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林央子とエレン・フライスのParallel Diaries(2020年9月~10月)

私たちのすごした季節の感情を映した、並行日記

連載:林央子とエレン・フライスのParallel Diaries
テキスト・撮影:林央子、エレン・フライス 翻訳:金沢みなみ 編集:竹中万季
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2020年10月11日(日)

ナカコ 10月11日(日) 19:30

今朝は4時に起きた。パソコンを開けて、横浜トリエンナーレの最終日に行われた田村友一郎さんの舞台作品を見た。彼は丸一日パフォーマンスを行っていたのだ。今日はgallery traxでの、安野谷昌穂さんの展覧会の最終日。それから今、志村信裕さんは、東京都庭園美術館で、彼の作品「Nostalgia, Amnesia」の設営をしているはずだ。コロナ禍で、もっと前に予定されていたグループ展が、延期されていたのだ。

ロンドンの秋にしてはめずらしく、よく晴れた日曜日だった。でも、やらなければならないことがたくさんあって、特別なことは何もできなかった。例えば、壊れたプリンターを交換するために電器店に行ったり、クリスマスに帰国するためのフライトを予約したり、フライパンやキャセロール鍋を買ったり、ネットスーパーで食材を注文したりといったようなことだ。来週末まで、生活を落ち着け、大学院生として新学期をスタートする準備をするための時間が少しある。新学期は10月19日に始まる。

振り返ると、去年の夏から一日も休みを取っていない。いつも次の何かのために準備をしなければならなかった。ビザについて聞いてまわり、引っ越しの準備や大学に提出する書類の用意、ロンドンでフラットを見つけ、ロンドンでの生活や、私と息子が二人それぞれの学校に慣れること、本の出版準備や、東京で春からオープン予定だった展覧会の準備、大学の試験のための英語の勉強、ロックダウン、大学の試験、息子の世話、日本に帰って、試験に合格し、出版予定の本の執筆とミーティング、そして、ビザの手続きをしてロンドンに戻る……文字通り、丸一年以上休みがなかった。今は、落ち着いた日々を送っている。この期間は何もしないように心がけているからだ。休まないと。

エレン 10月11日(日) 20:30

今日はマーケットの日だ。昔みたいに、私の村では一週間で一番大事な社交行事である。私はマーケットには着飾って行く。今日は、山梨県のWatanabe Textileで買った、美しい白いスカートと、オフホワイトの手織りのビンテージセーターと、ビンテージの茶色と白色のコートを着た。日曜日には、村の中ではなく、その周辺に住んでいるたくさんの友達に会う。彼らはマーケットに食料品を買いに来るのだ。日曜日の朝には、何か喜びに満ちた、お祭りのような雰囲気がある。

私はTrabendoという非営利のコミュニティカフェでお昼を食べた。友達のエミリーが毎週日曜日にランチをつくっている。エミリーはアーティストで、以前はブリュッセルに住んでいた。彼女はまた、すばらしい料理人でもある。それでキャリアを築くこともできたはずだ。日曜日に、彼女は一種類の料理をつくる。いつもベジタリアンで、たくさんの要素を魔法のように混ぜ合わせる。いつも驚きがあり、それでいて洗練されていて、しかしとてもシンプルな材料を使っているのだ。今日はブルグァ(小麦から作られる)、ニンジン、ビーツ、ジャガイモ、キャベツのマリネ、シード、サツマイモに、レモンのサワークリームがかかったものだった。デザートはクリのケーキで、とても軽くて柔らかく、エミリーの10歳になる娘、マドレーヌが作ったものだ。およそ10人くらいの幸運な人たちが、そこで食べていた。

PROFILE

林央子
林央子

編集者。1966年生まれ。同時代を生きるアーティストとの対話から紡ぎ出す個人雑誌『here and there』を企画・編集・執筆する。2002年に同誌を創刊し、現在までに今号を含み14冊制作。資生堂『花椿』編集部に所属(1988~2001)の後フリーランスに。自身の琴線にふれたアーティストの活動を、新聞、雑誌、webマガジンなど各種媒体への執筆により継続的にレポートする。2014年の「拡張するファッション」展に続き、東京都写真美術館で行われた「写真とファッション 1990年代からの関係性を探る」展(2020)の監修を勤めた。同展にはエレン・フライスも招聘。2021年春には10年ぶりの新著『つくる理由』刊行予定。
Parallel Diaries

エレン・フライス

1968年、フランス生まれ。1992年から2000年代初頭にかけて、インディペンデントな編集方針によるファッション・カルチャー誌『Purple』を刊行。その後も個人的な視点にもとづくジャーナリズム誌『HÉLÈNE』『The Purple Journal』を手掛ける。また、1994年の「L'Hiver de L'Amour」をはじめ世界各国の美術館で展覧会を企画。現在はフランス南西部の町サン・タントナン・ノーブル・ヴァルで娘と暮らしながら、写真家としても活躍している。編著に『Les Chroniques Purple』(VACANT、2014年)、著書に『エレンの日記』(林央子訳 アダチプレス 2020年)。東京都写真美術館の「写真とファッション」展では新作スライドショー《Ici-Bas》を発表。

INFORMATION

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