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届かない手紙を書きたい#01「夢と言葉に、私を探す」/南沙良

女優・モデルの南沙良が『yom yom』に掲載していたエッセイ

テキスト・題字:南沙良 撮影:石田真澄 スタイリング:森川雅代(FACTORY 1994) ヘア&メイク:茅根裕己(Cirque) 編集:上田智子、竹中万季
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She isで先行公開がスタートした、女優・モデルの南沙良とイラストレーター・漫画家のごめんがコラボレーションした「頭の中の女の子」がテーマのショートショート全4話。公開を祝し、過去の『yom yom』で掲載していた南沙良のエッセイ「届かない手紙を書きたい」を順次公開します。

私の朝は生ぬるい。毎朝、もやっとした夢の記憶と一緒に目が覚める。

うたた寝したときでさえ、断片的な夢を見る。小さい頃から、眠りにつくときはいつだって夢と一緒だった。

夢の続きが気になって二度寝してしまうこともある。夢の記憶に引っ張られたり、つかまれたりする。

私は私の見る夢が好き。いつもファンタジーな内容の夢を見ることが多い。
たまに、夢のなかでうなされることがある。暗がりに針がささるような。わあっと飛び起きて、目が覚めたら震えていることがある。でも、そんな自分がなぜか愛おしい。

まだ、私は変わっていない。この夢を見る私でいられている。そんな夢をみた日の朝は、世界の温度がいつもより少し低い。

いつだって、私を動かし、私の世界を現実と思わせるのは夢だ。
たとえば、夢のなかで私は、誰の許可もなく髪を切った。
しゃくしゃくと音を立てて、ついさっきまで私の髪であったものを床に落としていく。
鏡に私の姿は写っていない。だけど首のあたりがすぅすぅするのがわかった。

ある晩、星を釣る夢をみた。
私は小舟に乗っていて、下には宝石や星がきらきら浮沈している。
その大きさは様々で、石ころくらいの大きさの星もあれば、私の身体より大きな星もある。
私は小さくて薄っぺらな星をひとつ釣り上げて口の中に放り込んだ。星を食べるのは初めてだったけれど、思っていたよりしょっぱかった。

大きなまんまるい満月が浮かんでいた。綺麗な琥珀色をしていて、星とは比べ物にならない程大きくて重そうだった。月を間近で見るのは初めてで、私は胸を弾ませながら手を伸ばした。あとほんの少し手を伸ばせば月に届く。そこで目が覚めた。

夢のなかは、水中に潜っている感覚に似ている。たまに、現実にいるのか夢のなかにいるのかわからなくなるときがある。泣きながら踊ったり、笑いながら綿菓子で窒息して苦しんだり。
眠りの中で、そんな夢に包まれ続けること、それが私の大きな野望であり、希望でもある。

現実だけでなく、夢の世界にも言葉が踊り狂っている。夢の世界でも、言葉は魔法にもなるし呪いにもなる。

人から褒めてもらうのは嬉しい。あたたかい言葉をもらう度、心臓がつやつやするのが自分でわかる。つい嬉しさで口元が緩んでしまう程、明るくてやわらかいそれは、ずっと心に残っていつだって私を包んでくれる。言葉は最高に素敵な魔法だ。

そんな素敵な魔法には、かなり深刻な副作用がある。あたたかい装いで他人から投げかけられる言葉の中には、ナイフみたいに尖った言葉が一緒についてくることがある。
私の心のなかに、ノックもなしに入りこんでくる。口の中が鉄の味でいっぱいになる程、重くて痛いそれは、時間が経てばただの執着となって私の邪魔をする。

私は、人となにかを話すとき、その時の自分の感情にしっくりくる言葉をぱっと見つけることができない。
思えば小さい頃から、おしゃべりができなくて泣いてしまうような子だった。言葉を発することから逃げて、逃げて、ずっと逃げた先に想像の世界があった。私はそれを夢の世界と呼ぶけれど、夢の世界は、私を生かしてくれる術であって、逃げ道であって、私の居場所にもなっていった。
なにかを探しているとき、夢に映るすべてのことが誰かからのメッセージのように思える。

うんとたくさんの夢をみた。魔法使いになる夢、えのきが口から生えてくる夢、憧れのあの子になる夢。どれも全部大切で、すべてが私の宝物だ。
夢のおかげで、私は私を知ることができたから。
現実ではきっと気が付くことのなかった、自分の底に沈んでいるたくさんの物語を、夢の世界を通して見つけることができた。それをひとつひとつ丁寧に拾い上げて宝物にする度、私は、私のことをぎゅっと抱きしめてあげたくなる。

昔から、人と何かを話すのはとても緊張するし、失敗して土に埋もれたくなることもある。でも私はその度に蘇ってやるぞ! 何度でも失敗を重ねて、試行錯誤を繰り返しながら、探りながら、それでも言葉を使い続けたい。私の夢を言葉にすることができれば、私の夢は私だけのものでなくなるかもしれない。
だけど、私を理解してもらう手掛かりになるかもしれないから。

その人の使う言葉が、その人の全てではない。言葉で全てを伝えようと焦ったり、うまく伝えられなかったからといって、哀しむ必要はない。今まで苦しんで、ようやくそう思い始めた。言葉じゃなくてもその人の想いがしっかり込められた行動や、その人にしかできない手段での表現だって、きっとある。言葉に頼りすぎないこと、縛られすぎないことも大切なのかもしれないな。

ときどき脳内会議を挟むことなく、咄嗟に言葉が出てきてしまうことがある。そんな日の夜はなかなか眠れない。お布団のなかで延々と、そして悶々と一人反省会をしている。

きっと、言葉に縛られたくないんだな。雑談力やテクニックは必要だけど、もっとやわらかくて無防備な部分を大切にしたい。

私は女優であり、高校生だ。居心地は少し悪いけれど、今はここから見える景色を静かに守りたいと思えている。

生活を整えるのが好きだ。お花を一輪飾ったり、丁寧に紅茶を入れたり、鏡をうんと磨いたり、早起きしてトーストを焼いてみたり。私はまだバランスを上手くとることのできない子どもだから、生活を整えて優先順位を大切に扱うことで、「これがいい」「これでいい」のバランスを保つことができる。それに、生活を整えると、たまに羽目をはずす楽しさができる。

ただ、期待してなにかを待ったり、疲弊して、悲しい気持ちであふれることもある。
そんな時「これ、映画のワンシーンみたい!」そう思うと、なんだか気持ちが楽になる。その後の展開を想像して楽しめるくらいの余裕が出来る。だって、食パンだって何枚も入っているんだから、賞味期限を守るなら1人で泣いてばかりいられない。

どんなに響いた言葉ですら、私は忘れていく。

それでもたしかに覚えている感情があって。

そんなふうにして夢と言葉に導かれながら、今日も私は運ばれていく。

Photo
(Photo by Sara Minami)

1
生活を整える大事な小道具。かすみ草とお気に入りのディフューザー。ステキな朝の演出を手伝ってくれる大好きなものたちです。

2
いつもより少し早く起きて美術館へ。楚々とした木漏れ日に思わずシャッターを切ってしまった一枚。

3
みかんに飲み込まれる夢を見た翌朝、恐怖払拭のために、デコポンで作ってしまった一品。

PROFILE

南沙良
南沙良

女優、モデル。2002年6月11日生まれ。映画『幼な子われらに生まれ』(2017年8月公開)で女優デビュー。初主演映画『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』(2018年7月公開)で、報知映画賞、ブルーリボン賞他、数々の映画賞を受賞し、その演技力が高く評価される。本年度は、アーティスト・sumikaの新曲「エンドロール」のショートフィルムで主演を務め、その後も、ドラマ『ピンぼけの家族』(BSプレミアム)でヒロイン、映画『もみの家』で主演、ドラマ『これっきりサマー』(NHK大阪)で主演を務めるなど活躍する。11月下旬放送の特集ドラマ『うつ病九段』(BSプレミアム)、来年3月5日公開の映画『太陽は動かない』への出演を控える。江崎グリコ「ポッキー」イメージキャラクター。

INFORMATION

書籍情報
書籍情報
『yom yom』

小説、コミック、エッセイ、ノンフィクションなど、あらゆるジャンルの注目作品をお届けするクロスオーバー文芸誌。毎奇数月第3金曜に電子書籍で配信しています。変化する時代の姿を捉えながら、そこに生きる私たちの「リアル」を追いかけたい――そうした願いを込めながら、最新カルチャーや国内外の社会情勢、思想・哲学の関連記事も充実させています。

2020年9月18日(金)配信
価格:770円(税込)
発行:新潮社

yom yom | 新潮社
yomyom (@yomyomclub) / Twitter

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