を生きるアーティストとの対話から紡ぎ出す個人雑誌『here and there』を企画・編集・執筆する。2002年に同誌を創刊し、現在までに今号を含み14冊制作。資生堂『花椿』編集部に所属(1988~2001)の後フリーランスに。自身の琴線にふれたアーティストの活動を、新聞、雑誌、webマガジンなど各種媒体への執筆により継続的にレポートする。2014年の「拡張するファッション」展に続き、東京都写真美術館で行われた「写真とファッション 1990年代からの関係性を探る」展(~7/19)の監修を勤めた。同展にはエレン・フライスも招聘。現在『She is』『mahora』ほかにて連載執筆中。
here and there news

エレン・フライス

1968年、フランス生まれ。1992年から2000年代初頭にかけて、インディペンデントな編集方針によるファッション・カルチャー誌『Purple』を刊行。その後も個人的な視点にもとづくジャーナリズム誌『HÉLÈNE』『The Purple Journal』を手掛ける。また、1994年の「L’Hiver de L’Amour」をはじめ世界各国の美術館やギャラリーで展覧会を企画。現在はフランス南西部の町サン・タントナン・ノーブル・ヴァルで娘と暮らしながら、写真家としても活躍している。編著に『Les Chroniques Purple』(VACANT、2014年)、著書に『エレンの日記』(林央子訳 アダチプレス 2020年)。東京都写真美術館の「写真とファッション」展では新作スライドショー《Ici-Bas》を発表。

INFORMATION

連載:林央子とエレン・フライスのParallel Diaries
連載:林央子とエレン・フライスのParallel Diaries
『Purple』『here and there』の編集者が
離れた場所で綴り合う並行日記

vol.1 林央子とエレン・フライスのParallel Diaries(5月)

書籍情報
『mahora第3号』

2020年6月20日(土)発売
価格:3,800円(消費税/送料別)

太古から続く歴史や文化、秘跡や里山に残された光景、日々の暮らしやアートなど、さまざまな風景からホリスティックな世界を紹介する本、『mahora』の第3号。

今回の連載が始まる前の4月に林央子さんとエレン・フライスさんが行っていたやり取りが「[連載] 続・暮らしの風景 二人の風景 自由と不自由と日常について」で掲載されています。
mahora 第3号

林央子とエレン・フライスのParallel Diaries(2020年5月)

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