少女漫画のジャンルは大きく二つにわけられると思っていて。(トミヤマ)
─最近では、日本の少女漫画や、海外カルチャーにおいて、さまざまな女性像が描かれていますよね。まず、少女漫画の変化について教えていただけますか?
トミヤマ:漫画に描かれる女性像は、加速度的に多様になっていると思います。そして、ヒロインが新しくなると、それに応じて王子様像も変わっていく。典型的な例は『俺物語!!』(原作:河原和音、作画:アルコ)で、とくにブサ専というわけではない主人公の女性が、ゴリラのような男性を本気でかっこいいと感じて恋をする話で、普通なら王子様になりそうなイケメンはあくまで脇役なんです。
トミヤマ:「かわいい=ヒロイン」という構造から脱した作品も増えていて、『能面女子の花子さん』(織田涼)なんて、能面をかぶって学校に通っている女性が主人公なので、顔が見えないんですよ(笑)。でも、それが物語のなかでも、漫画としても許されてしまっているのがすごくおもしろい。
山崎:「少女漫画=恋愛漫画」ではないんですね。
トミヤマ:そうですね。恋愛以外の大事なことにフォーカスする作品もたくさんあります。最近は、少女漫画ではなく女子漫画と呼ぶことも増えていて、読者の年齢層が上がっていることもテーマの多様化と関係しているのかなと思います。『傘寿まり子』(おざわゆき)は主人公が80歳のおばあちゃん。家に居場所がなくて窮屈な思いをしていたおばあちゃんが家出をする話で、漫画喫茶に行ったり、買い物を堪能したり。おばあちゃんが知らないことを知っていく喜びや、真実の幸せを本気で探す姿にグッときます。
山崎:そういった多様な漫画が出てきた一方で、いわゆる「ベタ」な恋愛漫画の状況はどのようになっているのですか?
トミヤマ:少女漫画は大きく二つにわけられると思っていて。一つ目は、王子様が迎えに来るようなシンデレラストーリーを職人的に描き続ける文化。「お互いが出会って、距離を縮めて、結ばれて……」というのが従来の少女漫画の王道ですが、そのセオリーを踏まえたうえで、その枠内で大喜利のように常に新しいパターンを考えて更新していく作家たちの技術は本当にすごいものがあります。
もう一つは、時代に合った新しいテーマを取り入れて、斬新な少女漫画を生み出す文化。これまでの価値観に違和感をもつ人たちが、時代を反映したり、ときには時代を先どりするような漫画を書いているのですが、時代を捉えるセンスはもちろん、歴代の漫画家たちによる画力の向上によって、新しい表現が視覚的に説得力を獲得しているという状況があります。
この二つは、どちらがいい悪いということではなく、どちらを好む人もいるし、それぞれの作品に需要があるということなんですよね。
媚びずに、嘘をつかずに、好きなものを好きと言って悪いことなんてないはずだから。(山崎)
山崎:インディペンデントとメジャーのどちらが尊いとか偉いという二項対立ではなくて、それぞれによさがあるんですよね。ガールズカルチャーには、驚くほどカラフルでパワフルな魅力があることを知ってもらいたいなというのはいつも思います。
トミヤマ:それで言うと、これまでの王道とは異なる「非・王子様系漫画」として『プリンセスメゾン』(池辺葵)を挙げさせてください。本作は、主人公の女性が居酒屋店員をやりながらマンションを買う話。年収が300万円に届かないので、キャリア女子ではないし、特別かわいいわけでもなく、王子様も現れない。それでも目の前の目標を大事に、誰かを愛するより前に自分を大事にすることで幸せを掴む主人公から元気をもらえるんですよね。
山崎:素敵な漫画ですね。話は少し変わるのですが、マガジンハウスの『Olive』って、もともとは『POPEYE』のガールフレンドマガジンとして誕生したので、創刊号(1982年)のサブタイトルは「Magazine for City Girls」。「オリーブ少女たちが知らないことをポパイたちが教えてあげよう」といった目線だったんです。でもそこから「Magazine for Romantic Girls」というふうに内容ががらりと変わったという経緯があって。「男の子のことよりも、女の子が自分で好きなものを見つけて楽しむことが大事だよ」という教えに当時本当に感動したんですよね。
トミヤマ:へえー!
山崎:私が10代だった頃は女性を主役に考える雑誌は少なく、おしゃれもわからない奥手な女の子が多かったんです。そんな時代に、男の子目線ではなく、女の子目線でかわいいものや楽しいことが書いてある雑誌に出会って、「好きなものを好きって言っていいんだ!」ってことが嬉しかったですね。すごく自由になった心地がありました。
トミヤマ:好きなことを好きと言えるのはすごく大切なことですよね。それって私は「勝手にする」ってことだと思うんです。みんなもっと勝手にしていいと思う。私が学生の頃は、『Olive』などの土壌があったおかげで、クラスにコギャルとオリーブ少女が混在しつつ、ともに「好きなものがある」という根っこの部分が一緒だから、共存共栄していて楽しかった(笑)。そういう体験を、人生のひとときに知ることができるといいですよね。
山崎:いまは自由はあるけれど、同調圧力の時代でもあるから、空気を読まない強さが必要ですよね。媚びずに、嘘をつかずに、好きなものを好きと言って悪いことなんてないはずだから。