毎度! チーム未完成です。
この連載では、未完成が気になる人たちをゲストに招いて、アルコールと酒場の空気という神聖な力を借りて、働くことや人生について毎回お話ししております。全員分の飲み代を1万円以内に収めるという自分たちで決めたルールが一応ありまして、いつもその志だけは強く胸に抱きつつ、収められたり収められなかったりしながら、やんややんやとやっております。
今回は、「3本の線を引くだけでどこにでも現れる」でおなじみのイラストレーター、とんぼせんせいがやってきてくれました。チーム未完成の面こと顔を描いてくださった、私たちにとってジャムおじさんのような存在であるとんぼせんせい。そんなとんぼせんせいが、「とんぼせんせい」をお仕事にするまでをお聞きしました。
「とんぼせんせいが『装苑』に載ってますよ!」って言われて「ええ?」と思ったらチーム未完成が載ってた。
ゆりしー:とんぼせんせいとチーム未完成で飲むのは実は初めてですね!
とんぼせんせい:しをりんとゆりしーとはご飯に行ったことがあったけどね。未完成とのお付き合いはもう4年くらいかなあ。最初はしをりんから突然SNSで連絡をもらって、僕が東京にいるタイミングで食事をしたんですよね。そのときにチーム未完成のZINEを見せてもらったりして。
しをりん:過去のやりとりを振り返ると、最初は結構ちゃんとした文章で連絡してたのに、その食事を挟んで3週間後にはもう「とんぼティーチャー様」って送ってますね(笑)。
ゆりしー:その頃はまだチーム未完成を始めたばかりで面がなくて、「何か顔を隠すものが欲しいね」という話になったときに、メンバーみんながとんぼせんせいの作品が大好きだったので、無謀にも顔を提供していただけないかお願いしたんですよね。
しをりん:お願いしたその日にはもうレスポンスがあって。
しをりんとゆりしーの「未完亭」というユニットで、とんぼせんせいの個展のオープニングレセプションでケータリングをやらせていただいたことも。
とんぼせんせい:頼んでもらえて僕もよかったです。「とんぼせんせいが『装苑』に載ってますよ!」って友人に言われて「ええ?」と思ったら未完成が載ってたり、「とんぼせんせいがCHAIのMV(※)に出てますよ!」って言われてびっくりしたり。
(※チーム未完成が制作したCHAIの『ボーイズ・セコ・メン』のMVに、面をつけてちらりと映り込んでおります)
CHAI『ボーイズ・セコ・メン』
未完成一同:(笑)。
ゆりしー:面をつけていろんなことをやってるから、とんぼせんせいに恐縮な気持ちがいつもあるんです。せんせいは、本当はどう思ってるんだろうって……(笑)。
げっちゃん:そろそろ「ちょっと!」って言われないかなって。
とんぼせんせい:いや、ありがたいですよ。面白いことやってるから。
未完成一同:恐縮です‼
ずっと彫刻を続けていたけれど、「なんだかうまいこといかへんなあ」みたいな感覚がぼんやりあった。
ゆりしー:まずはとんぼせんせいが、とんぼせんせいになるまでを教えてください! とんぼ少年はどんな少年でしたか?
とんぼせんせい:そうですねえ……小学校の頃は割とはつらつとしてたんですけど、中学校であんまりうまいこといかなくて。まず、制服を着なきゃいけないことが嫌だったんですよ。それまでは性別をあまり意識していなかったのに、自分が男であることを、急に押し付けられたような気持ちになって。あとは不良グループにちょっと強い感じでいじられたりすることがあって、それも嫌でしたね。
ゆりしー:その頃って絵は描いていたんですか?
とんぼせんせい:漫画の真似ごとをしたり、美術部に入って油絵を描いてたんですけど、あくまで趣味程度でしたね。それで、高校で進学校に入れば周りの環境も落ち着くだろうと思って、頑張って進学校に入ったんですけど、今度は勉強についていけなくなって。当時から日本語ラップやファッションが好きだったんですけど、愛知の田舎に住んでいたし、「サブカルチャー」なんていう言葉も知らなかったから、そういう「ちょっと変わったものが好き」っていう感覚もどうしたらいいかわからなくて。鬱屈としながら1人で名古屋まで服を買いに行ったりしてました。
進路を決める時期になって、周りの人が大学受験の勉強をしているなかで、自分はどうしようかなと思っていたんですけど、好きだったファッションの勉強をしようと思って。どうやら美術大学に入ればそういう勉強ができるらしいとわかって、いくつか受験をしたなかで、結果的にファッションの専攻じゃなくて、京都精華大学の立体造形専攻に受かったんです。
げっちゃん:私、生まれ変わったら京都で大学生活送ってみたい! 森見登美彦の小説のイメージ。
とんぼせんせい:確かに、実際あの感じはわかりますね。自由自治の感覚がすごくあって、校舎内に立て看板がいっぱいあったり、そういう雰囲気がいいなと思って入ったんです。
しをりん:大学に入った時点で、ファッションについてはもういいやって感じだったんですか?
とんぼせんせい:いや、好きでした。なので、ファッションを彫刻に落とし込めたらいいなと考えていて、布を使った立体作品を作ったりしてましたね。
しをりん:じゃあ、今のとんぼせんせいの作品とは違って結構抽象的な作品というか。
とんぼせんせい:そうですね。だから当時は現代美術の世界でなんとかなったらいいなと思って、大学卒業後に京都市立芸術大学の大学院の彫刻専攻に入ったんです。そうすると、同じ大学院には、もうすでにギャラリーと契約してる人たちがいたりするんですよ。その頃、若干アートバブルっぽかったこともあって。大体そういうのは「ユガ」の人たちなんですけど。
げっちゃん:湯葉?
一同:(笑)。
とんぼせんせい:京都だしね! あの、「油画」です。
げっちゃん:まさかと思ったけど!
とんぼせんせい:ええ(笑)。油絵の方が売りやすいし、飾りやすいですから。そうやって同じ大学院に才能のある人たちがいっぱいいて、僕もずっと彫刻を続けていたんですけど、「なんだかうまいこといかへんなあ」みたいな感覚がぼんやりあって。
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