映画『神聖なる一族24人の娘たち』を観て感じた、初潮における日本とマリ・エル共和国の共通点
渋谷のヒューマントラストシネマで観たある映画のワンシーンがずっと記憶の片隅にあります。
『神聖なる一族24人の娘たち』という作品で、ロシア西部ヴォルガ川流域に広がるマリ・エル共和国のマリ人の女性にまつわる24の説話を映像化したオムニバス映画。そのエピソードのひとつに「初潮を迎えた女の子が大きな笛を吹いて町中をまわり、自分自身でその事実を町の人たちに知らせる」というマリの風習を描いたものがあり、そこには恥ずかしくて堪らなくなり走り逃げる女の子が描かれていました。彼女の姿に、初潮のときに身体の変化に心がついていけず困惑し、親に用意されたお祝いのお赤飯を前に泣いていた自分の姿を重ねていました。
日本から遠く離れたマリ・エル共和国がぐっと近くに感じたワンシーン。
世界の女性に共通して訪れる身体が大きく変化する初潮というタイミングに、もっと女の子の気持ちに寄り添って考えている文化はどこかの国にないものか。
映画を観終わった後、そんなことをぼんやりと考えながら夜道を帰ったことを覚えています。
漢方で女性のバイオリズムに寄り添う台湾のライフスタイルブランド「DAYLILY」
2018年3月、台湾でオープンした「DAYLILY(デイリリー)」は漢方で女性のバイオリズムに寄り添うライフスタイルブランド。日本出身の小林百絵さんと、台湾出身の王怡婷さんの二人がクラウドファンディングで資金調達をして立ち上げました。王さんのご実家である漢方薬局の一部を改装してスタートした台北にある旗艦店では、女性のリズムを整える漢方ドリンクや生薬の力を取り入れたフェイスマスク、石鹸、シャンプーなどを販売しています。
漢方というと日本では医療機関で処方される薬としてのイメージが強く、苦みや飲みにくさを連想される方も多いかもしれませんが、「DAYLILY」が提案するアイテムはおしゃれで美味しいのが魅力的。ついもう一杯飲みたくなってしまうチェリーやマルベリー(桑の実)などのフルーツで煎じた甘みのある漢方ドリンクは、私が思っていた「漢方」のイメージをがらりと変えるものでした。
日本にほど近い台湾で親しまれている漢方には、女性の身体が変化するタイミングにも寄り添う文化やヒントがありそう。
頭から離れないあの映画のワンシーンを思い浮かべながら、「DAYLILY」の小林さんと王さんにお話を伺いました。
「薬」ではなく、「おまもり」として漢方を。DAYLILYに聞いた、台湾と日本のライフスタイルの違い
台湾では漢方という存在はどのくらいポピュラーなのでしょうか。
小林さんいわく、台湾にはもともと「身体のベースをつくることで健康を保つ」という考え方があるそうです。その考えが根付いているから、体調がすぐれないときには身体のバランスを整える効果がある漢方を料理などからも摂取するのだそう。
また美容の場面でも、顔を明るく見せたい、唇の色を鮮やかにしたい、といったときに日本ではまずコンシーラーや口紅など化粧品が担いますが、台湾ではまずは漢方を飲んで身体の内側から整えようと考えるのだとか。
「日本では身体が悪くなってから『薬』で解決しようとしますが、台湾では漢方が身体が悪くならないようにする『おまもり』のような存在として漢方が日常の中にあるんです」と小林さん。
台湾では「おまもり」のように存在している漢方。台湾の女性にとって、生理週間も漢方とともに過ごすのが当たり前だそう。台湾出身の王さんは、漢方の専門家であるお母様から、生理期間中は身体を冷やさないようにすることや、生理前後に飲む漢方薬の知恵を日常的に教えられていたそうです。
王さんがお母様から教わった、生理週間の過ごし方
- 冷たい飲み物はとらない。生理の前、生理期間中は特に気をつける。
- 身体をなるべく冷やさないようにする。とくにおへその周り。
- 生姜が入っているスープや漢方スープなど、身体を温める食べ物を食べる。
- 痛み止めの薬はできるだけ飲まない。身体が薬に慣れてしまって、自分の力で身体を痛くない状態に調整できなくなることを防ぐため。
- 生理前には「四物飲」(スーウーイン)、生理期間中は「生化飲」をお湯で割って飲む。
王さんはお母様からの教えを守ってきたことで、風邪などもあまりひかずに育ったそう。「漢方を日常的に取り入れてきたことで、身体のリズムを整えることができ、生理痛も緩和されています」と王さん。
王さんのお母様からの教えにもあった「四物飲」(スーウーイン)、「生化飲」(シェンファーイン)は、台湾ではコンビニにも並んでいるとてもポピュラーな漢方ドリンク。
「四物飲」は和漢植物の当帰、白芍、地黄、川芎、を煎じたもの。「生化飲」は当帰、熟地黄、川芎、丹参を煎じたものです。
「『四物飲』は身体のベースを整えると言われており、生理前になるべく1週間続けて飲みます。生理前以外にも、身体が弱っているときや疲れているときにも飲んで良いものです。『生化飲』は生理期間中に飲むもので、生理痛があるときに温かいお湯で割って飲むと痛みが和らぎます。溜まっていた血を綺麗に出すといわれており、生理後に飲んでも良いものです」と教えてくださいました。
「デザインの力で、女性の毎日をサポートする漢方をアップデートしたい」
台湾では生理週間や身体が弱っているときに頼れる存在として親しまれている「四物飲」や「生化飲」。ただし一般的に販売されているものは和漢植物を煮出しただけのものが多く、苦く飲みにくかったり、デザイン的にも手に取りにくいものがほとんど。そこで「DAYLILY」はフルーツで煎じるという飲みやすさの工夫と、思わず手に取りたくなってしまうパッケージにすることで、女性の毎日をサポートする漢方をアップデートしたいと考えたのだそうです。
「台湾には女の子の生活を助ける漢方の文化があるのに、デザインが追いつかず、思わず欲しくなるものがありませんでした。もっとより多くの若い女の子にも漢方を取り入れてもらって、毎日を前向きに気持ちよく過ごしてほしい」。そんなDAYLILYのお二人の想いが、漢方でも使われる植物だというオレンジ色の百合の花を基調とした素敵なパッケージデザインやアイテムに込められています。
DAYLILYのお二人にお話を聞き、台湾に古くから根付いている漢方という文化は、女性に訪れる生理の時期に頼れる「おまもり」として存在し、さらに自分自身の身体と向き合うために必要な知識を母から娘へ伝えていくための媒介役にもなっていることを知りました。
今の日本にはそういった文化はないけれど、「DAYLILY」や「EMILY WEEK」、そしてこの連載で今後紹介するモノ・コトが、そんな文化をつくる一つになっていったら嬉しいです。女性の日常に寄り添える新しいアイテムとたくさんの選択肢が、これからもっと生まれてくることを願って。
只今、玉川高島屋でEMILY WEEK期間限定ショップを開催中。また、12月以降に予定している限定ショップにて「DAYLILY」の一部アイテムをお取り扱い予定です。最新情報は、EMILY WEEK のブランド公式instagram にてお知らせしています。