1年間、この不思議な連載にお付き合いいただいたみなさまへ、まず心からお礼をお伝えしたいと思います。本当にありがとうございました。
これまでに登場したのは6人のHeと彼らの中に生き続けるSheたち。でも実際のところ、これまでにわたしは20人ちかくの男性たちにインタビューし続けてきました。短期間にこんなにもたくさんの男性たちに出会い、話を聞く(デートをする)だなんてこと、わたしの人生においてなかなかない機会だったので、いい冒険だったなぁ……と今あらためて思っています。
インタビューに理解を示してくれ、自身の「忘れられない彼女」のことを話してくれたHeたちは、みんなみんな本当に素敵でした。
彼らの協力なしにはこの連載は実現できなかったので、感謝の気持ちでいっぱいです。
わたしが彼らを素敵だと讃えるそのわけは、この企画を「おもしろがってくれた」ということにあります。
もう本当にしつこくお伝えしていますが、この連載を始めたきっかけは自身の失恋でした。
わたしはあっけなく彼の「過去」になり、新しい女性が彼の「今」になったとき、その突然の変化に呆然としながらも、考えさせられたことがたくさんたくさんあって、わたしのこの答えなき冒険は始まったわけです。
彼をはじめ多くの男性たちにとって「過去」というものは、「無駄なもの」であり「ネガティヴなもの」であるらしい、ということを、わたしは今までの経験から学んできました。つまりはたぶん、男性にとって、この企画……「過去の女のことを語る」なんてことは、まるで価値のないことだと扱われるのではないか、そう思っていたのです。だから、きっとインタビューを受けてくれる人はとても少ないだろうと。
ここで先日見た(そしていたく感動した)、Netflixのオリジナル作品『ハンナ・ギャズビーのナネット』の話をしたいのですが、たくさんのジョークを重ねながら彼女は自身の辛すぎる過去や経験を語り、怒り、わたしたちに訴えかけます。「これはあなたの物語でもある」んだと。そんな中、ハンナが教えてくれたピカソの言葉があった。
「別れのたびに女を焼き払ってしまえ。その女の過去ごと破壊するのだ」
何が言いたかったかというと、素敵な彼らは、ピカソではなかった。
記憶の底にしまい込んでいた物語を大事そうに引っ張り出してきて、私の前に広げてみせてくれたのです。そしてページをめくってはそっと微笑む、みたいな調子で、わたしに語りかけてくれました(わたしは1冊の本やなにかを2人でのぞきこみながら楽しむ、ということが好き。同じ世界を共有する喜びを味わえるから)。彼らは自分の過去はもちろん、彼女たちのことも焼きはらい、破壊するなんてことはしていなかった。むしろとても大切にしている、そのことにわたしはとても安心したのです。
「過去」は大切なものだよ。だけど、忘れたっていい。
先ほども話したわたしの失恋のことですが、もうずいぶんと遠い出来事になりつつあります。悲しみや痛みは消えはしないけれど、「彼」の存在はもうほとんど幻のような感じです。思い出す頻度もだいぶ減ってしまいました。ケーキの残りカス、冷めてしまったコーヒー。そんな感じ。夢見るように美味しかったほんのひと時はもう過ぎ去ってしまった。
だけど、彼の存在も、いままでのさまざまな出会いや思い、言葉や温度やあらゆるすべてが、わたしの中に取り込まれ、この体ができているのだと、そう思い出すたびにほんの少し安心するのです。あ、ちゃんと過去があるんだって。
これからもしも(もしも!)、これから誰かと恋に落ちることがあったなら、わたしはその人の過去(HeのSheもね!)、あるいはその人の体ごとぜんぶぜんぶ抱きしめたい。
わたしはわたしの過去を、誰にも焼き払われたり、破壊されたりなんかしたくありません。
安らかな過去たちがたっぷり詰まったこの体を、大切にしたい。大切にし合いたい。
だれもの過去が焼き払われてなんかしまいませんように。
最後に、毎回魔法のごとく素敵なSheたちのポートレートを描いてくださったイラストレーターのカナイフユキくん、いつも優しく丁寧に、原稿をこの世に送り出してくださったShe is編集部のゆめちゃんマキちゃん。心からありがとう。大好きです。
みなさま、またきっとどこかでお会いしましょう。
忘れられないSheとそしてHeに乾杯!
秦レンナ