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第十二回:おかねにあう<foufou>

foufouの服は私たちに「いい値段」で届けられている

連載:前田エマ、服にあう
テキスト:前田エマ 編集:野村由芽
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私はおしゃれが好きなわけじゃない。私は好きな服を着るのが好きなのだ。今日という、ありきたりで特別な日々にときめきたいだけなのだ。心がぎゅんと掴まれる、そんな服を着るだけで、躍るような気持ちが身体を駆け巡る。その儚さを手に入れたくて、服にお金を払う。

foufou(フーフー)というブランドを知ったのは、1年くらい前のこと。Instagramを見ているときだった。シンプルでスタンダードな、それでいてとても洒落ている服。見つけた瞬間の興奮は、今でもよく覚えている。foufouを知り調べていくうちに、私はデザイナーのマールさんにものすごい親近感を覚えるようになっていった。

私は面白いものや楽しい出来事があると、すぐに周りの人にベラベラ話す。魅力をわかってほしくて、周りがうんざりするくらいしつこく力説する。
例をひとつ挙げるとすると、私にはとても好きなものがあるのだが、友人たちに興味を持ってもらいたいがために、それをプレゼンするための画像を常にスマートフォンにストックしている。その魅力が分かる動画を毎朝のように友人に送りつけたり、それが収められているDVDや本を、手書きのオススメポイントを書いたメモと一緒に無理矢理友人へ貸したり、それのファンが書いたブログのURLを解説付きで友人へ送ったりする。友人たちは若干引き気味なのだけれど、そのうちの数名はだんだんそれに興味を持ってしまって、けっこう話が盛り上がるようになっていくのだ。

foufouは通信販売で服を売るブランドだ。毎月3着ほど新しい服を発売するのだが、発売と同時に完売してしまうことが多い。マールさんは、自分の作る服をものすごい熱量でベタ褒めする。服の説明や発売のお知らせをするブログやInstagramは、毎回長文。「ギュンかわ」「ビッグラブ」などの独特な表現が並び、テンション高めの愛のある推しポイントが、こと細かに書かれている。服の欠点についてもきちんと書くところは、好きな人の弱い部分を愛おしそうに話す、アイドルファンのようでもある。月に一度のInstagramライブでは、マールさんがその月に発売される服について熱弁し、視聴者の質問に答えていく。
foufouのいちばんのファンは、おそらくマールさんだと思う。マールさんは、服の魅力を伝えるために、ほんとうに熱心なガチヲタクのような行動を、あの手この手で繰り広げる。その中でも私がなによりも驚いたのが「試着会」を開催することだ。

これは通称「ボスワンピース」と呼ばれているらしい。私は「シスターワンピ」と呼んでいる。試着会でSサイズとMサイズを着てみた。友達からはSのほうがピッタリだと言われたけれど、長めの裾をズルズルひきずってレトロな感じに着てみたかったのでMを購入。サイズの少しの違いで、だいぶ服の印象って変わる。

北から南まで全国津々浦々、いろんな場所のいろんな人たちに、foufouの服を携えて会いにいく。実際に服を手に取ってもらって、触れてもらって、着てもらう機会を作るのだ。その姿は、巡業するバンドマンと追っかけファンを、一人で二役こなすような、執念にも似た熱意が伝わってくる。
foufouの服は決して安くはないけれど、高くない。無理しなくても買える服だ。そして「この服が毎日にあったら、たのしいだろうな」と思える、飽きのこない嬉しさがある。

普通に見えて、普通じゃないってこういうことかもしれない。細かいところが洒落ている。黒のワンピースって、着る人の個性が強く出る。とりあえず無難だからという理由で黒を着ている人もいる。着る人によって、かっこいい黒も、かわいい黒も、色っぽい黒も、叶えてしまいそうな服。

foufouはブランドをはじめたときからずっと「健康的な消費のために」というコンセプトを掲げている。販売方法を、直接お客さんとやり取りできる通信販売に絞るということは、卸販売や実店舗の運営にかかる費用を、全国での試着会やよりよい品質の製品を作るためのコストに回すことができる。そうやって、foufouの服は私たちに「いい値段」で届けられている。うんと背伸びせずとも出会うことのできる服になるのだ。

服を買うということは、お金を失うということだ。
私たちの毎日は、いつだってお金を失い続ける。住んだり、食べたり、病気になったり、お祝いをしたり、誰かが死んだり、移動したり、学んだり、遊んだり。日々、仕事をしてお金が生まれ続けていても、自身の生涯収入の総額からは確実にお金を失っている。
私は遊ぶのが大好きだけれど、自他ともに認めるケチだ。週に一度は通帳記入をしに銀行へ行き、財布の紐をキツく締めなおす。いくつか口座を持っていて、使っていいお金と貯金を分けているし、自由業には命綱となる領収書集めはもはや趣味に近い領域になっている。ポイントが貯まる店を贔屓にしているし、ペットボトルは年に3本くらいしか買わないし(フェスの時などに買う)ひとりの時はタクシーには乗らない(他人のタクシーには便乗しまくる)。定期券を駆使し、2、3駅分歩くのだってへっちゃら。
そんなケチな私に心優しいfoufouの服は大きな熱意と、小さな努力の積み重ねで、毎日を気持ちよく躍らせてくれる。

foufouの服を着ると、いつもより動作がロマンチックに見える気がする。モノとしての服も好きだけれど、人が着て動いて完成する服も好き。これだけ布をたっぷり使っているのに2万円しない。踊りたくなっちゃうよね、くるくる~。

PROFILE

前田エマ
前田エマ

1992年神奈川県うまれ。2015年春、東京造形大学を卒業。オーストリア ウィーン芸術アカデミーに留学経験を持ち、在学中から、モデル、エッセイ、写真、ペインティング、朗読、ナレーションなど、その分野にとらわれない活動が注目を集める。芸術祭やファッションショーなどでモデルとして、朗読者として参加、また自身の個展を開くなど幅広く活動。現在はエッセイの連載を雑誌にて毎号執筆中。

高坂マール

1990年東京生まれ。
私立大学を卒業後、文化服装学院Ⅱ部服装科(夜間部)へ入学。
在学時の2016年、「健康的な消費のために」というコンセプトのブランド「foufou(フーフー)」を設立。消費することは悪いとされる時代に「最善な逃げ道」として心地よく選ばれ、ヘルシーに消費されたい服。提供する人たちの暮らしや価値観にいい影響を与えるという大義を持ってブランドを続けている。

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