私はふだんは病院で働いています。
内科医で主に高齢の人たちとか治らない病気の人の終末期医療に関わっている。ですので人が亡くなっていく場面に立ち会うことというのはわりあい多いのですが、人間には「お食い初め」があれば「お食い締め」があるというのをつねづね感じています。みなさん、生まれたからにはこの世からいなくなっていく。ならば、食べなくなって死ぬわけです。死んでいった誰にでも、最期に食べたものというものがある。
そういう理由で自分が最期に食べるもののことはよく考えます。人が老いたり病気で弱って死ぬ時期になると、だいたい三食食べられなくなる。そうするとどうするか。病院食でも、ごはんとおかずのセットというものはなかなか食べられないので出さなくなり、消化のよい、噛まなくてもよい、飲み込みやすい形態になったあと、三食すべて、プリン、ゼリー、ヨーグルト、ジュースというようなものになります。果物を小さく切ったり、すりおろしたものを食べたり、その果汁を口に含んで楽しんだりします。
ときどき、液体であれば何にでも無性にゼラチンを入れたくなる。飲み残しのコーヒーサーバーに残ったドリップコーヒーや、余ったドレッシングに入れたりしたい。豆乳のゆるいゼリーは初めはそういった衝動的な気持ちでつくりました。ゼラチンの量次第で、とろりとした豆腐であったり、またプリンのようなテクスチャにもなる。
豆乳のゆるいゼリーは、夜お風呂に入る前に400〜450mlの豆乳にゼラチンを5g入れてミルクパンで温めて溶かしてから耐熱容器に移しかえて、お風呂に入って、出たらあら熱がとれているのでそのまま冷蔵庫に入れます。一晩冷やすと朝食べられます。くずしてグラノーラや蜂蜜と混ぜて朝に食べると美味しい。
死ぬ前に食べられなくなるとき、どういうものを食べたいのか考えます。柔らかい食べものはいろいろあって、それが我々の最期の食事になるでしょう。何も分からなくなる前に、自分が食べたい身近な霞を探しておきたい。