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届かない手紙を書きたい#06「もしも音楽がなかったら」/南沙良

一連の儀式のような流れがしたいがために、レコードを引っ張り出す

テキスト・題字:南沙良 撮影:石田真澄 スタイリング:森川雅代(FACTORY 1994) ヘア&メイク:茅根裕己(Cirque) 編集:上田智子、竹中万季
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女優・モデルの南沙良さんのエッセイ「届かない手紙を書きたい」。新潮社の「yom yom」に掲載されている連載をShe isでも順次公開します。第6回目は「もしも音楽がなかったら」。

パジャマ ¥4,900(セットアップ)、ハートのネックレス ¥2,900/Santa Monica原宿店 タンクトップ、ブランケット/私物

思えば、幼い頃から生活のそばには音楽があった。落ち込んだときや気分をあげたいとき、誰かに慰めてほしいとき。そして、部屋でリラックスしたいときや電車に揺られているとき。私に力をくれて、そっと寄り添ってくれる。

母が料理をするときにキッチンから聞こえてくる音楽と包丁のリズムはすっかり生活に馴染んでいて、今では夕食のときに音楽がかかっていないとなんだかそわそわする。テンポのよいJIVEが私の食欲をそそってきたし、しっとりとしたブルースが私に満足感を与えてくれた。それよりも遥か前、母の後を追っていた時期には、音楽が聞こえてくると、幼いながらも母の居場所が分かり、安心してソファーで絵本を読んでいられたものだ。

母とキッチンの記憶。

我が家にはレコードプレイヤーがあって、多少手間がかかっても、レコードを聴きたいときがある。

レコードクリーナーでレコードを優しく撫でる。それから針のホコリも丁寧に払う。ひと呼吸して、レコード針を落とす瞬間はいつだってドキドキするものだ。

誰にも邪魔されたくない、邪魔されない、この一連の儀式のような流れがしたいがために、レコードを引っ張り出すのだ。音こそ流れていなくても、すでに私の中では音楽が流れている。

もしも、デジタルしか知らなかったなら、興味もなかったであろうJIVE&JUMPからモータウンサウンド。その時代の背景にあるファッション、ヘアスタイルまでをも尊く感じるのも、音楽を通して溢れた感情や音楽の裏側にある煌めく世界を知っているから。

私は、音にこだわりもなければ、音楽に詳しくもない。レコードから流れてくる音を、どんな言葉にすればいいのか分からないが、それでも人間臭くて、生きてる音のように感じられる。目を閉じていても鮮やかに照らされて、小さな悩みくらいならどこかに置いてくることができる気がするのだ。

私にとって音楽は、心に寄り添ってくれたり、生活を鮮やかに彩ってくれたり、いろんな作用をもたらしてくれるものになっている。そこで今日は、私の愛に溢れたプレイリストをご紹介したい。

#Fishmans いかれたBaby

<悲しいときに浮かぶのは、だれの顔なのか。悲しいときに笑う力をくれるのはだれなのか>

学校で辛い思いをしたとき。焦燥と孤独に埋れて、自分が大切にしているものを見失いそうになったことがある。そんなとき、この曲が自分のなかに蓄積されたものを溶かし、寄り添ってくれた。

#The Whitest Boy Alive 1517

いつのことだったかはっきりとは思い出せないけれど、冷え込む夜、キッチンから流れるこの曲がとてもあたたかくて、胸が苦しくなったのを覚えている。優しいメロディーに乗った力強い歌詞がとても心地よくて、自由と自分を抱きしめたくなった。今夜はきっといい夢が見れる、そう思える一曲。

#Lily Allen Littlest Things

私の好きな映画『セレステ ジェシー』。数年前に初めてこの映画を観たとき、オープニングのタイトルバックで流れる曲に心を奪われ、サントラを即購入した。

<ほんの些細なことが、私をそこに連れ戻す 格好悪いけれど、本当のことなの よくないのは分かっているけれど、不公平だわ あなたを思い出してしまう たった一度の週末でいいから 何もなかったふりをして2人で過ごせたらと願ってしまう だから教えて これで終わりなの?>

刻まれた愛おしい思い出が凶器となって襲いかかってくるさまがリアルに描かれていてボロ泣きした映画……映画も最高だけどサントラも全曲最高。

#大場久美子 大人になれば

「大人になれば チョコレートたべて いろんな事を考えるものさ」

なんてかわいい歌詞だ、と一目惚れして、カラオケに行ったら必ず歌う曲。〝少女の哲学〟のような歌詞で、この曲を聴くと甘い気持ちになる。思わず頬が緩む。メランコリックなメロディーに乗ったこの歌詞は、少女の甘い夢の中にある大人のイメージを可愛らしく、悲しく歌いあげている。

この4曲の他にも、私を変えてくれた音楽はたくさんある。そんな素敵な曲に出会えたのは、きっと運命だと信じている。

ないまぜで不確かな日々のなかで、私は何かに運ばれ、何かをかたくなに祈りながら、疑うことを信じながら生きている。

時々つまずくこともあるけれど、偶然と選択が溢れるこの世界の中で、めぐりあえたことへの愛おしさは忘れないでおきたい。

今日もまた、音楽が始まる。

音楽が始まれば、この夜は特別になる。

Photo
(Photo by Sara Minami)

1
最近よく流れているレコードたち。リズムが良くて聴いていて楽しくなる曲たち。

2
実は最近線香花火を常備し始めました。この日は音楽をかけながら母と2人で線香花火。

3
私の部屋のお気に入りの一角。ここで音楽を流す度、音楽に国境はないなぁと感じています。

PROFILE

南沙良
南沙良

女優、モデル。2002年6月11日生まれ。映画『幼な子われらに生まれ』(2017年8月公開)で女優デビュー。初主演映画『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』(2018年7月公開)で、報知映画賞、ブルーリボン賞他、数々の映画賞を受賞し、その演技力が高く評価される。本年度は、アーティスト・sumikaの新曲「エンドロール」のショートフィルムで主演を務め、その後も、ドラマ『ピンぼけの家族』(BSプレミアム)でヒロイン、映画『もみの家』で主演、ドラマ『これっきりサマー』(NHK)で主演を務めるなど活躍する。12月20日放送の特集ドラマ『うつ病九段』(BSプレミアム)、2021年2月6日放送スタート[全4回]の土曜ドラマ『六畳間のピアノマン』(NHK)、2021年3月5日公開の映画『太陽は動かない』(21/羽住英一郎監督)、2021年春公開の映画『ゾッキ』(21/竹中直人監督・山田孝之監督・齊藤工監督)、2022年放送の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK/三谷幸喜脚本)への出演を控える。江崎グリコ「ポッキー」イメージキャラクター。

INFORMATION

書籍情報
書籍情報
『yom yom』

小説、コミック、エッセイ、ノンフィクションなど、あらゆるジャンルの注目作品をお届けするクロスオーバー文芸誌。毎奇数月第3金曜に電子書籍で配信しています。変化する時代の姿を捉えながら、そこに生きる私たちの「リアル」を追いかけたい――そうした願いを込めながら、最新カルチャーや国内外の社会情勢、思想・哲学の関連記事も充実させています。

yom yom | 新潮社
yomyom (@yomyomclub) / Twitter

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